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挫折が紡ぐ、自分だけのストーリー|伊藤園 角野 賢一(前編)

こんにちは。美濃加茂茶舗です。

ちょうど一年前に最後の更新をしてから止まっていた美濃加茂茶舗マガジン。この度、再始動致します。これまでのマガジンは「違いを面白がる人」をテーマに、店長の伊藤が人生の先輩のもとを訪れ、読者のみなさんと一緒に「本物」を考えて行く連載をしてきました。

しかし、2020年の春、美濃加茂茶舗は独立。インタビューでお会いした皆さんから「本物」について教えてもらっていた伊藤は店長から代表になり、自身のブランドとして美濃加茂茶舗を運営する立場となりました。

これまで聞かせていただいたお話を糧に、自分たちなりの「本物」を見つめ直し再始動した美濃加茂茶舗ですが、そう簡単にはうまくいきません。この一年は嬉しい経験がたくさんあったと同時に、厳しい言葉をもらったり、悔しい思いをする場面も多々ありました。

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働き方や消費行動において新しい価値観が広まる中で、きっと同じように苦労し、もがいている人たちがいる。読んでくれるみなさんと一緒に、この時代を生き抜くヒントを見つけられる連載にしていきたいと思い、マガジンのテーマをリニューアルしました。


最初のゲストは伊藤園の角野さんです。

新連載「三年 鳴かず飛ばず」に込めた意味

鳴かず飛ばずと聞いて、ポジティブな印象を持つ人はあまり居ないのではないでしょうか。実際、日本では「長い間これといった結果を出さずに過ごしている様」の意味で使われることが多いようです。実は今回インタビューさせていただいた角野さんも「このテーマ、大丈夫ですか」と心配してくれました…。

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角野賢一さん|株式会社伊藤園 広告宣伝部 デジタルコミュニケーション室
2001年株式会社伊藤園に入社、2005年に海外研修生として1年間NYに赴任。
その後、日本に帰国し、国際部、経営企画部を経験し、2009年6月より5年間、サンフランシスコ、シリコンバレーにてお〜いお茶の営業活動を行い、現地のIT企業を中心に「お〜いお茶ブーム」を起こす(現在、シリコンバレーの大手IT企業でお〜いお茶が入っていない所はほぼありません。)。

▼角野さんのことがよくわかる連載はこちら|シリコンバレーで『お〜いお茶』を中心に、日本ブランドを売り込んだ伊藤園角野賢一氏の奮闘記
https://newspicks.com/user/9060

2014年6月に日本に帰国してからは、広告宣伝部に所属し、「茶ッカソン(お茶xハッカソン)」というイベントなどを行いながら、伊藤園が「世界のティーカンパニー」になることを夢見て、新しいお茶の広め方を模索しています。

▼茶ッカソン HP
https://chackathon.com
現在は「Pause & inspire」をコンセプトとしたCHAGOCOROというメディアを展開しながら、伊藤園だけではなく、OCHAを愛する様々な人たちと共に、心身ともに健康になることができるOCHAの可能性を探求し、広めることに全精力を注いでいます。

▼CHAGOCORO | 文化をインスパイアするお茶メディア
https://www.chagocoro.jp/

角野さん(以下、角野):連載テーマが「鳴かず飛ばず」だと聞いたとき、正直どうかなって思ってしまったんですけど、どういう意味を込めてるんですか?

伊藤:やっぱり、一見ネガティブなタイトルに感じますよね。

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伊藤尚哉|美濃加茂茶舗
1991年生まれ。24歳のときに急須で淹れる日本茶のおいしさに魅了され、2016年から名古屋の日本茶専門店・茶問屋に勤務。2018年に日本茶インストラクターの資格を取得(認定番号19-4318)したことを機に、お茶の淹れ方講座や和菓子とのペアリングイベントなどを企画。2019年「美濃加茂茶舗」を立ち上げ。

伊藤:この言葉は中国の故事が由来です。春秋時代、堕落した生活を送って政治を顧みない王が居たのですが、周りの家臣たちは死刑になるのを恐れて何も言えない状態でした。3年経った頃に「自分が死んでもいいから国を良くしたい」との想いを持った者が現れ、自分の身を呈して助言をしてくれたんです。「こんな人を待っていた」と王は政務を執る決意をし、二人で国を良くしていこうと変わっていったという話です。

実は王は心の底から信頼できる人が現れるまで堕落したふりをして待っていただけで、ただ黙って何も考えずに3年過ごしていたわけではなかったんです。

我々は独立してまだ半年ですが、最初の数年は下積みで苦しい状況が続くと覚悟しています。ただ、この苦しい時期をやみくもに過ごすのではなく、5年先10年先を見据えて行動した結果、いつか実を結ぶと考えています。

成功したと言われている人たちにも、同じように“飛ぶまでの3年"があったはずで、そのときの過ごし方や考え方には個性が表れます。こうした鳴かず飛ばずの期間を紐解き、「今」を生きるヒントを見つけていきたいと思っています。

ストーリーの始まりを感じたとき、仕事の楽しさを理解できた

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伊藤:角野さんはシリコンバレー時代、最初にFacebookで受注を獲得するまでに3年かかっていますよね。普通なら心が折れてしまいそうな状況です。

1年目、2年目、と同じレベルでモチベーションを保つのは難しそうですが、つまずいたときや正解が見えないとき、仕事に対してどう向き合っていましたか?

