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2人とも、名字を変えずに結婚しました。〜前半〜

本当は「ようやく喉元過ぎた」という感覚で、このまま幸せな気持ちの中だけで静かに暮らしていたい気持ちもあって、この文章を書くかどうか迷った。

でも、私自身が苦しかった時、だれかが書いてくれたいくつもの文章に救われたから、次の誰かのためにも、自分自身の記録としても、頑張って書いてみることにした。

書いてみたら長くなったから記事を2つに分けることにした。

私が「経験したこと」に興味がある方は前半を、私が経験したことからの「考察」「起こしたアクション」に興味がある方は後半を読んでもらえたら。

0.「2人とも、名字を変えずに結婚しました。」

タイトルにしたこの一文。
結論からいうと、今の日本ではどちらかが名字を変えないと法律婚はできない。
なので、私たちはどちらも名字を変えず、「事実婚」という形を選択した
期待させてしまった人がいたらごめんなさい。

今回の文章は、結婚を決めてから事実婚をするまでに経験したことを、いち個人の目線で書き連ねてみる。

1.結婚を決めてから事実婚契約書にサインをするまで

パートナーに話す

結婚を決めた数日後に、私からパートナーに「名字、変えたくないんだよね」と言った。以前からぼんやりと考えてはいたものの、いざ具体的に結婚の話を進めることになったら、早めに言わないといけないと思ったから。

パートナーがどんな反応をするか不安で、周りに人がいるタイミングを狙って勢いで言った。パートナーは「そうなんだね、話してくれてありがとう。どんな形が考えられるか一緒に考えよう」みたいなことを言ってくれた記憶がある。まずは反対されなかったことにほっとしたと同時に、ここから私の検索スイッチが入る。

とにかく調べる

通勤電車の中で、「結婚 名字変えたくない」「事実婚とは」「事実婚 メリット デメリット」と検索ワードを変えながらとにかく調べまくった。事実婚はリスクもデメリットもあり、幸せな時期のはずなのに気持ちがぐわんぐわん揺れ始めたのがこの頃。

Google検索ではあんまり個人の経験が出てこなくて実際のところどうなのか分からず、検索先をnoteに変更。ここで運命的な記事に出会う。それが應武さんの記事。

應武さんの記事は、事実婚のメリット・デメリットだけでなく、どうして事実婚を選んだのか、周囲の反応、事実婚をするための手続きについてとても分かりやすくまとまっていた。

パートナーとの話し合い

noteで見つけた記事や、Google検索の結果を参考に2人で話し合った。自分のアイデンティティに触れたり、どちらかに何かあった時の最悪の場合のことまで想定しないと考えられなかったりして、私は毎回、涙を流しながら話していた。

この頃の私は、「私が名字を変えればこんなことで悩まなくて済むのかな」「名字を変えてしまった方が楽なのかな」「私がこだわりすぎなのかな」と落ち込んでは、そうじゃないと応援してくれる人の言葉を探して、なんとかメンタルを保っていた。福島瑞穂さんの本もその一つ。

パートナーの名字に自分の名前をくっつけて、「私はこの名前」、とイメージして数日過ごしてみたりもした。でもやっぱり無理だった。

一つの名前としては素敵だけれど、「それは私じゃない」という感覚が拭えなかった。

順応できない自分が悲しくて、話し合いの結果次第で自分の名字を失うかもしれない状況がこわくて、一人で駅から家まで涙をこらえながら歩いた日もあった。

事実婚にすると決める

最終的に、私はやっぱり名字を変えたくないという気持ちがまとまり、パートナーも、姓を継いでほしいという家族の意思を尊重したいという気持ちがあって、2人とも名字を変えないことにした。

私は、私自身が鈴木美乃里、という名前でありたいと同時に、パートナーにも名字は変えてほしくなかった。〇〇〇〇という名前のパートナーこそが私のパートナーだと思っているから。

決め手になったのは、先ほど紹介した應武さんの記事と、パートナーからの提案。

私たちが事実婚にするかしないか考えている間に、應武さんは子どもが生まれた時の手続きについても記事を出してくださった。

事実婚のデメリットの中には子どもを授かった時のリスクがあるけど、應武さんはすでに色々な制度を使ってクリアしていた。「私たちにもできるんじゃないか」と思わせてくれた。

パートナーからは、将来、もしも事実婚で困ることに直面した時には、婚姻届を出すことを提案された。「そうなった時には自分が名字を変える」とも言ってくれた。

「そうは言っても急にどちらかが意識不明の重体になった時は...?」完全には不安は拭えないまま。でも、完全に不安を拭うことができないのは、事実婚をしている他の方のTwitterなどを読んでいて知っていたので、仕方ない、と飲み込んだ

