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映画館を出たら雨が上がっていた。



今年の誕生日は、電車の中で迎えた。


大好きな友人2人が、前日だけど…ってサプライズで祝ってくれた。その帰り道。

ひとり、本を読んでいた。



ここ最近の誕生日を思い出す。
昨年は仕事。一昨年も仕事。

一昨年は、夜は母と2人でご飯を食べた。
始まったばかりの仕事が本当につらくて、泣き言を言って銀座のレストランでぽろぽろと泣いた。

昨年はなんとか慣れてきた仕事。同じチームの人が2人休み、バタバタと仕事を終えた。
その後学生時代の友達4人に急遽誘われ、カラオケに行った。とても楽しくて、そこで次の日声も出ないほど喉を潰したっけ。



今年の誕生日は何も予定がなかった。


またひとつ年を重ねてしまった。

思ったよりも好きなことはできているけど、本当にやりたいことってできてないと思う。
いつもいつも、理想のまま。
好きな人も、側にいない。


私、本当にこのままでいいんだろうか。

どうしようもないかなしさが、私の心を埋める。


家族、親戚、友達から届くおめでとうのメッセージ。

私、無理して笑ってなんかない。
ほんとうにうれしい。

でも、どんなにうれしくても、私のかなしい心を塗り替えてくれない。
黒にどんな色を混ぜたって黒だった。


前向きな性格な私は、いつも誕生日などの節目になると、その年の抱負を思う。
でも今年は、それができなかった。


誕生日の朝、3月からの自粛生活でお菓子作りが趣味になった私は、とりあえず自分のバースデーケーキを作るため、起きてすぐスポンジケーキを焼いた。
本当はケーキなんてどうでもよかった。そんな気分じゃない。
でも母が、今年はどうする!?って聞いてくれるから、作るの好きだから自分で作るよといっておいた。

飾り付けはあとで考えればいいや。

前日になんとなく予約した映画を観にオシャレもそこそこに電車に乗る。

その映画館には4.5回ほど観に行ってるのに、なぜか行くルートを間違え、本編が始まってる劇場へ入った。


暗くて席番号が見えなくて、必死に目を凝らす。初めての経験だった。

汗だらだらでようやく席に着くと、主人公らしき男の子が誕生日を祝われていた。

私は単純だから、なんだか今日この映画を観ることに意味を感じた。

カセットテープ・ダイヤリーズ



主人公のジャベドは、詩や日記を書くのが好き。でも、誰にも見せない。
だって、自信がないから、ゴミだから。でも、ブルース・スプリングスティーンの音楽に出会って変わる。そんなお話。


私も日記を書くのが好き。詩も好き。まだ見せる前の段階だけれど。ジャベドと一緒だ。
やっぱり、思っていることは思ったままではなく伝えたほうがいい。
本編を通して家族も大切にしよう、とぼんやりと思った。
あとやっぱり、音楽はすごい。これはもう私はとっくのとうに知っている。


映画館を出ると、雨は上がっていた。



少し歩く気分になったので、その足で気になっていた『イルマン堂』へ。

今は自粛営業中とのことで、おひとり様での入店以外お断りだった。
ちょうどいいやと思い入店する。


なんだここ、不思議な空間だ。(本当に、なんだここ。って思った)
薄暗くて、とてつもなく静かだった。

飲み物と、お腹が減ったのでスコーンを注文する。

席はコンクリート状のファミレスみたいな席。
席にある電球の明かりは自分で明るさを調節できた。

薄暗い、私しかいないように思える空間の中。
自然と、今思っていることを思うがままに考えた。


どうして私がこんな思いをしなきゃいけないんだ、どうして私だけタイミング悪くこんな目に合うんだ、私の何が悪いんだ、どうして、どうして。
ただ、自分が可愛いだけのわがまま。それはしてはいけないって、ずっとどこか思っていた。みっともないから。なんて言われるかわからないから。

だけど今は周りなんて関係ない、どう思われるかなんて知らない。
前置きをしてから何かを言うなんて、自分の頭の中ではしなくていい。

そうやってひとしきり考えた後、涙が出てきた。




帰宅したら、母がメロンを買ってきてくれていた。
メロンのショートケーキ食べたいな、って言ってたから。と。

そうだった。ケーキ作らなきゃ。

なんとなく乗り気じゃない私を見かねて、母が生クリームを泡立ててくれた。妹がメロンをくり抜いてくれた。私はそこでやっと、飾り付け。


準備だって洗い物だってなんだって、やりたくない。

そんな態度を全面に出していたら、
誕生日だからなーしょうがないなーって言って妹がやってくれた。

なんだか、たくさん甘えてしまった。
普段くれないのに、妹が誕生日プレゼントをくれた。
母が手紙をくれた。
父は私がなんとなく食べたいなーって言ったたんしゃぶを用意してくれた。

私、甘えてる。

前日に友人がくれた花束も、綺麗だ。


そう思ったら、ずん、と沈んでいた心が少しだけ軽くなった気がした。


大丈夫、大丈夫。きっといつかうまくやれるときがくる。
前向きに何かを思えないときだって、時にはある。


わがままを聞いてくれる人がいる。私を大切に思ってくれている人がいる。
そして、こうやって文章を書くことが、私を癒していく。

だから、大丈夫。

素直に甘えてしまえ。言いたいこと言ってしまえ。甘えたら、話を聞いてくれたら、ちゃんと感謝しよう。


もしかしたら、大丈夫ってただ言い聞かせているだけなのかもしれない。それでも。



キルシュ酒が多かったな、と反省点を言いながらケーキを食べる。
うん、大丈夫だ。

私はまたメロンのケーキを作りたい。



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友人からもらった花束と。


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