見出し画像

秋の夜長はタルトを焼こう(Vol.2:フランス風のレモンタルト)

レモンとライムはかなり偉大。

フィンランドに来て、料理にハマり、とあるレストランに拾ってもらって修業して、その後ほぼOJTみたいな感じで料理人として色々なレストランで働かせてもらって来たのですが、自分にとって学ぶことが一番多かったのはおそらくヘルシンキのスペインバル風のレストランでした。

スペインとはいえ、世界一美食の街として知られるバスク地方のサン・セバスチャン(ミシュランの最高格付けである3つ星を獲得したスペインのレストランの7店のうち、3店がある街で、3つ星以外の星の数も合わせると、ミシュランの星は合計16!)出身のスーパーシェフプロデュースのもと始まったお店なので、バスク的な料理だったり、カナリア島の郷土料理だったり、フランス料理に影響を受けた料理だったりと結構多岐に渡っていて不思議なレストランでした。スターティング・メンバーとして働けたことは自分にとっての財産となりました。

スーパーシェフのハビエルは世界中を飛び回っていたので、あまりレストランに戻ってこれず、その後継者としてヤンネというフレンチ上がりのフィンランド人のヘッドシェフがやって来ました。ヤンネは英語で話さずフィンランド語でしか話さないし(職場はイギリス人、ロシア人、スペイン人、アルゼンチン人、メキシコ人、チリ人、日本人のわたしなど色々な国から来た人がいたので、ヤンネが来る前は英語でのコミュニケーションが主だった)、女性の料理人ではなく男性の料理人ばかり集めてミーティングしたり重要な変更点をシェアしたりとしていて、最初は何コイツ!!と思ってわたしも反抗したり「ちゃんとわたしたちにも話してください!」と主張したりとすったもんだあったのですが、2週間も経たないうちに誤解はとけ、とても仲良くなり(その時は半年くらいに感じたけど)、今でも会うと愛してるよ~!!と言うほど信頼し合える関係となりました。

そんなヤンネが教えてくれたことはいっぱいあって、例えばとにかく掃除をちゃんとすること。機能していて、成功しているレストランかどうかはキッチンの綺麗さにかかっている、というヤンネの持論は最もだと今でも思います。ヤンネと働いていた頃は、22時に仕事を終えて、深夜2時まで掃除して、家に戻って仮眠して、朝の6時に起きて7時に出勤という生活で、かなりきつい日々でしたが、その分大切なことをたくさん学べたし、友達もたくさんできたし、何よりヤンネに「きみはとても筋が良い。掃除もちゃんとするし、頭が良いし、言えばすぐ吸収する。ヘルシンキ一のレストランでも余裕で働けると思う」と言ってもらえたことがとても嬉しかったのでした(ただのお世辞かもしれないけどさっっ。それでも嬉しかったのさっっ)。

ほかにヤンネが教えてくれて、今でもわたしの中に根付いている教えに「人が食べ物を美味しいと感じる味覚の中で、過小評価されているものの中に酸っぱさがある」というものがあります。例えば、唐揚げや天ぷら、シュニッツェル、イタリアやスペイン、フランスの漁村で出てくる小魚や小さな魚介類をからっと揚げた料理をはじめとした揚げ物には、必ずといっていいほどレモンが添えられていますが、これはレモンに含まれる酵素に脂肪の吸収を緩やかにしてくれる効果があるため、この酵素の働きで代謝が促され、太りにくくなるといいます。

また、レモンに含まれるクエン酸が消化吸収を促進し、ビタミンCが血中コレステロールを下げて血糖値を抑えてくれるため、生活習慣病・癌の予防となる抗酸化作用が期待できるといいます。玉村豊男著『料理の四面体』でも、揚げ物にレモンをかけると酸化した油を中和する効果があり、体内に溜まって代謝を下げたり脂肪になってしまったりする作用を防ぐ効果があるということが書かれています。

東南アジアや南米ではレモンの代わりにライムが使われている場合も多く、ここでもやっぱり柑橘類の香りが食欲を促進させ、油っぽい料理を中和してくれています。玉村豊男氏は、日本でレモンにあたる働きをするものが醤油だと書いていますが(例えば焼き魚に醤油をかけるのは油っぽさを中和させるため)、梅干しなんかは日本の酸っぱい食べ物の代表格ですが、まさか醤油が酸味をもたらすものとして使用されているとは普段はあまり考えたりしないのではないでしょうか。わたしたちは普段から「酸っぱい」ものを、それと意識せず使ったりしているような気がします。例えばマヨネーズ。我が家ではいつもその場で自家製のものを使っていますが、基本的な材料はご存じの通り卵黄、酢、マスタード、レモン汁、サラダ油、塩。酸っぱいもの尽くしです。マスタードもケチャップも酢が入っているし、実はわたしたちは意識せず、酸っぱい調味料を使いこなしていたりするのです。