親への説明

私の両親には私から、パートナーの両親には2人揃って説明した。パートナーの両親には事前にパートナーから話をしておいてもらってから話す場を設けた。

事前に大丈夫と言われていたものの、ご両親の意向次第ではこれからの自分の名字が左右されるのかもしれないと思うと、この日もかなり緊張した

事実婚契約書の作成

事実婚を選択肢に入れ始めた時から、契約書は作成したいと決めていた。個人的には、高校生の時に契約結婚という形があることを知った時から、もともと結婚にあたって何かしら2人で約束事を確認したいと思ってもいた。

上で紹介した應武さんの契約書をほとんどコピーさせてもらい、数箇所だけ自分たちの言葉を入れて作った。

住民票の手続き①

事実婚では、2人の関係を公的に証明する手段の一つとして、2人の住民票を同一にする世帯合併の届出を行うのが一般的。どちらかが「世帯主」になり、もう一方は「夫(未届)」または「妻(未届)」と記載する。

ただ、ここで初めて自分たちでコントロールできない壁にぶち当たる

世帯合併の手続きをするために必要な書類を念のため確認しておこうと事前に市役所に電話をしたところ、「婚姻届を出す予定がないのであれば、夫(未届)のような記載はできない」と言われたのだ。

「婚姻の意思はあり事実婚契約書を締結し事実婚をしたいこと」、「選択的夫婦別姓が認められればすぐにでも婚姻届を出したいが今はいつ認められるかわからないため出せないこと」を伝えると、「婚姻届を具体的に近い将来出す人であればそれまでの期間、夫(未届)という記載にしておくことは可能だが、現状別姓では婚姻届を出せないため、具体的な日にちが定められないことになり、そのような記載はできない」と言われた。また、「"選択的夫婦別姓が認められたら" というのも、最近議論が始まったばかりで、法律で定められることが決定しておらず、白紙になる可能性も含むため認められない」とも言われた。

今これを書くために思い出すのも辛いくらい、この時の私の気持ちはボロボロだった。

選択的夫婦別姓の議論が「最近始まった」だなんて、なんて世間知らずなんだろうと思った。

この時、私が交渉するために使った資料は以下の通り。
沖縄県那覇市のHP:事実婚の場合、住民票はどちらかを「夫(未届)」もしくは「妻(未届)」にできますよ、という内容をHPで公開している。
住民基本台帳事務処理要領の記載:内縁の夫婦は、法律上の夫婦ではないが準婚として各種の社会保障の面では法律上の夫婦と同じ取扱いを受けているので「夫(未届)、妻(未届)」と記載する、と記載がある(p.10)
内閣府男女共同参画局総務課調査室の研究会資料:事実婚の場合、住民票の記載は「夫(未届)/妻(未届)」とする、との記載がある(p.1, 8)

何度も上席の方に代わってもらいながら電話口でこれらを引用し、「夫(未届)」などと記載できない法的根拠を教えていただくようお願いしても、「〇〇市の解釈としては先ほどからお伝えしている通り」「年金などの手続きなどがあることは承知しているが、市内の手続きは『同居人』という記載で事足りるためそれ以上のことは想定していない」と言われた。

居住市は約2年前にパートナーシップ宣誓制度を導入し、同性婚も事実婚も応援しています、というメッセージを発信しているにもかかわらず。

「市内の手続きはこれで事足りるから」ってどういう論理?

「〇〇市の解釈として」というのは、仕事で何度も聞いたことがあり、それ以上は突っ込めないということを知っていた。また、これだけの根拠を以てしても頑なに不可能だと言われるということは、そう簡単にこの解釈を覆せるものではないことも悟った。

ただ、私はここで引くわけにはいかなかった。ただでさえ法的に守られていない結婚の形を証明する重要な記載なのだ。

とにかく引き下がらず電話を切らないでいると、上席の方に「大きな声では言えないが、夫(未届)という記載をした後に実際に婚姻届を出しているかを確認したり、出してくださいと強制力が働くものではないため、窓口で『出す意思はある・いずれ出そうと思っている・日取りはまだ先だが会社で必要なため』などと言ってもらえれば変更は可能です」と言われた。

なんだよそれ。

住民票の手続き②

私は、電話でのやりとりにもう疲れ切っていたし、「背に腹はかえられぬ」と思い、言われた通りに手続きに行くことにした。

そこでまた事件が起こる。

後日、市役所に到着して世帯合併の申請書を書いて窓口に行くと、やはり電話で言われたのと同じことを言われ、すっきりしない顔で「確認してきます」と言われた。

待つこと約30分。生きている心地がしなかった。

ようやく呼ばれて住民票を受け取る時に、ダメ押しで「今後状況によっては『同居人』という記載になることもありますのでご認識ください」と言われた。

....状況によって?勝手に住民票の続柄を変えられることなんてあるのか?今後、住民票の手続きをするときにまた同じようなやり取りをしなければならないのか?

