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ある労働運動指導者の遺言 足立実の『ひと言』第84回「世界の大転換 NATOのユーゴ武力攻撃」 1999年7月1日

 わたしたちの職場のたたかいは労働者の生活と権利をまもる基本的なたたかいだが、労働者の生活は国の政治に影響されるし、日本は世界の動きに影響される。
 世界は青戸を中心に回ってはいない。だからわたしたちは世界の動きのなかに自分たちの利害を見いだすことを学ぶ必要がある。
 第二次世界大戦後、世界は資本主義陣営と社会主義陣営が対立して、「ソ連から侵略されたらみんなで守る」という口実でNATOという軍事同盟が生まれた。社会主義がわも対抗してワルシャワ条約機構をつくった。
 いま社会主義国は中国・ベトナム・朝鮮・キューバなどが残るのみで、力関係は大きく変化し、ワルシャワ機構も解散した。
 NATOも「侵略の脅威」がなくなったのだから解散してもいいのに、NATO首脳会議は「今後は域外にでる」と声明した。
 同じ時期に「専守防衛」のはずの日米安保条約が「新ガイドライン」で、「 米軍がやる戦争の支援をする」と性格を変えた。
 これは何を意味するか?
 アメリカが「ならず者」 ときめつけた国に、NATOと日本を動員して戦争をしかけ支配するという時代の大転換のはじまりを意味する。だからクリントンは「ユーゴは強いアメリカの勝利だ」と声明したのだろう。
 中国はユーゴ大使館爆撃をそういう観点で「丹念に画策された襲撃だ」と論評している。
 わたしたちは戦争への警戒心をたかめ、そのわずかな表れをも叩きつぶそう。(実)

(コソボ共和国の首都プリシュティナにはユーゴスラビア空爆を主導したビル・クリントン元米国大統領を歓迎する巨大な垂れ幕が掲げられた)

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・「世界は青戸を中心に回ってはいない」
青戸とは筆者の所属する合同労組、東京東部労組の事務所があった東京都葛飾区の街である。

・NATO
北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty Organization)
1949年に結成された西欧諸国の軍事機構。米国・カナダおよび欧州の資本主義国が加盟。冷戦終了後、東欧諸国が加わり、30か国で構成される(2021年現在)。最高機関は加盟国代表からなる理事会で、その下に北大西洋軍(欧州連合軍)を置く。本部はブリュッセル。

・ワルシャワ条約機構
1955年、ソ連とポーランド・東ドイツ・チェコスロバキア・ハンガリー・ブルガリア・ルーマニア・アルバニアなど東欧の社会主義諸国が、ワルシャワで締結した友好・協力・相互援助条約(ワルシャワ条約)に基づいて結成した軍事機構。北大西洋条約機構(NATO)の結成と西ドイツの再軍備に対抗するものだったが、冷戦の終結、東欧の民主化、ドイツの統一とともに、1991年に解体した。WTO(Warsaw Treaty Organization)

・「同じ時期に『専守防衛』のはずの日米安保条約が『新ガイドライン』で、『米軍がやる戦争の支援をする』と性格を変えた」

「新ガイドライン」については以下のコラムを参照されたし。

ある労働運動指導者の遺言 足立実の『ひと言』第82回「戦争前夜は誇張ではない! 日米安保ガイドライン」
https://note.com/minoru732/n/nbffc89729fa2

ある労働運動指導者の遺言 足立実の『ひと言』第83回「日米安保の解消・アジアとの連帯を!」
https://note.com/minoru732/n/n3fc8c7fba641

・「アメリカが『ならず者』 ときめつけた国に、NATOと日本を動員して戦争をしかけ支配するという時代の大転換のはじまりを意味する。だからクリントンは『ユーゴは強いアメリカの勝利だ』と声明したのだろう」
1999年3月24日、NATO軍がコソボ紛争において、ユーゴスラビアを空爆したことを指す。
これを主導したのが当時のアメリカ大統領ビル・クリントンであった。
参考

コソボ交渉決裂でNATO軍がユーゴスラビア空爆【1999(平成11)年3月24日】
https://media.rakuten-sec.net/articles/-/36509

・「中国はユーゴ大使館爆撃をそういう観点で『丹念に画策された襲撃だ』と論評している」
いわゆる「在ユーゴスラビア中華人民共和国大使館爆撃事件 」
1999年5月7日には、B-2がベオグラード市内に出撃、誤って駐ユーゴスラビア中華人民共和国大使館をJDAM爆弾で攻撃し、29人の死傷者を出した。
後に緊急会議が開催され、NATOやアメリカ合衆国連邦政府は、中国に対し誤爆を謝罪したが、当時中国は、セルビア側を支援していたため、故意に攻撃したのではないかという観測も報道された。
後に中国側は、これは意図的な爆撃であり、かつて中国がNATOによるハンガリーへの爆撃に反対したことへの報復ではないかと考え、アメリカに強く抗議した。
参考

アライド・フォース作戦(ここでは「在ユーゴスラビア中華人民共和国大使館爆撃事件」について触れられている)
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/アライド・フォース作戦

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1999年3月24日、NATO軍がコソボ紛争において、ユーゴスラビアを空爆したことを受けてのコラムである。
驚くほど現在のロシアのウクライナ侵攻の情勢と酷似している。
ユーゴスラビアにおいてはNATOが直接的な軍事行動(爆撃)をとったが、ロシアのウクライナ侵攻においてはNATOによる間接的圧力(ウクライナのNATO加盟)によりロシアを軍事侵攻への衝動を誘い出している。

今回のウ・ロ戦争を仕掛けたのは米国と北大西洋条約機構(NATO)に他ならない。ロシアの侵攻が始まる以前から、ウクライナは事実上のNATO加盟国に組み入れられ、米英の軍事顧問団や高性能兵器類を大量に送り込まれていた。NATOのとめどない東方拡大に追い詰められたプーチンが、窮鼠(きゅうそ)猫を噛んだ構図。
米国の傀儡としてロシアとの戦争を続けているウクライナは、私たち日本人の明日の姿でもあるのだ。その相手は中国が想定されている。

参考

<書評>『第三次世界大戦はもう始まっている』エマニュエル・トッド 著
https://www.tokyo-np.co.jp/article/202776

筆者の「わたしたちは戦争への警戒心をたかめ、そのわずかな表れをも叩きつぶそう」との指摘は20年たった現在でも私たちへの警鐘となっているのだ。

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