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挫折が紡ぐ、自分だけのストーリー|伊藤園 角野賢一(後編)

こんにちは。美濃加茂茶舗です。

テーマをリニューアルした美濃加茂茶舗マガジン。「三年鳴かず飛ばず」初回のゲストは伊藤園の角野さんです。前編では角野さんが感じた挫折や、その中で「面白い」と感じたきっかけについてお聞きしました。

後編では角野さん流の「面白い」を、さらに深掘っていきます。

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角野賢一さん|株式会社伊藤園 広告宣伝部 デジタルコミュニケーション室
2001年株式会社伊藤園に入社、2005年に海外研修生として1年間NYに赴任。
その後、日本に帰国し、国際部、経営企画部を経験し、2009年6月より5年間、サンフランシスコ、シリコンバレーにてお〜いお茶の営業活動を行い、現地のIT企業を中心に「お〜いお茶ブーム」を起こす(現在、シリコンバレーの大手IT企業でお〜いお茶が入っていない所はほぼありません。)。

▼角野さんのことがよくわかる連載はこちら|シリコンバレーで『お〜いお茶』を中心に、日本ブランドを売り込んだ伊藤園角野賢一氏の奮闘記
https://newspicks.com/user/9060

2014年6月に日本に帰国してからは、広告宣伝部に所属し、「茶ッカソン(お茶xハッカソン)」というイベントなどを行いながら、伊藤園が「世界のティーカンパニー」になることを夢見て、新しいお茶の広め方を模索しています。

▼茶ッカソン HP
https://chackathon.com
現在は「Pause & inspire」をコンセプトとしたCHAGOCOROというメディアを展開しながら、伊藤園だけではなく、OCHAを愛する様々な人たちと共に、心身ともに健康になることができるOCHAの可能性を探求し、広めることに全精力を注いでいます。

▼CHAGOCORO | 文化をインスパイアするお茶メディア
https://www.chagocoro.jp/

聞き手は美濃加茂茶舗代表の伊藤です。

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伊藤尚哉|美濃加茂茶舗
1991年生まれ。24歳のときに急須で淹れる日本茶のおいしさに魅了され、2016年から名古屋の日本茶専門店・茶問屋に勤務。2018年に日本茶インストラクターの資格を取得(認定番号19-4318)したことを機に、お茶の淹れ方講座や和菓子とのペアリングイベントなどを企画。2019年「美濃加茂茶舗」を立ち上げ。

「カッコいい」へのこだわりが独自の価値になる

伊藤:「面白い」をつくるコツはありますか。

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角野さん(以下、角野):価値のつくり方、ですかね。面白い価値をつくるには差別化しかないと思っています。物を売るにしろ、イベントを成功させるにしろ、他と違うから価値がある。マーケティング的には何かのマネをして二番手三番手として売る方法もあれば、今あるものをさらに広げる方法もあります。ただ僕個人としては、それはイケてないと思ってしまう。やっぱりゼロイチにこだわりたいんです(※)。

※ゼロイチとは:「0」から「1」を生み出す力。世の中にない新しいモノやサービス(価値)を生み出すこと、の意。

お茶や茶器も昔からある存在ですし、世の中にない価値なんて今はほぼ存在しないけれど、それでも自分なりの言葉や表現によって"自分の色”を加えたいです。そうやって売れていく、広まっていくのが面白いじゃないですか。

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だからこそ売上よりも「カッコいいか、カッコよくないか」はすごく考えています。シリコンバレー時代も、どこでもいいから仕入れてもらう戦略もあっただろうけど、とにかく売れればいいわけではなかった。

Googleオフィスの冷蔵庫を最初を見たときに思ったんです。エンジニアたちがあのオフィスで、コカ・コーラじゃなくて『お〜いお茶』を飲んでいる姿を実現できたらめちゃくちゃカッコいいなって。売上やマーケティングの広がりはきっと後から付いてくるから、自分がカッコいいと感じる仕事をやりたいとずっと思っています。

目指すのは、広く、多くの人にわかってもらえるお茶

伊藤:お茶を淹れる魅力に気づいたきかっけについて聞きたいです。

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角野:入社後はもちろん、シリコンバレーに居る間も、あくまでペットボトルのお茶を売る「飲料メーカーの営業」の感覚でした。正直、35歳ぐらいになるまでお茶を淹れる価値には気づいていなかったように思います。

