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言葉でつくるブランドの「らしさ」と、自由演技のバランス感|中川政七商店 緒方恵

こんにちは。美濃加茂茶舗です。
このマガジンは、「違いを分かる人」や「本物をわかろうとする人」を大事にしているわたしたちが、読者のみなさんと一緒に「本物」を考えていくメディアです。

第四弾の今回は、「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げ、日本の工芸をベースにした生活雑貨の企画製造・小売やものづくり企業へのコンサルティング、工芸の地産地消を目指すイベントなどを行う株式会社中川政七商店の緒方恵さんにお話を伺います。

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緒方恵
中川政七商店 取締役 / コミュニケーション本部 本部長。前職の東急ハンズでは、バイヤーを経てWEBチームにて、 ECサイトやデジタルマーケティング・ソーシャルメディアの立ち上げ・新規デジタル施策開発などを横断的に担当。 2016年8月から中川政七商店にWEB/デジタル領域を担当するCDO(Chief Digital Officer)として入社。 2018年3月より取締役 兼 コミュニケーション本部 本部長に就任。

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伊藤尚哉
1991年生まれ。24歳のときに急須で淹れる日本茶のおいしさに魅了され、2016年から名古屋の日本茶専門店・茶問屋に勤務。2018年に日本茶インストラクターの資格を取得(認定番号19-4318)したことを機に、お茶の淹れ方講座や和菓子とのペアリングイベントなどを企画。2019年「美濃加茂茶舗」を立ち上げ。

創業300年の歴史を持ちながら、現代の暮らしに寄り添うものづくりを展開する老舗企業の中で、緒方さんが率いるのは、直営店やEC、自社メディアなど、中川政七商店をあらゆる手段で伝える「コミュニケーション本部」。

ブランディングとは、「正しいことを正しく伝えること」

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伊藤:はじめまして。緒方さんのことは以前から存じ上げていたので、お会いできて嬉しいです。

緒方さん(以下、緒方):ホントですか?ありがとうございます。岐阜のお茶なんですね、いろいろ気になるなぁ。

伊藤:そうなんです。僕らの美濃加茂茶舗はブランドとしてまだ生まれたてなので、今日は緒方さんに中川政七商店のブランドづくりについてじっくり教えていただきたくて。

どんな風に中川政七商店のイメージを世に認知させているか…とか。

緒方:そうなんですね。弊社が思うブランディングとは「正しいことを正しく伝え続けること」です。

まず、ブランドイメージって「イメージ」と言うだけあって、すごく曖昧なものなんですよね。僕らが「中川政七商店のブランドはこうである」って言っても、結局、お客様の頭の中に残るのはぼんやりとしたイメージでしかないことが多い。

だから僕らコミュニケーション本部の仕事は、そのぼんやりとしたイメージにあらゆるアクションを積み重ねることで、イメージを硬質化すること、認識をより深めてもらうことだと思っています。

伊藤:正しいことを正しく伝える…。

緒方:そう。お客様にとっての「ブランド認知・認識」って総合体験により構成されるものなんです。中川政七商店の場合、「店舗が目に入る→店舗に近づく→暖簾をくぐる→商品を手に取る→レジでお会計する→使う→共有する(再訪する)」ここまでが総合体験だと思っていて。

だから、それを伝える過程の中で、ブランドとして考えたこと・決めたことを、店舗の人たちが正しく再現できないといけないんですよ。

お客様のブランド体験をどれだけ気持ちよくするか。だから、全方位にこだわらないと、本質的なブランディングは成し遂げられない。

「正しいものを正しく伝える、最後まで完璧に」っていうのが、大事なことだと思います。

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緒方:美濃加茂茶舗の場合もきっと、お客様の総合体験をどう演出するかが大切。なので、伊藤さんの選ぶ言葉から、ストーリーテリングまでが総合体験になる…と考えると、伊藤さんの次の仕事は「伊藤さん(と同じクオリティが出せる)コピーみたいな人を増やす」ことですよね、多分。

伊藤:はい。本当にそうだと思います。

「らしさ」を正しく保つために、言葉の定義をきちんとする

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緒方:ブランドを作っていこうとする過程の中で、実は事業を伸ばすのと並列で「教育」がすごく大事になってくるんですよね。

伊藤:正しいことを正しく伝えるために、組織内での教育が必要、ということでしょうか?

