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本物の答えは近くに、ただしヒントは遠くにあるもの。|茶師・田口雅士さん

美濃加茂茶舗は、美濃地方に残る茶葉と器の文化から生まれた新しい日本茶ブランドです。オリジナルの茶葉と、お茶を楽しむためにセレクトされた器を取り扱っています。

そんなわたしたちが、最初にみんなで決めたことがありました。
それは、「違いを面白がる人」や、「本物をわかろうとする人」に寄り添うこと。

そもそも、物事の本質や本当に良いものを「わかる」瞬間って、そうそう訪れるものではありません。

だけど、わかりたいから、わたしたちは良いものを求めるのではないでしょうか。そして、お茶だってそのひとつなのかもしれないな、と。

それなのに、どうしても敷居が高く感じられてしまうのがお茶の世界です。「わかりたい」人に、もっと軽やかに本物を届けたい。

そんな美濃加茂茶舗として、このたび「みんなで本物を考えていくメディア」をはじめてみました。

美濃加茂茶舗の店長・伊藤尚哉といっしょに、本物を知る人のお話に耳を傾けていきませんか?


〈今回の「本物を知る」人〉

田口雅士
「美濃白川茶」の産地 岐阜県東白川村の茶農家に生まれ、幼い頃から両親のお茶と向き合う姿を見て育ち、高校卒業後は国立茶業試験場(現野菜茶業研究所 金谷茶業研究拠点)研修生として2年間茶業の基礎を学ぶ。その後 静岡県の茶商へ就職。22歳で地元東白川村の第3セクターである (有)新世紀工房へ就職。以後茶師としての技術を磨き続ける。

〈聞く人〉

伊藤尚哉1991年生まれ。24歳のときに急須で淹れる日本茶のおいしさに魅了され、2016年から名古屋の日本茶専門店・茶問屋に勤務。2018年に日本茶インストラクターの資格を取得(認定番号19-4318)したことを機に、お茶の淹れ方講座や和菓子とのペアリングイベントなどを企画。2019年「美濃加茂茶舗」店長に就任。


初回であるこの記事は、美濃加茂茶舗を立ち上げるきっかけになった茶師の田口さんと、店長・伊藤の対談です。

美濃加茂茶舗の茶葉の生産地である岐阜県・東白川村へ足を運び、田口さんにお話を伺うことに。

普段からお茶について語らう機会の多い2人。
岐阜県・東白川村へ出向いて機会を設けた今回、伊藤が田口さんにまず聞いてみたかったことがありました。


「表現の可能性」が広がった“出逢い”

伊藤:僕、ずっと不思議に思っていたことがあって。

田口さんは業界でも有名な茶師でいらっしゃるのに、どうして僕らのような若者のためにこんなにも力になってくれるんでしょう?

美濃加茂茶舗オリジナルのブレンドだけじゃなく、ときにはメニューの相談やお茶屋としての在り方まで相談に乗っていただいて本当に感謝しているのですが、「なんでこんなに?」って思うんです。普段はこんなこと聞けないんですけど…。

田口さん(以下、田口):あはは。ここまで熱意を持ってお茶が好きで、発信していこうと思っている美濃加茂茶舗のメンバーの姿が、つくり手としては嬉しかったんだよ。

最近は商品そのものだけじゃなく、その背景にある人や思いに魅力を感じて買ってもらう流れがあるじゃない?

そんな新たな時代のなかで、お茶農家で生まれ育った自分にはない「表現の可能性」を持った人たちだなと思ったから、出逢って惹かれたっていうのはあるね。

伊藤:そもそもの出逢いは、去年田口さんが登壇されたIDENTITYのイベントにたまたま僕が足を運んで、白川茶の魅力を知ったのがきっかけでしたよね。

実はそれまで、白川茶って産地としては大きくないし、あまりメジャーなイメージもなかったんですが…田口さんのお話を聞いてすごく興味を持ったんです。

田口:伊藤くんはそのあとこの東白川村まで会いにきてくれたもんね。

伊藤:あのときはただただ一人旅で田口さんにお会いしに来ただけだったのに、翌年一緒にお店をできるなんて想像もしていませんでした(笑)

田口:たしかに。たまに会いに来てくれる人はいるんだけど、最近出逢ったお茶好きの人のなかでは伊藤くんが一番若くて、そのときは純粋に「嬉しいな」と思っていたけれどね(笑)

伊藤:感慨深い…ありがとうございます。では今回は改めて、田口さんが今のような茶師になるまでに、どんな人生を歩んできたのか教えてください!

お茶の世界で仲間と出会うまでは、「流れ」で選んだ道だった

伊藤:田口さんは、静岡の国立茶業試験場でお茶の専門知識を学んでいると思うのですが、いつから茶師になろうと思い始めたのでしょう?

