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睡眠の役割について考えてみよう

こんにちは。睡眠研究家みんたつです。

皆さん、毎日良く眠れていますか?全く寝てませんという人はいらっしゃらないと思いますし、当然ですが、私たちは寝なくては生きていけません。

とは言え、忙しいとついつい睡眠時間を削ってしまいがちかと思いますが、そもそも、私たちは一体何のために寝るのでしょうか?

今回はそんな疑問について考えていきたいと思います。

1.眠りの起源

何のために眠るのか?と聞かれれば休むためというのが間違いなく正解でしょう。特に人間であれば脳を休めるためと考える人も多いのではないでしょうか?

実は、眠りの起源を探る研究として、脳を持たない生物(原始的な神経系(散在神経系)を有するヒドラ)を調べた研究結果から、原始的な生物にも睡眠が存在することがわかっています。

【脳の進化よりも先に睡眠をメカニズムレベルで獲得していた】という話は非常に面白いなと思いました。

このことから、【脳を休めるために眠る】という以外の何かが睡眠にはあることがうかがえます。

九州大学基幹教育院の伊藤太一助教と金谷啓之 (研究当時本学理学部4年生・現在東京大学大学院医学系研究科大学院生)らの研究グループは、Ulsan National Institute of Science and TechnologyのChunghun Lim准教授らの研究グループと共同で、原始的な神経系(散在神経系)を有するヒドラに睡眠が存在すること、さらにその制御因子が他の動物と共通していることを発見しました。これらの結果に基づいて研究グループは、「動物が脳の進化よりも先に睡眠をメカニズムレベルで獲得していた可能性」を世界で初めて提唱しました。私たちの眠りの起源はどこに?〜脳を持たない動物ヒドラの睡眠制御機構を解明〜

2.イルカは睡眠時間ゼロ

人間以外の動物の睡眠はどうなっているでしょうか?

イルカや渡り鳥などは、泳ぎながら、飛びながら寝ることができるのだそうです。実際には全く寝ないというわけではなく「半球睡眠」といって、右脳と左脳を半分ずつ眠らせているそうです。

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画像引用元:渡り鳥とイルカの共通点。脳を半分ずつ眠らせて24時間フル稼働!/身近な科学

その他の動物においても、キリンは2時間睡眠、ゾウは4時間睡眠、、私のアイコンである、なまけものは22時間寝ているなど、動物によっても多種多様な睡眠のとり方があります。

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子どもたちにワクワクを!子どもが大好きな「動物」×「夜」をテーマにした、おもしろイラスト図鑑『夜のいきもの図鑑』(今泉忠明 監修)

哺乳類の仲間という点でみても、人間以外には長時間睡眠が必要な動物もいれば、ほとんど寝ないで済む動物もいるという違いは面白いなと思います。

3.断眠実験の結果

人間にとっての眠りの必要性を知るために、逆に眠らないとどうなるかを調べた研究があります。睡眠科学の分野で最も有名な記録は、サンディエゴの高校生ランディ・ガードナーが樹立した断眠時間264時間(11日間)というものがあります。

その結果から、断眠による影響として、眠気と倦怠感・誇大妄想・幻覚・視力低下や被害妄想、最終日のころには極度の記憶障害が生じていたそうです。しかし、身体面(首から下)には大きな問題は生じていなかったそうです。

また、この実験以外にも断眠にチャレンジした実験はあるのですが、その時には寝てないつもりでも、脳波の上では、ほんの僅かでも睡眠と同じような状態(マイクロスリープ)になっているという結果もあります。

短期であれ、なかなか完全に眠らないでい続けるというのは、通常は難しく、身体を守ろうとする本能が働くのではと考えられます。結果として、身体面へのダメージは少なかったのかもしれません。

4.睡眠障害と身体への影響

短期間の断眠とは異なり、長期にわたって寝ない、寝れないことは身体に様々な負の影響がでてきます。

長期間にわたる睡眠不足があると、主観的な眠気は軽減していくにもかかわらず、遂行能力は着実に低下し、血圧上昇や耐糖能低下が誘発されることがわかっている。※1睡眠障害の対応と治療ガイドライン_P39_眠りの必要性より

その他、病気などのリスクについては以下のようなことが挙げられています。

例えば、睡眠障害の代表的な例として「睡眠時無呼吸症候群(Sleep apnea Syndrome: SAS)」がありますがその影響について、下記のようなリスクがわかっています。

「睡眠時無呼吸症候群(Sleep apnea Syndrome: SAS)」患者はSASではない人に比べて、高血圧症、慢性心不全は約2倍、狭心症・心筋梗塞は2~3倍、不整脈は2~4倍、脳卒中に至っては約4倍も合併リスクが高くなるとされている。※2雑誌プレジデント_P25,「循環器領域における睡眠呼吸障害の診断治療に関するガイドライン

慢性的な不眠症の方は生活習慣病リスクも高くなる傾向があります。

慢性不眠症の患者さんもまた、「交感神経の緊張」「糖質コルチコイド(血糖を上昇させる)の過剰分泌」「睡眠時間の短縮」「うつ状態による活動性の低下」など多くの生活習慣病リスクを抱えています。入眠困難や中途覚醒・早朝覚醒など不眠症状のある人では良眠している人に比較して糖尿病になるリスクが1.5~2倍 引用元:睡眠と生活習慣病との深い関係