緒方:そう。ブランドとしての「らしさ」を正しく保つためには、言葉をちゃんと定義することが大事です。

例えば、「プレゼント」や「ギフト」って言葉がありますよね。それを、中川政七商店では徹底して「贈りもの」って呼ぶことにしているんです。

伊藤:そこまで徹底してこだわっていらっしゃるんですね。

緒方:僕らは「日本人に日本の文化風習の良さを認識し直してもらう」ことをミッションにしている会社なので、カタカナの「ギフト」や「プレゼント」を使うとそもそも論として違和感があるんですよね。

じゃあ「贈り物」じゃダメなのかというと、「物」って漢字にしていることで「これはプロダクトです」って自分たちで意味を狭めていることになってしまうよねと思って。

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緒方:僕たちが扱っているのは、プロダクトを手にした先の「体験」なんですよね。だから漢字を開いて、贈り「もの」にして意味を広げようという願いを込めてます。

…みたいなことを、あらゆる場面で何度も言語化するんですよ。もう一個例を出すと、伊藤さんは店舗で接客しますよね?

伊藤:はい。

緒方:僕らのブランドも店舗で接客をするんですけど、例えば3人のスタッフに「接客って何ですか?」と聞くと、ぜんぜん違った回答だったりするんですよね。

「店の売り上げを上げるためです」とか、「私はこの鯖江の漆器が超好きなんで、この良さをお客様に伝えたいんですよ」とか、「お客様が何を求めていらっしゃってるのかをまず聞いてから適切にコンサルティングセールスしたいと思います」とか。

接客一つとっても三者三様になっちゃうんです。よく言うと自由演技の幅がある。悪く言うとルールがない。

これを統制するために会社は何をするかって言うと、一つは研修制度などで教育プログラムを作る、もう一つがマニュアルを細かく作る。

ただこれは、会社の基礎を強くするための手法としてはもちろん大事なんですけど、ブランドを強くするという観点からはあまり本質的だとは思っていなくて。

さっき「伊藤さんのコピーを作った方がいいよね」と言っておきながら申し訳ないけど、伊藤さんのコピーは作れない。

大事なところをコピーする必要はあるんだけど、そこから先は人それぞれの味があるべきだよねって思うんです。

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緒方:僕らは、ブランドに価値の全てが集約するよりは、店舗やスタッフによって特徴や特色が異なり、店ごとの違いがあることも楽しんでもらいたい。

ブランドの強さは総合体験の強さ。商品や店舗設計など各店共通の均一な価値を高めるとは別軸でブランドを伝える語り部となる接客員は均一でなくていい、それぞれの個性を活かして欲しいと思ってます。

どこに行っても同じ店舗じゃつまらない。売ってるものはほぼ同じなのにどこの店舗に行っても違う方が面白いなと思ってます。ただ、高いレベルで共有できているブランドとしての基礎があった上での「自由演技」ではあるので、そこは間違えてはいけない。

というわけで、話が戻るんですが、僕らは接客のマニュアルを作るだけじゃなくて、言葉で「接客」を「接心好感」と定義することにし、統制と自由演技の幅の設計をしましたということです。

伊藤:接心好感…。「接客」よりも、具体的な姿がイメージしやすい言葉ですね。

緒方:僕らのブランドが店舗のスタッフに一番やって欲しいのは、お客様の心に接して好感を得ること。

心に接して好感を得ることさえやってくれれば、他はその人独自の自由演技でOK。このさじ加減が、まさにブランドの肝なんです。

それから、言語化できない「かっこいい」とか「おしゃれ」の定義に関しては、ビジュアルマッピングを繰り返しやるんですよ。

「このブランドのコンセプトはこうだよね」とか「テーマカラーはのトーンは白っぽい感じかな」、「でもこの白はありだけどこの白は違う」っていうのを、みんなで色々持ち寄ってとにかく擦り合わせをちゃんとする。