アメリカでは、グリーンティーといえば「健康」の認識です。『お〜いお茶』は無糖で美味しい飲料としても受け入れてもらえていたので、価値は「美味しい」と「健康」の2軸。しかしシリコンバレーでの成功以上にもっと濃いストーリーをつくるには、美味しさと健康軸だけで進んでも限界がありそうでした。アサイーボール、ざくろのジュースなど、現地には健康で美味しいものの選択肢が山ほどあります。しかもお茶よりもインパクトのある味で。もちろんひたすら続けていればグリーンティーは少しずつ広まっていくかもしれないけれど、なんか面白くなさそうだと思ってしまって。それで始めたのが「茶ッカソン(※)」というイベントです。

※シリコンバレーで流行っていたハッカソンとお茶を合わせた、お茶を飲みながらアイディアを出すイベント

お茶には4つのベネフィットがあると考えています。①美味しさ、②体の健康性、③他人とのコミュニケーション、④自分とのコミュニケーション(自分と向き合う)です。そのうち、③④に可能性を感じていました。

アメリカで飲まれている多くが中国産のお茶である状況において、伊藤園が提案すべきはジャパニーズグリーンティーであり、「OCHA(お茶)」という価値なんです。お茶をつぎあってコミュニケーションが生まれる「OCHA」には味や健康性だけでなく、文化・カルチャーが含まれます

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「茶ッカソン」は、日本に帰国したあとも続けていますし、今は「Itoen Ocha Experience」など、お茶を淹れて自分と向き合う重要性や価値を、より感じてもらえる取り組みもしています。

また、伊藤園が運営するコミュニティメディア『CHAGOCORO』は、「お茶を淹れるカッコかっこいい人を増やす」という理念でスタートしました。飲むことだけではなく、淹れることで感じられる価値を訴求できる活動を重点的にやっている感じです。


CHAGOCORO:お茶を通じた出会いと文化を発信するコミュニティメディア。
今を生きる人々の感性との交わりを通じて
長い歴史の中で脈々と受け継がれてきたお茶の「文化」が
より自由で闊達な「カルチャー」として広がることで
お茶への親しみがより深くなることを目指します。

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伊藤:僕もその4つで言うと、お茶を好きになったきっかけは①の美味しさに対する驚きですが、続けていけたのは④の自分との対話があったからです。同じお茶を同じように淹れても、日によって味が違うように感じたり、美味しさの感動レベルが違ったり、時にはぼーっとしていて淹れ方を失敗することもあって。お茶がその日の自分を管理するひとつのツールになっている点が面白くて続いているのかなと。未だに毎日発見があります。

お茶を飲む時に味覚としての美味しさを体感するのももちろん大事ですが、淹れる時間や行為、小休止の時間が自分の感性や心を豊かにしてくれるので、その点もこれからの生活でお茶が提供できる貴重な価値なのではと思っています。

弊社は社名が「茶淹」ですが、そこにもお茶を「淹れる」行為がなくならないように、その良さをもっと伝えていけるように、との想いを込めているんです。今後もサービスやプロダクトを通じてお茶を淹れる体験を提案していくつもりです。

角野:僕らもそうですね。4つのベネフィットは設定していますけど、実際に一般のお客さんで、ベネフィットを伝えてすぐにお茶を淹れてくれる人ってごく一部だと思うんですよ。敷居が高いというか。それだけだとなかなか広まっていかない。単純に楽しい、カッコいい、かわいいなどの感覚・感性に訴えられるのが大事で、ベネフィットのように頭で理解することはあとから付いてくればいいんです。自分がやってることが間違ってないと自信を持つためのもの、くらいな感じですね。

コーヒーの真似をする必要はないけれど、スタイルやファッション含め、コーヒーは見事にその点をやってのけている。学ぶ点は大いにあります。

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伊藤園に居る以上、広く多くの人にわかってもらえる価値をつくらないといけないと思っています。『お〜いお茶』も、百数十円の商品を、毎年日本中・世界中の人に飲んでもらい、喜んでもらっている商品です。今は一部の“わかってくれる”ターゲットにだけ伝われば事業が成り立つ会社もあるし、それはそれで価値があります。

でも伊藤園で働く者としては、みんなに届く価値をつくる使命があるし、個人的にも多くの人がわかってくれる価値を大事にしたい。専門家や一部のマニアにだけ評価されて、「みんなにはわかんないんだよ」と切り捨ててしまうよりも、ちゃんとメジャーでヒットを作れる方がカッコいいのかなと思っています。(まだまだ全然できていませんがw)

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▲伊藤園「Ocha SURU? Glass Kyu-su 01」【OSGK-01】(グラス3種、急須、茶漉しのセット):新しいお茶の楽しみ方、「見て、淹れて、アレンジする」透明なグラスの急須 ※専用フェルトスリーブは別売り
https://www.chagocoro.jp/shop/2444.html

