六割

体の六割が水分。
と、テレビの画面から聞こえてきた。
「六割。」
言葉を反復してソファに深く腰を沈める。
幼い頃に聞いた話だけど改めて聞くと多いなと思う。
ほぼ水分じゃん。と思うのは幼い頃から思考回路が変わらないからなのかなと窓越しに降り続ける雨を見る。
先程は小雨だったのが今はテレビの音をかき消す程の雨音に変わった。
「六割、かぁ。」
水は一番身近で簡単に人を奪っていく存在。
そう思っている。
だけど、水を羨ましくも思う。
あの人の体の中の六割を得て。
あの人の体に触れることができる。
「水になりたい。」
タイミングを見計らったように鳴る携帯を手に取って画面を見る。

『今から家行っていい?』

大雨だけど?と思いつつ断る必要性もないからOKのスタンプを送る。
部屋の温度で水滴が付いたコップを掴んでキッチンで片付ける。
あの人が好きだと言ったお茶もスープもある。
あと何か必要なものは?と考えながら視界に入った流れる水に少し苛立ちを感じて力強く握りしめる。
掴めるはずのない水が私の手を濡らしていくのを気の遠くなるような孤独を感じて舌打ちをした。

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