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画像引用元:睡眠不足や睡眠障害、子どもへの大きな影響

これ以外にも、がん、アルツハイマー病、うつなどといった様々な疾病との関連があるとされています。

5.スポーツ選手の睡眠との関係性

眠れないことによるリスクだけではなく、十分な睡眠による休息は、アスリートの競技力を向上するというメリットもあります。

スポーツ選手の睡眠との関係性を調査した研究では、睡眠を長くとることによる競技力の向上があることがわかっています。次のスタンフォード大学の研究が有名です。

 研究内容は、バスケットボール部員に毎日10時間以上の睡眠を約1カ月半に渡って、毎日とるように指示し、その間のバスケットボールに関するパフォーマンスの変化を記録したという研究です。10時間の睡眠を続けながら毎日シュートやダッシュ、反応速度のスコアをとり続けたところ、少しずつ向上が見られて40日近くかけて大きく伸びたそうです。282フィートダッシュ(約86メートル)では16.2秒から15.5秒。フリースローも10本中7.9本から8.8本に成功率が伸びたという研究結果があります。「CheriMah_EN_The Effects of Sleep Extension on the Athletic Performance of Collegiate Basketball Players」(2011)

また、エアウィーヴ社による、マットレスと運動能力の関係を調査した結果から、適切なマットレスの使用が運動能力向上にも作用する可能性があるということが示されています。

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画像引用元:睡眠ラボ

我々の研究は HR で睡眠を取ることは若年アスリートの運動パフォーマンスを向上させる可能性があることを示した。HR使用時の深い良質な睡眠は、
これらの被験者におけるより優れた運動パフォーマンスに貢献している可能性が高いが、本研究で用いた睡眠の評価方法(アクティグラフ、主観的
な睡眠評価)では、有意な差をとらえることはできなかった。高反発マットレストッパーが若年者の運動パフォーマンスに及ぼす影響についての評価(第 2 報)

睡眠時間を十分に取っているかどうか、適切なマットレスを使用しているかどうかだけで競技力の向上、ひいては大会での結果が変わってくる可能性があるというのは驚きですね。これらの調査・研究から、運動能力を発揮する上でも睡眠がとても重要であることがわかります。

アスリートに限らず、一般の生活者においても十分な量と質を確保した睡眠が身体能力の向上に寄与することは、よりよい生活を送るうえでとても大切なことだと思います。

6.睡眠中には何が起きているのか?

大きく分けると、身体の休息心の休息に分けることができます。そこで、影響してくるのがノンレム睡眠・レム睡眠といった睡眠サイクルです。

このノンレム睡眠とレム睡眠にはそれぞれ役割があるということがわかってきています。

ノンレム睡眠:脳も体も休んでいて、成長ホルモンの分泌が脳や肉体の疲労回復のために重要な時間。

レム睡眠:主に体の休息・脳は活発に活動しており記憶の整理や定着をしている時間

特に哺乳類の睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠から構成されます。これまでの研究から、ノンレム睡眠中に成長ホルモンの分泌が上昇し、逆にストレスホルモンの分泌が抑えられるなど、ノンレム睡眠が作り出すホルモン環境が身体の回復に寄与することが示唆されていました。引用元:睡眠中の脳のリフレッシュ機構を解明序文より

7.脳の休息にはレム睡眠もノンレム睡眠も大切

2021年8月に発表された筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)
京都大学大学院医学研究科(兼任)林 悠 教授の研究結果からレム睡眠中の脳のリフレッシュ機構が解明されました。参照:睡眠中の脳のリフレッシュ機構を解明

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図:レム睡眠中の毛細血管の血流の大幅な上昇を発見(画像引用元:睡眠中の脳のリフレッシュ機構を解明_日本医療研究開発機構サイトより)

しかし、脳の休息には、レム睡眠だけではなく、ノンレム睡眠(深い睡眠)も重要とされています。

ロチェスター大学の研究者たちが、脳が老廃物を排出する経路を発見し、「グリンパティック系(glymphatic system)」と名付けました。特にノンレム睡眠時にグリンパティック系の活動が盛んになり、効率的に老廃物が除去されることを明らかにしています。

ロチェスター大学の研究者たちが、「睡眠は深ければ深いほど良い」ことを実証した。発表によると、深い睡眠(ノンレム睡眠)の時に脳からの老廃物の排出が進むことがこのたびの研究で分かったという。引用元:深い睡眠に脳のデトックス効果があると判明――眠りが浅いとアルツハイマーのリスク上昇か 関連資料は※3

脳のリフレッシュによって、心の休息が、寝ないことによるリスクは、裏を返せば寝るだけで身体は自身を修復してくれていること、パフォーマンスの向上の可能性からは、寝ることが身体にポジティブな影響を与えていることがわかりました。

最後に

何のために眠るのか?

その答えは、眠ることによって、脳の休息・身体の休息ができていること。それによって、競技力の向上や様々な疾病の予防、記憶の定着など学習効率の向上にもつながっていることがわかりました。

これだけのメリットがある睡眠を積極的にとりいれることは、手軽で効果的な健康法でもあり、日々の生活を豊かにしてくれるものと言っても過言ではないでしょう。

サウナ・マッサージ・整体・ジムなどお金をかけて取り組む体質改善のサービスももちろん良いのですが、まずは眠ることを積極的に見直して、攻めの睡眠活用をしていくといいのではと思っています。

睡眠についてのお悩みなどお気軽にコメントやtwitterのDMなどでご相談ください。1か月プログラムなどに申し込んでみたいという方は以下のMOSHのサービスページからお問合せください。

眠りが変われば人生が変わる
睡眠研究家みんたつ

参考文献・雑誌

睡眠障害の対応と治療ガイドライン第三版※1

プレジデント2021.7.30号世界一の最新研究!睡眠革命

睡眠中の脳のリフレッシュ機構を解明

Not All Sleep is Equal When It Comes to Cleaning the BrainFeb. 27, 2019

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