孤独

「寒くない?」
鼻を真っ赤にして彼は私にそう語り掛けてきた。
「寒くないよ。まだ秋だよ?」
「もうほぼ冬だよ。ってか冬の海ってこんなに寒いの?知らなかったんだけど。」
「私、冬の海来たの初めてだからなぁ。」
「嘘つけよ。」
「ほんとだよ。」
私たちは二人して笑い合った。
寒いはずなのに何故か心は温かかった。
「今更だけど、なんで冬の海に来たの?しかも夜。」
その言葉にキョトンとした顔をした後、視線を海へと向ける。
「うーん。そうだなぁ。」
返答に困り、言葉を探していたが諦めて口を開いた。
「似てるから、かな。」
「何が?」
彼は不思議そうに私の顔をのぞきこんできた。
そんな彼を見て笑い、私は海を見つめる。
「冬の海と、ね。」
その言葉を聞いた彼の表情はどことなく寂しそうだった。
「私ってさ、たぶん孤独癖があるんだよ。」
「孤独癖?」
「うん。まぁ簡単に言えば自ら孤独でいようとする傾向の事。」
「そんな言葉あるんだ。」
「私もね。最近知ったの。」
幼い頃から人と関わることが好きではなく友達が多い訳でもなかったし、恋人と呼べる相手を作ろうとすら思わず生きてきた。
「それと、冬の海がどう似てるの?」
「孤独じゃない?冬ってだけなのに人は海に来ようなんて思わないでしょ。だから、そこが、似てるかなって。」
上手く言葉に出来ずに笑って誤魔化してしまったが彼は黙り込んでしまった。
眉間にシワが寄っているって事は深い考え事をしているらしい。
「でも、君には俺がいるじゃん。」
少しの沈黙の後にそう言ったからそれに呆れた笑いを返す。
「いや、この世に居ない人に言われてもね。」
「お、こりゃ何も言い返せないや。」
「お盆でも命日でもない時期に来て何してるの。」
「何してるのはこっちのセリフだよ。膝まで海に入って。自らなんて許さないよ。」
「なんで心決めた日に来ちゃうかな。」
「慌てて神様に土下座して降りてきたんだよ。」
「だって、君がいない世界は私にとって何の意味もないから。」
「意味がなくても生きてもらわなきゃ困るよ。」
「思い返すと一人でいる私に声をかけて傍に居たのは君だけだったよ。」
「そうだったね。懐かしいや。」
「……ねぇ、私には君しか居ないなら。それは海にとっての月みたいな物じゃない。」
「何を言いたいか分からないけどとりあえず頷いておくね。」
「だったら、君が生きていた時に月が綺麗ですねって言ってたらなんて返してくれた?」
「月はずっと前から綺麗だよ。」
考える時間もなく、そう言われ目頭が少し熱くなる。
「生きてる時に、言えたら良かった。」
「うん。俺もそう思うよ。」
もう触れることさえ叶わない手を重ねて私達は顔をくしゃくしゃに歪ませた。

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