こうやって擦り合わせるべきところと、自由演技の幅を残すところのバランスを見極めることで、中川政七商店のブランドの良さを活かしつつも産地ごとの違いを十人十色楽しめる価値の提供になると思うんです。

伊藤:言語化できるものもそうでないものも、徹底して共有できる状態まで落とし込んでいるんですね。

チームで働く面白みを感じた20代後半

伊藤:ところでなんですが、緒方さんご自身のキャリアについても伺いたくて。10年前、28歳くらいのころって、どんな風にお仕事されていましたか?

緒方:え!いきなり?(笑)

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伊藤:緒方さんは、もともと転職で中川政七商店にいらっしゃったわけじゃないですか。

それまでは工芸とは遠いような道にいらっしゃったと思うんですけど、28歳くらいの時に何を思っていて、どういう背景で今の立ち位置になったのかを伺いたいです。

緒方:そうですね、28歳くらいの時は人生の中で一番働いてましたね。
前職の東急ハンズでマネージャーになったくらいの歳じゃないかな。

伊藤:マネジメントを始めた頃だったんですね。

緒方:もともとはインテリア照明が好きで、照明器具のバイヤーとして入社しました。

そして、2008年にiPhoneが発売され、スマートフォンアクセサリーの問い合わせが増えてきて、ハンズでも大体的にスマートフォンアクセサリーの売り場を立ち上げよう!となりまして、その担当に異動になったんです。iPhoneについては全く詳しくなかったので慌てて猛烈に勉強しました。

その結果としてiPhoneを四六時中触るようになったら、あまりにも革新的なデバイスだったため「時代の変化に立ち会ってる」感覚がとてもあって。

新しい世界が広がっていくのが面白くてしょうがなくなり、かつバイヤーとしても実績が上がり続けていたので充実した時間を過ごしていました。

伊藤:すごい。

緒方:ちょっと天狗になってた時期ですね多分(笑)。

僕が売上を伸ばせたのは、iPhone自体の普及率が爆発的に伸びてた時期だったから当たり前で、ただの勘違いなんですけど、その時は自分の実力だと思ってしまってましたね恥ずかしながら。

そしてその後「iPhoneに詳しいから」という理由かどうかはわかりませんが(笑)、WEB事業部に異動となりました。iPhoneの中身が作れる!という喜びが半分、バイイング以外の仕事をしたことがないので不安が半分でした。

結論としては不安が的中。

WEBは未経験だったので「なんでもできるぞ」という天狗状態から「なんにもできない」役立たずになって。バッキリと鼻をへし折られたんですけど、負けず嫌いなので「見とけよ」って思ってましたね。

伊藤:鼻をへし折られたままでは終わらなかったんですね。

緒方:その時に、WebとかITとかSNSとか、とにかく片っ端から勉強会に出まくって、本も読み漁って、インプットしたことを試しながら徐々に結果として還元できるようになってきたなって自覚ができてきたら、折れた鼻も少しずつ元通りになりました。

でも、天狗にはもう、ならなかった。一人で達成するバイヤーの仕事よりも、チームで達成するWebの仕事のほうが、自分にとって満足感が全然高かったのと、その過程で自分ひとりができることなんてたかがしれてると骨身に沁みたので。

”この人”と働きたいを大事にしてきた仕事選び

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伊藤:そこから、どうやって退職を決意するに至ったんですか?

