見出し画像

窯元の隠れた製法「多治見締め」との出会い #美濃加茂茶舗オリジナルプロダクト

前回のnoteでは、オリジナルプロダクト制作プロジェクト発足の背景を中心にお話させて頂きました。今回は、本プロダクトの特徴や技術についてご紹介します。

カップ&ソーサーづくりの老舗「丸朝製陶所」と産地の歴史

今回制作をご依頼している丸朝製陶所は、大正5年(1916年)に、岐阜県土岐郡笠原町(現多治見市滝呂町)で創業しました。
明治21年(1888年)、東京の上野に日本の喫茶店第一号が誕生したことがきっかけでコーヒーを飲む文化が根付き始めた頃だったこともあり、創業当初からカップ&ソーサーを専門に生産していました。

画像1

丸朝製陶所がある岐阜県多治見市は、美濃焼の産地として知られています。「美濃焼」とは、岐阜県東濃地方(多治見市・土岐市・瑞浪市・可児市の一部)でつくられる焼き物のことを言い、特定の技法や原材料、デザインをさすものではなく、”つくられる地域”を限定した呼び名です。(セラミックパークMINO HPより一部引用)

この地域には大昔(300〜500万年前)、愛知・岐阜・三重の平野部に広がる「東海湖」と言われる琵琶湖の6倍ほどの巨大な湖がありました。世界的にも珍しい良質な土が大量に取れる産地で、その土は国内の他産地や海外にも多く輸出されています。

画像2

土の種類は幅広く、地表深くの層からは良質な土が取れ、対して地表に近い層にある土は、タイルや低単価な量産品の食器を作る原料となります。高品質な製品を生産する一方で、量販店に並ぶような安価な商品も大量に生産できたことによって一般家庭にも広く普及し、「美濃焼」は食器の生産で全国シェアの約60%を占めるまでに成長。和食器に限っていうとそのシェアは90%という一大産地になっています。


しかしその一方で、一言で「美濃焼」と言っても、カップや器、急須や土鍋など様々な種類がある上、メーカーで大量生産される日用品から陶芸作家の作品まで(多治見だけでも人間国宝が4人!)価格帯も幅広すぎるがゆえに、ブランドとして確立できない地域と言われているのも事実。特徴が無いのが美濃焼の特徴、と言われるほどです。このように長らくひとくくりにされてきた「美濃焼」ですが、紐解いていくとひとつの呼び名では伝えきれない様々な個性が集まった産地であることがわかります。


丸朝製陶所も「美濃焼」でくくることができないような個性と技術力を持った会社。良質な土しか使わない「土選び」へのこだわりと、他社にはない独自の「製法」についてのお話を伺い、今回の茶器づくりは絶対に丸朝さんと実現したい!との思いが強くなりました。

画像5

丸朝製陶所ならではの技術

丸朝製陶所では焼成(成型した器を焼く工程)の際、1,300℃以上の高温で24時間かけて“焼き締め”ます。これは丸朝製陶所独自の製法で、一般的にはもっと低い温度(1,150〜1,230℃)かつ短い時間(4〜6時間)で焼き上げます。

焼き方には、温度以外に「酸化焼成」と「還元焼成」がありますが、丸朝製陶所が採用しているのは後者。「酸化焼成」は酸素を入れて焼く製法で、酸素を入れながら焼くことで温度が上がりやすくなり、安い原料を使って短時間で焼き上げられるため、低コストで製品化させることができます。一方「還元焼成」は、酸素を入れずに不純物を完全に焼き切ることで、汚れが付きにくく、吸水しない、質の高い製品になります。ただしこの製法だと、高温で長時間の焼成に耐えられる良質な土を使う必要があります。

もちろん、それだけ生産コストはかかるのですが、どんな焼き物でも一度焼きあげてしまうと、土に還ることができません。「良質な土が取れる産地、長い陶業の歴史が育んだ世界屈指の技術があるからこそ、長く使えるいいものを作りたい。高いクオリティのプロダクトを手の届く値段で届けることができるのはうちならではです。」と、丸朝製陶所の代表の松原さんは熱い想いを語ってくれました。


表に出ることのなかった製法「多治見焼締め」

今回製作する茶器は当初、素焼きだと茶渋が付いてしまうと思い込んでいたため、当然のごとく釉薬を施すことを想定していました。しかし、高温で長時間“焼き締める”丸朝製陶所ならではの製法なら、釉薬を施さない素焼きでも茶渋がつかない。素材本来の質感を生かすことと、使い勝手の良さを両立できることがわかりました。

※釉薬= 陶磁器などを製作する際、水や汚れが染み込むことを防ぐうつわの表面にかける薬のこと

また、釉薬をつけると、焼き上がりの際の寸法精度に大きくばらつきがでてしまいます。今回制作している湯のみは、精度のバラつきを極力抑える必要があるため、全ての面に釉薬を施してしまうと、100%の納得ができないのでは、とメンバー間での懸念がありました。そこは絶対に妥協できない部分であったため、丸朝製陶所の技術力がなければ制作自体が中止になってしまう可能性もありました。

我々は今回の出会いに感謝するとともに、窯元の個性としてこの製法を埋もれさせないため、1,300度の高温で長時間焼き締める丸朝製陶所の製法「多治見締め」と呼ばせていただくことにしました。

画像3


丸朝製陶所としては「多治見締め」の技術自体は以前から持っていましたが、その製法を前面に出した商品を小売の市場に卸すことはほとんど無かったと言います。それは、売り場とメーカーとの間に卸業者が入ることによって、説明しやすい商品にしかニーズがなかったから。また、材料や素材感を大切にするような嗜好性が出てきたのもごく最近のことで、数年前まではブランド名を前面に打ち出した「ロゴ」中心の商品の方が好まれる傾向があったことなども理由です。

しかし今回のように、製造元と一緒になって直接プロダクトを作り、それを自販する美濃加茂茶舗としては、今までの流通形態では日の目を見なかった製法を採用することも可能ですし、それでこそオリジナルプロダクトを作る意義があります。

業界では当たり前のことでも、一般的にはあまり知られていない優れた技術があること、その技術の素晴らしさが業界の“当たり前”によって正しく評価されていないことがあるのは、日本茶産業と共通する部分だと感じました。そして、それを正しく伝えていくことこそが産業の発展には重要なことだと再確認しました。

画像4


美濃加茂茶舗は、このプロジェクトを通して、日本茶だけでなく、お茶を楽しむのに欠かせない茶器などの周辺産業の魅力も伝えていきたいと考えています。


現在、湯のみの本生産に入る前のサンプル作りの真っ最中です。もうまもなくプロダクトのイメージもお披露目できると思いますので、もう少々お待ちください!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?