もう私のメンタルはズタズタだった。

パートナーシップ宣誓

住民票の手続き②と同じ日に、市役所でパートナーシップ宣誓をする予約をしていた。ズタズタのメンタルで泣きながらお昼ご飯を食べ、改めて市役所へ。パートナーシップ宣誓は事前にHPで確認していた通りに進んだ。

宣誓に立ち会ってくださった方に住民票の手続きの話をすると、「勝手に続柄が書き換えられるなんていうことは聞いたことがないです」「私たちもパートナーシップ宣誓制度を作って間もないので、今度皆さんにアンケートをお願いしようと思っていて。そこにもその話を書いてくれませんか」と言われ、少し気持ちは落ち着いた(後日届いたアンケートにはしっかり全て書き込んだ)。

ただ、いま思い返しても、次に住民票の手続きに行く時が不安で仕方がない。

【急募】
もしこのnoteを読んでくださっている方の中に、事実婚の手続きについて専門にしている法律家の方がいらっしゃったら、住民票の記載について力を貸してくれませんか。

自治体の「解釈」で、事実婚夫婦の住民票の記載を「夫(未届)」もしくは「妻(未届)」とすることができない可能性はあるのでしょうか。
「解釈」と言われたら従うしかないのでしょうか。
今後住民票の手続きに行った時に、婚姻届を出していないことを指摘されたらどう対応したらいいのでしょうか。
コメントなどでご連絡お待ちしています。

2023.09.21追記

居住市で、事実婚の場合の住民票の記載方法が見直されることになりました!!!
市役所の方との電話口で「選択的夫婦別姓はいつ認められるか分からないため婚姻届を出す前提といえず、その場合は『夫(未届)/妻(未届)』のように記載できない」と言われた昨年12月。

悲しみの中、藁をも掴む思いで連絡した市議会議員さんが複数回に渡り議会で取り上げてくださり、本日の本会議にて市から「婚姻届を提出する予定がない事実婚の方々についても、『夫(未届)』又は『妻(未届)』との記載を行っていくよう、対応を見直」す旨の回答をいただきました!!

いち市民の声を丁寧に聞き取り議会で取り上げてくださったこと、本当に涙が出るくらい嬉しいです。一般質問の中では、私が議員さんにお伝えした経緯や気持ち、参考資料などを満遍なく取り上げ、熱のこもった質問をしてくださいました。議会中継はリアルタイムで見ました。

「次に住民票の手続きに行く時が不安で仕方がない」と思っていた私に伝えたい。
「声を上げ続けたら、社会が変わったよ!」
本当に本当にありがとうございました。
次は、選択的夫婦別姓の実現を目指して。

事実婚契約書の締結

事実婚契約書は、作成方法も締結方法も様々なパターンがある(詳細は上記、應武さんのnoteを参照ください)。私たちは自分で作成し、公証役場で公証人の方に認証してもらう方法を選んだ。

事前に認証してもらう日時を予約して公証役場へ。内容をチェックしてもらい、公証人の方の前で一人ずつサインをした後に、公証人のサイン入りの証書を付けて製本してもらい完了。

いくつもの困難を乗り越え、無事にパートナーと結婚できた。本当に嬉しかったし、同時にほっとした。

よく見る婚姻届との写真は撮れないので、契約書を持って記念撮影をした。

2.まとめ

改めて思い返しながら書いていて「私、泣きすぎだな...?」と思った。
嬉しくて幸せなはずの結婚の手続きが、不安だったし悲しかった。

「なんで私はそんなに泣いたのか?」について分析をしてみたのが後半のnote。

私はただ泣き虫で泣いていたのではなくて(普段は滅多に泣かない)、結婚を決めた時に受けた名字についての周囲からの反応や、自分が女性として受けている抑圧など、私の悲しみの背景には、私の周りの人の反応や社会構造があった。

今回のnoteでは登場が少なかったパートナーと私が選択的夫婦別姓について話したことや、私が選択的夫婦別姓の実現に向けて微力ながらも起こしたアクション、これからやろうとしていることについても書いたので、よければ。

それでは。

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