緒方:東急ハンズではそのままWeb関連の事業に10年弱携わったんですが、当時のボスと「やりたいこと」として話していたことが、2016年頃にほぼやりきったんですよ。

それで少し自分のモチベーションがフワフワしていたという点がひとつ。

もうひとつは「人」。

僕はそのボスの下で働けたことが本当にありがたかったのですが反面、その人の下から離れることになったら、別の環境に身を置くのもありかもなとは元々漠然と思っていたんです。

そんなタイミングで僕のところに店舗の管理責任者としての異動の内示が来たので「よしじゃあ一度リセットしようかな」と。

伊藤:そこから中川政七商店に転職されたんですね。

緒方:退職して4ヶ月くらいはフリーで色んな会社の仕事をしていたんですが、エージェント経由で社長から連絡が来て。

当時は「工芸メーカーがブランディングで再生し、表参道ヒルズに店を出したとんでもない会社」って認識だけはしていたんですけど、それ以上の情報はあまり入れないままお会いしたんですが、当時社長だった中川政七(現:会長)から初めて工芸の現状とか中川政七商店のビジョンの話をきちんと聞いて、正直びっくりしたんです。

伊藤:どういうところにびっくりしたんですか?

緒方:僕は今まで「自分やチームの価値を高めて、その結果、東急ハンズのお客様を極限まで良くする」っていう「会社まで」のレイヤーでしか仕事の価値基準がなかったんですよね。

対して、中川政七商店は「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを持っていて、かつ全力でそれに向き合ってるということを知り、自分視点でも会社視点でもなく、彼は日本の工芸と文化・風習を残すためにはなんでもやるというとても高い視座と使命感を元に仕事に向き合っていて、衝撃を受けました。

そのときに「絶対にこの人と一緒に働きたい」と思って入社を決めました。

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緒方:入ったらまぁ、それはそれは奥深い世界で驚きの連続でした。
会社に行ったら血眼になって箸をひたすら試作し続けている社員とかがいるんですよ。

そんな仲間を側で見てると「この人がこれだけ血と汗流して作ってるんだったら、良い商品にならない訳がない」と心から思ったんです。

その時に、「自分の仕事は、この確信をお客様にも同じように思ってもららうことだ」と気がついて。だから僕は、作り手に一番近い距離にいる「最初の消費者」の立ち位置で価値を媒介する仕事をしたいんです。

コミュニケーション本部の運営もまさにその想いからで、店舗、EC、自社メディアとあらゆるところで、僕が抱いている感情をお客様にも伝えるのが使命だと思っています。

お客様に持って帰って欲しいのは、「あのお店に行くと幸せになる」という感情

伊藤:中川政七商店では、店舗のスタッフさんを「伝え手」と定義されていますよね。

緒方:そうです、そうです。

伊藤:そこもすごく素敵だなと思っていて。

緒方:さっきの「接心好感」の話もなんですけど、人によって解釈が異なる単語は可能な限り使わないようにしているんです。

僕らは対面で価値提供することがすごく大事だからなおさら、一人ひとりの店舗スタッフの態度が大事になってきますよね。

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緒方:僕らの組織の分担は「作り手、伝え手、支え手」の3つ。なので、社内では店舗のスタッフを「伝え手チーム」と呼んでいるんです。

言葉で共通認識を持っているから、彼らに「あなたは何のために働いているんですか?」と質問をすると、「日本の工芸を元気にするためです」と返ってくるし、「何をしている人なんですか?」と聞くと「工芸の素晴らしさを伝える人です」という回答をみんなできる。

ただその「伝え方」には自由演技を持たせることで、ブランドをキープすることと、お客様に提供する体験を十人十色で実現することの両輪が成立していると思っています。

緒方:美濃加茂茶舗さんもきっと、ブランドとしてコアで提供する価値には芯があるはずだから、提供の仕方や、選ぶ言葉、間の取り方は伊藤さんと違うやり方をするスタッフがいるかもしれない。

でも、そこで生まれる違いを味わうのが面白いんじゃないですかね。

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緒方:中川政七商店が高いホスピタリティーで売っているのは、物ではなくて体験。なので、お客様にとっては気持ちいいとか生活がより便利になって嬉しいとか、幸せな感情がお土産になるんです。

となると、ブランドイメージとしては「日本の工芸」とか「文化風習」みたいなのも当然大事なんですけど、一番お客様に持って帰って欲しいのは、「あのお店に行くと幸せになるんだよな」ってこと。そこだけ提供できれば全然十分だなと思うんですよ。

伊藤:じゃあ、工芸の商品を扱っているってところまでは分かってもらえなくても良いって判断でもあるんですか?

