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紅い指先

こんにちは。
感染症が広がる前。当時住んでいた街の人々。帰宅途中に感じたことについてエッセイを書きました。


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都庁前を起点に、東京の地下を”の”の字を描いて走る地下鉄。建設費用を少しでも安くするためトンネルの断面を小さくした大江戸線は車内の天井がとりわけ低い。

背を丸め縮こまっていた乗客は、終点につくと解放された様にホームへ降り立っていく。

眠りこけている乗客は、なぜこんなにも青いのかと思う制服の警備員に叩き起されている。


ピッ、ピッと通過音を立てながら改札を抜けた人達は、左右に散り散りとなって前のめりになりながら家路へ急ぐ。


左にいくと駅の地下道直結のスーパーがある。たくさんの背中が交互に重なりあって店舗の入口を目指してゆく。


すでに買い物を終えた女性とすれ違う。つい指先に目がいってしまう。白いお買物袋が食い込む細い指。袋の重さで、第一関節の先が紅く染まっている。


肩には”C”を上下左右に反転させたブランドのバッグ、ノートパソコンが入ったと思しき長方形のカバン。思わず、すれ違いざまに心の中で「お疲れ様」。

 
1本で1kgある牛乳、じゃがいもや玉ねぎ。ゴツゴツとあちこちが出っ張った白いビニール袋からどんな夕食が生まれるのだろう。


「ただいま」の声と同時に玄関の床にずり落とされる白いビニール袋の先には、子供達の腹ペコがスタンバイしているのかもしれない。

 
そんな想像をしているうちにハッと思い出す。「そうだ、うちはお米が切れそうだった!」5kgの米を買いたいけれど、仕事帰りの私には重すぎて持てない。割高だけど、今日明日がしのげればと、1kg入りを購入してしまった。