田口さん:それでいうと、もともとは茶師になろうと思って進んだ道ではなかったんだよね。お茶農家の長男に生まれた宿命みたいなもので、なんやかんや言っても家を継いだり、手伝うことからは離れられないんだろうな、と。

進路選択のときに高校の先生が「お前んちお茶農家だったよな」といって紹介してくれたのが茶業試験場だったから、そこに入って仲間と出会うまでは、流れに身を任せてきた感じで。

伊藤:お茶の専門学校って、実際にどんなことを学ぶんですか?

田口さん:お茶の栽培から、科学的な知識まで幅広く勉強するんだけど、そうやって学んでいく中でどんどん面白さに気が付いていって。

全国で活躍している茶師の諸先輩方の存在が見えてきて、「自分も今後そういうことをやっていくんだ」という自覚と「お茶業界に秘められたいろんな可能性の中で生きていけるんだ」というワクワク感を抱きはじめたんだ。これが20代前半くらいのことかな。

伊藤:面白さに気がついた明確なきっかけはあったんでしょうか?

田口さん:というよりも、自分と同じ境遇の仲間と一緒に学べたことが大きかったと思う。そこで初めて、いままでの呪縛が溶けてきて。

でもこの頃に抱いていたのは、「茶業そのもの」に関しての第一段階的な面白さだったかな。在来種の品種とか、おいしいお茶の育て方とか。

伊藤:そこからさらにステージを上がった面白さもあるってことでしょうか?

田口さん:そうだね。今一番感じている面白さは、それこそ美濃加茂茶舗のように新たな可能性を秘めている人たちと文化を切り開いていくこと。

ただものづくりをしているのではなくて、お茶を人々に届けるための入口と出口の両方に関わっていけるのが、今のやりがい。

あまりデカいことは考えていないけど、この地で茶業をして家族と暮らしていくなかで、文化ができていくのを感じるのはすごく楽しいよ。

自分の中の「ものさし」は時間ともに変化する

伊藤:そう思ってもらえて嬉しいです。僕らは田口さんがいてこその美濃加茂茶舗だと思っているから。

田口さん:でも、こんな風に感じられるようになったのは本当にここ3年くらいのことで、それまでは長いトンネルに入ったような時期もあったんだけどね。

伊藤:そうなんですね…。

田口さん:茶を作って淹れるという、そこだけの考えになってしまっていた時期はあったね。今まで茶農家で育ってがっちり勉強もしてきたからこそ、「正しさ」や「本物」に対するたった一つの“ものさし”しか自分の中に持ち合わせていなかった。

伊藤:「たった一つのものさし」かぁ。それが田口さんの中でお茶に対する判断基準になっていたんですね。

田口さん:そうだね。でも色んな人に出逢って自分の茶を世に知ってもらえることで「ものさしの形は、ひとつじゃなくてもいいんだよ」ということに気づかせてもらえた。お茶はもっともっと自由だし、そこから新しい文化も出てくるはずだって。

伊藤:田口さんのすごいところって、本質的なお茶の知識や技術がありながらも時代や周りの人たちに合わせていけることだとずっと思っていたのですが、そんな経緯があったんですね。

田口さん:その年だったり気分だったりで、いいと思うものって違っていいんだよ。だから、「変な形のものさしでも良いじゃん」という風に今は考えが変わったのかもしれないね。

伊藤:でも、田口さんは茶師として茶葉の選定やブレンドをして、いわば最終的なお茶の味を決めていく役目ですよね。どんなものさしであれ、「本質的な良さ」みたいな判断軸をお持ちなはずで。

これこそが茶師としての個々人の哲学だと思うんですが、それはだんだん固まっていくのか、ある時に突然決まるのか、どっちなんでしょう?

田口さん:前提として、答えは毎回同じじゃないと思ってる。でも「こういうものを作りたい」と思った理想に近づけていく腕は、徐々に蓄積されてきたものかもしれないね。

美濃加茂茶舗のお茶も、それこそ「わかりたいけど敷居を感じでしまう人たちに飲んでほしい」という思いを元にして考えたり。

だから、農作物としての「こいつら(茶葉)」にはリスペクトしている。こいつらがいないと自分たちは表現できないから。

伊藤:たしかに、素材自体が上質だからこそ、表現の幅も広がる気がします。


「これはいいものだ」という出す側の自信が、お客様への提供にも現れる

田口さん:自分で言うのもなんだけど、まだまだお堅い雰囲気のお茶屋さんが多い中、僕は伊藤くんにほぼすべてを委ねてると思うんだよね。

それが楽しいし、もともと伊藤くんは本当にお茶が好きだと知ってるから「自由に淹れてみたら?」とある意味プレッシャーにもなるようなことを言ってるかも(笑)