緒方:そうではなく、これはコミュニケーションの「順番」の話ですね。

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緒方:こんな風に、僕らはユーザーの態度変容の過程を設計しているんです。

すごく単純に言うと、ふらっと入った商業施設で「良い感じのお店だな」と近づいていった先で商品を手に取る理由って、だいたい「おしゃれ」とか「可愛い」みたいなライトなものですよね。

僕らはここに「接心好感」を挟んで品質の話をしてコミュニケーションを取ることで、最初に登るべき信頼の階段を一段階登ります。

そして、お客様が何度か来店する過程の中や場合によっては初回から最後までお話できることもありますが、設定した順番に沿って丁寧に伝えることでひとつずつ信頼を得ることとひとつずつストーリーをお伝えすることが大事。

「良い感じのお店だなー」と軽い気持ちでフラッと入ったのに「弊社、日本の工芸を元気にする仕事をしておりまして!」っていきなり言われても重いじゃないですか(笑)。

だから、コミュニケーションの順番は非常に繊細に設計し、取り扱っているんです。

それを愚直に積み上げ続けることで、ブランドへの共感が応援へと変わり、より濃度の高いファンになっていただけたら、その人たちは「並走者」になってきださる。

僕らが日本の工芸という文化を元気にするためにやらないといけないと思っていることを、同じ温度感でやろうとしてくれる人が少しずつ生まれていくんです。

なので、店舗や商品、接客という体験を通じて工芸に対して高いコミットを持つ人間が集まるコミュニティ作って、それを大きくしているということです。

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伊藤:うーん。めちゃくちゃすごいし、僕らも同じようにできたらいいのですが…。美濃加茂茶舗はまだまだ出来立てでちっちゃくて、これからどんどん拡大して人を増やしていきたいフェーズなんです。

どうしても、焦って一人で早く行きたくなっちゃうんですよね…。

緒方:うん、よくわかります。

伊藤:そうなった時に、共感が生まれるファン作りってものすごくやりたいんですけど、どうしても時間かけてゆっくり作っていくものになるじゃないですか。

それを、焦らずにじっくり我慢してできるのか、不安になることもあるんです。

緒方:あー、なるほど。

気持ちはわかりますが、そこは絶対に焦っちゃいけないところです。ひとりずつ丁寧かつ確実に、徐々に増やすという意識が大事です。そのためには「総合体験」意識をどこまで高く持ってサービスレベルを上げられるかにかかってます。

美濃加茂茶舗の場合は、注文前だけでなく、注文が入ってからお茶を淹れる間もコミュニケーションの時間になりますよね?

伊藤:はい、そうですね。

緒方:僕らも商品説明などの「購入前コミュニケーション」とレジ内やお包み中などの「購入決定後コミュニケーション」の両方があります。前者はお客様にも能動性があるのですが、後者はこちらがレジやお包み作業している=ただ待つだけで受動的という違いがあります。

様々なブランド体験があり、テンションが高まってついに欲しいものが決まりました!とここまでは基本テンションは上がり続けている。ですがその後に「お金を払う」というステップは確実に発生します。この工程でテンションは絶対に多少下がる。

そして商品を包んでもらうのをただ待ってる時間。これもテンションが下がる時間です。これって本来無駄な体験・時間なんですよ。だから、AmazonはAmazon Goを作ったわけで。

でも逆に言うと、お客様をそうして拘束してしまっている時間を如何に価値化させるのかにこそ、サービス業の真価が問われるところであるんです。

強制的にお待たせしてしまう時間からネガティブ要素を完全に取り払い、サービスの粋が詰まっている最高にポジティブな時間にするということ。つまり、テンションをもう一段階上げる余地がある。これは逆にその部分を除去しているAmazon Goには絶対にできないことでもあります。