ヤンネがよく言っていたのは、「何か味が足りないと思ったら塩じゃなくてレモン汁をしぼるか、レモンの皮を削って加えるといい」ということでした。たとえばわたしたちのレストランには当時チキン・カネロニがあったのですが、ローストしたチキンと野菜を混ぜ合わせてフィリングを作る時はレモン汁と皮を大量に加えたものです。こうすることで、ベシャメルソースとチーズなどこってりとした味付けの中から、柑橘の爽やかな香りが浮き上がり、一気に一段上の風味となるのです。柑橘の力はすごい。え?こんなものに?というものにも合ったりする汎用性の高さが魅力です。

そのため、わたしのタルトの生地にもレモンの皮のすりおろしが入っています。こうすることで、たとえタルト自体がしっかり甘いものでも、生地を頬張るとほんのりと爽快な風味が広がり、食欲を促進したり、余計な脂っぽさを中和したりする効果があるのです。

今回のレシピはフィリングもレモン!さっぱりとした焼き菓子が好きな人にぴったりだと思います。是非秋の夜中に試してみてください。


🌠フランス風のレモンタルト(フランス語でタルト・オ・シトロン)🌠

≪タルト生地の材料≫(26㎝タルト型使用の場合)
・小麦粉(薄力粉)200g
・グラニュー糖大さじ3
・すりおろしたレモンの皮大さじ2
・無塩バター125g(さいの目切りにする)
・卵黄2個
・冷水大さじ2

≪タルト生地の作り方≫

①小麦粉、グラニュー糖、レモンの皮をボウルの中で合わせ混ぜる

②さいの目に切ったバターを加え、①に馴染むようにすり込む

③小さなボウルに卵黄をとき、冷水をしっかり混ぜ合わせたら、②にゆっくりと流し込み、手で生地をこねる。べちゃべちゃと手にくっつくようなら粉が足りないので、少しずつ足して調整する(※1)

④生地を丸め、ラップに包んで冷蔵庫へ

⑤生地は冷蔵庫で最短30分〜最長1日眠らせる

⑥綿棒で均一に伸ばした生地をタルト生地に敷き、フォークで底に10回程度穴を開けて再び冷蔵庫で30分〜3日ほど休ませる

⑦ オーブンを200度に設定し、重しをして(※2)18分ほど焼く。様子を見ながら、生地が焼けていたら取り出す

(※1)こね時間は短くてOK。2~3分で完了です

(※2)パイやタルトを焼成する際、生地が浮き上がるのを防ぐために重石を使いますが、一般的に使われるものはアルミ製のタルトストーンです。タルトストーンがない時は、生米・小豆・またはアルミホイルで代用可能です。わたしは生地の上にバイキングペーパーを敷き、その上に空の耐熱皿を置いてます

≪レモン・カードの材料≫
・卵黄4つ
・卵4つ
・砂糖150g
・レモン汁200cc(必ず生のレモンを絞る)
・レモンの皮のすりおろし2つ分
・無塩バター170g

≪レモン・カードの作り方≫

①卵黄と卵、砂糖、レモン汁とレモンの皮のすりおろしをボウルの中に入れる。

②鍋に水を入れ、沸騰させる。弱火にした鍋の上に①のボウルを浮かべて、水が入らないよう混ぜ合わせる

③全てが混ざったところに小さくサイコロ状に切ったバターを加え、10分ほど混ぜ合わせ、重くしっかりとカスタード状にする

④すでに焼きあがったタルト型に③を流し込む

⑤オーブンを180度に予熱し、④を入れて6分焼く

⑥オーブンから取り出したタルトを室内で30分ほど冷ます

⑦粉砂糖を振ったり、好きな果物やベリーを上に乗せて出来上がり!冷蔵庫に入れて冷たくして食べても美味しい

今回は我が家の庭に実る苺と花、粉砂糖をトッピングにしました。

秋の夜長、楽しかった昔の出来事に思いを馳せながら食べるのもいいかも。懐かしい思い出は、そのままで終わりじゃなくて、自分の中に永遠に生き続けていくものだと思います。レモンの重要性について学んだ超超超見習い料理人のわたしが、今もこのレモンタルトを焼いたり、揚げ物に絞ったりしては、レモンのすばらしさを日々噛みしめているように。

ちなみにキー・ライム・パイというライムを使ったとっても美味しいパイのレシピもあるのですが、それはタルトではないのでまたいつか。

Vol.3はアプリコットのタルトをご紹介します。

✿アーカイブ✿

秋の夜長はタルトを焼こう(Vol.1:キャラメルナッツタルト)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?