自分が情熱を注ぎたいことが、会社や社会のためになっているのが理想

伊藤:最後に、これからについてお聞きします。今後やりたいことと、その未来のために今どう過ごしているかを教えて下さい。

角野:最終的には世界を見据えています。ただ、先ほども言ったとおりペットボトルの販売に注力してきて、お茶のことを知らなかったんです。だからこそ一度日本に帰って来ました。帰国してからの5、6年、一貫してやっているのは次に海外に行く時に持って行けるモノ・コト作りです。

昨年発売したOchaSURU?Glass Kyu-su(硝子の茶器)も、CHAGOCOROも、OchaSURU?シングルサーブ(全国のお茶関係者と一緒に作った一煎パックお試しセット)も、すべてが「お〜いお茶」と共に海外に提案できるOCHAの価値だと思っています。日本に帰ってきて読んだ岡倉天心の『茶の本』の内容も、煎茶の祖『高遊外売茶翁』について理解を深めるために佐賀県の通仙亭で聞いてきたお話も同様です。この6年間は、全て次の海外進出に向けてボールを投げている感覚。もちろんサラリーマンだから望まなくてもやらなければならないこともありますが、基本的には目指す未来に向かって必要なもの、やりたいことしかやっていません。ひとつひとつのプロジェクトのミッション、ビジョンはバラバラでも、自分自身のミッション、ビジョンは基本的には変わらない。そうすれば軸はブレないと思っています。

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角野:最近は、「自分が好きでしょうがない仕事や活動が、自然と会社のため、さらには社会のためにもなっているのが理想」だと考えるようになりました。自分の人間としての考え方・生き方のベクトルが間違っていなければ、自然とそうなっていく気がするんです。

会社や組織のしがらみのせいで信念を曲げたくなくて、貫き通せばいつか本当の意味で会社のため、社会のためになる結果が得られると思います。年月がかかっても、自分を曲げない生き方はきっと面白い。一時的に損をしたりつらい思いはするかもしれないけれど、長期的に見ればいいリターンがあると信じています。僕も「3年鳴かず飛ばず」の王様のようにだらしないところや弱さもありますが、そういった基本的な姿勢は変わっていません。

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伊藤:弱いところも、あるんですね。

角野:弱い所だらけですw シリコンバレー時代も、本当にたくさんの人に助けていただきました。王様の話のように、ダメなところが見えてるからこそ周りの方が寄ってきてくださったのだと思います。

伊藤:社外の仲間とも繋がれる時代で、自分の弱みを知って補ってくれる人が会社以外にたくさん居るのは心強いですよね。

角野:真の仲間になるには、お互いをさらけ出せる関係になる必要はありますけどね。お互いの弱みを笑って話せるくらいになれば「じゃあそこ俺がやるよ」と補い合って、本当に一緒に取り組めるレベルになると思います。

僕も30歳で渡米したときは今と全然違う人間で、最初からそんな風にはできていませんでした。なるべく最小限の努力でスマートに仕事をこなしたいと考える性格で、それで怒られたりもしました。でもアメリカで出会ったカッコいい大人(僕の兄貴的存在のDELICAの岩田康弘さん、当時EVERNOTE日本法人会長の外村仁さん)が、誰が相手でも平等に全力で接する人だったんです。いつも誰かに頼られて、なんらかの助け舟を出すことができる生き方をしていました。その姿を毎週のように間近で見ているうちに、自分もそうありたいと思うようになったんです。誰とのどんな出会いがこの先の人生で生きてくるかわからないから、それ以来、人に対して常に100%の気持ちで接しようと心がけています。

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角野:年齢関係なく、人はいつでも変われます。でも、挫折は早いうちにした方ががいいですよね!


🍵 編集後記 🍵

渋谷に居ることを忘れてしまうような、緑に囲まれた「JINNAN HOUSE」を取材場所としてご提案してくれた角野さん。リラックスした雰囲気の中でお茶を飲みながら、仕事への向き合い方や価値観、どんなことを重視して生きていらっしゃるかを話してくれました。

伊藤園の社員としての責務と、自分が面白いと思えることにとことんこだわる姿勢。どちらも全うしているカッコよさが、角野さんの魅力なのだと感じました。

伊藤曰く。―――「僕ならではのストーリー」の中に、周りの人たちを自然と巻き込んでしまう求心力に長けた人。
角野さんが淹れてくれた伊藤園のお茶、美味しかったです。ありがとうございました。

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[文・写真]美濃加茂茶舗 |松下沙彩( @saaya_matsushita )

取材時に角野さんに飲んでいただいた「萎凋煎茶」は美濃加茂茶舗オンラインストアでも販売中です。

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