テンションを上げることに集中して商品購入が確定する。お財布を開くとどうしたって少しテンションが下がるものの、そこからお渡しまでの時間を「どうゆう時間にすれば下がったテンションを取り戻すどころが、より上げることができるのか?」を問い続けるということです。

お茶を淹れる平均タイムが5分だとしたら、それを待ち時間だとするのではなく、「5分喋れる時間」をもらえていると解釈することですごく価値が上がるし、上げなければならない。そうすると接客とお茶を飲んだ時とで感動が二段仕込みになるんじゃないでしょうか。

伊藤:あぁなるほど…。確かに「5分貰えてる」って感覚はなかったです。

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緒方:やることが決まっているのは事業者としてはハッピーで、あとはやるだけ。100杯お茶を淹れる過程の中で、100通りの接客を試すことがまずこれからやることなんじゃないですかね。

伊藤:そうですね。もっと作り込んでいかなきゃいけないなと思いました。

20代は、置かれた状況のMAXを経験するべき

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伊藤:最後に、今の緒方さんの立場から、ちょうど30代目前くらいの自分に向けて「これは言っておきたいなぁ」と思うことってあったりしますか?

緒方:あー、そこで言うと「エンジニアリング思考を持て」かな。
前職時代にシステム部門を内製化する過程の中でエンジニアとたくさん仕事をしましたし、自身でもプログラミングに触れる機会が多かったんですがその過程でひとつ気づいたことがありまして。

プログラミングって論理的思考の最たるものなので、エンジニアは問題解決思考とその能力が明らかに他の部門や他職種経験者より高いと確信して。エンジニアとコミュニケーションを取っていくうちに、「エンジニアの人をマーケターにした方が圧倒的に話が早いぞ」と思ったんですよね。

伊藤:なるほど、それくらい論理的思考が大事ってことなんですね 

緒方:まあ、本を読んでロジカルシンキングを学ぶでも良いんですけど、30代目前、くらいだったら一発プログラマー自体をキャリアとしても良いんじゃないかなと。

仕事とはすなわち問題解決ですから、この能力が下地としてあると、どの職種行っても活躍できると思います。デジタルが必要ない仕事も最早ないですし、一石二鳥。

とはいえ、一番大事な言いたいことは別かな。

伊藤さん、『ブルージャイアント』って漫画知ってます?

伊藤:はい、知ってます。

緒方:主人公は「サックスで世界ナンバーワンプレイヤーになる」って宣言した仙台の高校生なんですけど、なんでなれると思っているかというと、彼は毎日全力を出し切って練習していて、それを死ぬほどやった先にしかたどり着けない世界があると信じているからなんですよね。

これが全てで、目の前の仕事に全力で取り組むことこそが次のキャリアを作るんだってことも、25~28歳のキャリアプランをモヤモヤ考え出した自分に伝えたいです。

「自分にはもっと活躍できる場所があるんじゃないか」って思うこともあるけど、今やってる仕事を100やって、その上で判断してから次に行けよ、って。

そもそもキャリアって自分で選ぶものだと思うので、20代はその選んだ目の前の仕事をフルコミットでやって、まずそこでナンバーワンになってから次を考えれば良いと思います。

僕は幸いにも環境と上司に恵まれたので自然と目の前に集中し続けることができた20代だったんですがこれは本当によかったなと思ってます。

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緒方:ということで、30代目前の人に伝えたいのは、エンジニアリング思考は良いぞってことと、目の前の仕事にフルコミットして自分の限界とその超え方を知ってから次のステージへ行け!ってことですかね。

伊藤:20代の今、置かれている状況のMAXを経験するってことですよね。

緒方:そうそう。優先順位付けてひとつずつ、MAXまでレベルを上げることに向き合う。伊藤さんが今持っている最優先は商品提供までの5分間をまず、極上にすることですよね。手品とかやったらいいんじゃない?(笑)

伊藤:なるほど(笑)。まずは、5分間を忘れられない体験にする、絶対リピートさせるみたいなところを次の営業までにやろうと思います。

[取材・文]山越栞/[編集]とみこ/[撮影]加藤 甫


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