無口な約束

桜の根元には死体が埋まっている。

彼から実際に掘り起こそうと誘われたのは夜も随分深くなってからだった。

「いや、迷信でしょ。そんなの。」
「やって見なきゃ分からないじゃん?」
「まあ、そうだけどさ。」
足元にあったシャベルを拾い上げる。
「掘りたいなら一人で掘ればいいのに。」
「二人でやったほうが早いでしょ。どうせ暇なんだから付き合ってよ。」
「はいはい。分かりました。」
そうして二人して桜の根元を掘った。
しばらく掘り進めては見たものの桜の根元に埋もれた死体なんてものはない。
そもそもあの言葉は確か小説か何かの言葉だった気がする。
「なにもでないね。」
桜の根元には死体など埋まっておらず、土を掘る音だけが響く。
「そうだね。まあ、死体なんてこんな簡単に見つかるものじゃないと思うけど。」
私の言葉の後に彼はシャベルを放り出すように置いた。
「休憩しようか。」
私も彼の言葉に従ってシャベルを置いた。
そうして桜の木を背にして座り込んだ。
「なんでまた急にこんな事思いついたの。」
「何となく。」
「理由ないのに付き合わされてるの?」
「いいじゃん。幼馴染みの仲だし。」
「幼馴染みだからってこんな深夜に呼び出すのはいかがなものかと。」
「ごめんって。」
「死体。見つけたかったの?」
そう聞くと彼は微笑んだ。
その顔は見たことがないくらい澄んでいる。
「いや、あるとは思っていないし、単純に非現実的な事を期待していたんだと思う。」
「非現実。」
「現実から目を逸らしたいから夢を見たかったのかもね。」
その言葉がなんだか切なくて私は言葉を失った。
「あんまり難しい顔しないでよ。」
彼は私の眉間に指を当てぐい、と押し付けてきた。
その動作にムカついて彼の肩を殴った。
すると何が面白いのか彼がヘラヘラと笑って私の手を退ける。
「そろそろ帰ろう。お腹空いたな。」
「ラーメン。」
「奢らせていただきますよ。こんな深夜に土を掘り起こす作業手伝わせたんだし。」
「当たり前だよ。」
そう言って肩をまた殴る。
桜の花びらが舞う夜はもう春の終わりを感じさせる。
「いつになっても私を忘れないでね。」
「なに急に、変なの。当たり前だよ。」
この願いは叶わないことを。私は知っている。
それでも、願ってしまうのだ。
桜の花びらと共に飛んでしまえたら楽なのに。

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