伊藤:確かに(笑)せっかく良いお茶を作ってもらっているから無下にはできないです。どんな風に淹れたら、田口さんのお茶の魅力を引き出せるかいつも考えてます。

田口さん:でも本当は、伊藤くんが今までいろんな産地のお茶を飲んできた経験を生かして、美濃加茂茶舗のお茶でどんな表現をしていくかを気負わず試していってほしいな。

伊藤:そうやって、茶師である田口さん自らいつも新しいことを応援してくれるのが、美濃加茂茶舗の大きな強みです。

この前、ほうじ茶の変わった淹れ方を提案してくださったじゃないですか。あれ、試飲した人たちが「美味しくて感動した!」って言ってくれて。

普通のほうじ茶ではそんなに旨味を出せない淹れ方だったりするんですけど、田口さんがつくる良質なお茶だからこそ、新しいことができるんだなってしみじみ思いました。

田口さん:美濃加茂茶舗では今までのお茶屋さんでは考えられないようなことをあえてしていきたいよね。たとえば新茶にフレッシュフルーツを入れたり、かき氷にしたり。新しいお茶の捉え方も提案していってほしいと思ってる。

伊藤:たしかに、それでこそ美濃加茂茶舗の存在意義かもしれないので、挑戦はしてみたいです。

田口さん:東京ではなくこういう産地に近い所でやっていて、本質を知っているからこそやる意味があると思うよ。

「もちろんちゃんと、オーソドックスなお茶も淹れようと思えばできますよ」って(笑)。

「違いをわかる」こと

田口さん:伊藤くんはさ、毎日いろんな産地のお茶を飲んでInstagramに上げたりしているじゃない。それで「これは良いお茶だな」とわかった瞬間はある?

伊藤:うーん、その瞬間というより、何かと比較して、後から「あのときのお茶おいしかったな」とわかる感じかもしれないです。同じお茶でも、体調やその時の気持ちによっても全然違うし。

田口さん:うんうん。まさにそれで良くて。天候や気分によっても味の感じ方は変わるよね。そこが一番面白いところじゃないのかな。

だからこそ、おいしいお茶を淹れるためには、相手の体調や感情、出来事とか、その人の背景にある生活や食文化まで向き合って一人ひとりに淹れるのが究極だと思う。

伊藤:なるほど…。違いがわかるっていうのは単に良いものを知っているとか舌が肥えているというだけじゃなく、状況を読むことでもあるんですね。

田口さん:これはAIとかでは対応しきれない領域だよね。最終的には、感覚だけでわかるものになることかもしれないし。

本物の定義は変わっていくもの

伊藤:田口さんのお話を聞いていたら、本物は、もしかしたらひとつじゃないのかもしれないなと思ってきました。

田口さん:うん。その時は本物でも、価値基準によって1年後の本物は違っているかもしれない。技術の進歩では絶対になくて、本物を判断するのは人の心だからね。

ふと一歩でも違う基準にずれると、全然評価が違ったりする。

「この人にとっての本物のお茶を提供したい」と思うと、きちんと場を設けて向き合って淹れたいと思うものだけど、水筒の中にお茶を淹れて持ってきて、ここみたいな茶畑でもてなすのが実はその人にとって本物のお茶なのかもしれないし。

伊藤:いやぁ…すごい…。本物っていうのは、実は確固たるものではないというか。

特に僕らみたいな30代前後の年齢って、「こういうものがある」って答えを追究していきたい人が多いと思うんです。自分も含めて。

だからもっと知りたい欲求があって、あるはずのゴール地点に向かって進んでいく感じなんですけど…実はそのゴールっていうのは普遍的なものではなくて、自分の中で徐々に形成されていくものだっていうのに、最近気づき始めたかもしれないです。

田口さん:答えの入口に立っている感じだね。

本物って実は近くにあるけれど、遠くを知らないとわからない

田口:「自分は狭い世界で生きている」と今まで思っていたけど、本物って結局は一番近くにあって、そのためのヒントは遠くにあるんだと思う。

自分自身も、今のアイデンティティを形成していく過程では遠くの、それこそ伊藤くんみたいな若者たちと出会うことが大事だったから。
原点は近くにあるけど、遠くのものをいろいろ知らないと気づかないものなんだよ、きっと。

伊藤:僕があのとき、田口さんに会いに遠くのこの場所まで足を運んだのも、何かを求めようとしていたからかもしれません。

田口さん:本物ってすごく「普通」だから気づかないのかもしれないね。

普通ってことはすごく奥が深くて、いろいろな中で自分にとって「普通になっていく過程」がきっとあるんだと思う。だから僕は特別なお茶を作りたいと思ったことがあまりなくて。

その人にとって「これが私の普通だ。生活の一部だ」という風に、みんなの普通にそっと寄り添えるようなお茶が「本物のお茶」になるんじゃないかな。

日常の背景にある文化、つまり普通っていうことに関して、お茶がどうからめるかを今後も模索していきたいと思っているよ。

[取材・文]山越栞/[撮影・編集]とみこ


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