角野:シリコンバレーに行く前に、挫折をしていたことが生きている気がしますね。伊藤園は入社後、まずはトラックに乗って自販機を回るルートセールスをします。雨の日も雪の日もゴミを回収しながら担当エリアをひたすら回ります。想定と違う会社員生活に、自分は成長できるのだろうか?この仕事に意味があるのだろうか?と不安が募りました。毎週日曜の夜は、月曜が来るのが嫌で憂鬱になるような、そんな生活を続けていました。

転機は2年目。当時の上司がくれたアドバイスがきっかけでした。

ルートセールスはある意味誰がやっても結果は一緒。決められた仕事だけじゃつまらないなら、1日1件でいいから、新規の自販機の契約を取りに行く飛び込み営業をするように言われました。

普通はそう言われてもやりたがる人は少ない。みんな担当分を回るだけでも忙しいから、トラックを1分でも停めるのが嫌なんです。でも僕はそのアドバイスを実行しました。自販機を置けそうなビルや新しくできた工事現場を見つけたら、3分でいいから車を停めて交渉しに行きましたし、土日は知り合いに交渉したり。とにかく動きましたね。

すぐには契約は取れませんでしたが、ある日ビルのオーナーが置いてくれ、月に20万売れる自販機になりました。オーナーさんから「やってよかったよ」と喜びの声をもらった時に感動して、初めて「なんか、面白いな」と思いました。

伊藤:「面白い」ですか。

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角野:売上が立つことが面白かったというより、「俺のストーリー始まったな」と予感できたのが面白かったんです。決められたルートセールスをしているだけでも、ある程度の売上にはなります。ただ、おそらく僕以外の人がやってもほぼ同じ結果です。

でもこの新規契約は、僕が居たからこそできた。この自販機とこのお客様との仕事は、僕ならではのストーリーで生まれたのだと感じたとき、仕事が楽しくなりました。結果より過程が重要だと思っているので、モチベーションを左右するのも売上よりストーリーを紡げているかどうかですね。(今振り返ればルートセールスの中にもストーリーを紡ぐことができるポイントがたくさんありますが、当時の自分は未熟で気づくことができていませんでしたw)


伊藤:なるほど。苦労の過程も含めたストーリーづくりがモチベーションにつながるんですね。

角野:挫折の経験は誰にでもあります。ただ、挫折してからが勝負だと僕は思っていて。「こんなはずじゃない。理想の姿じゃない」と感じたあとにどう動くのかによって、その人の真価が問われる気がするんですよね。

面白くないと動けない、動かない。

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▲取材は緑に囲まれた隠れ家カフェとギャラリー
「JINNAN HOUSE」(ジンナンハウス)にて

角野:チャレンジする過程には、うまくいかない状況も必要だと思います。いきなりうまくいくのはつまらない。もがいている自分も嫌いじゃないし、それはそれでかっこいい。あとで話のネタにもなりますしね。

死ぬ時に面白かったなと思える人生にしたいんです。非の打ち所がない人生よりは、山あり谷ありで大変だったけれど、人一倍面白かったと言われるのが理想です。

伊藤:うまくいかないときを楽しむ…。そうは言っても簡単ではないですよね。

角野:子どものころ、父の仕事の都合で転校が多かったのが影響しているかもしれません。高校生くらいまで転校続きの生活でした。新しい場所や新しい人と出会ったとき、どう距離を縮めていくか、どう楽しくするか、うまくいかないときにどうするかを、子どもながらに考えていましたね。その時は、考えていたというより感じていたのかもしれないけれど。

それと、自分で言うのもなんですが、僕は素直なんですよ。自分には足りてないところがたくさんあると自覚しています。

最初は手当り次第自分のアイディアで突き進みますが、それでもうまくいかなければ人にアドバイスされたとおりにやってみます。その時は一切アレンジせず、そのまま。シリコンバレー時代もそうでしたが、自分がかっこいいと思った大人の言う事は、素直に聞いてみます。その姿勢は重要かもしれません。あとはもう、やりたいかどうかです。

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伊藤:インタビューを読んだり、お話を聞いていて思うのは、角野さんは「面白い」をすごく大事にされている人ですよね。自分のテンションが上がるかどうかが原動力というか。

角野:それでしか動けないんですよ、ほんとに。サラリーマン的には良くないだろうけど、自分のテンションが上がらないことに関しては全くやりたくない。でもその一方で、やりたいことに対してはいくらでも頑張れるし、エンジンがかかれば人の5倍10倍パワーが出る。そういう極端なところを無くして全部真面目にやり始めたら、きっと自分はだめなんだろうなって思っています。


〜後編へ続く〜
後編は角野さん流「面白い」を深堀ります。


[文・写真]美濃加茂茶舗 |松下沙彩( @saaya_matsushita )


取材時に角野さんに飲んでいただいた「萎凋煎茶」は美濃加茂茶舗オンラインストアでも販売中です。

▼CHAPTER[チャプター]_リモートワーク時代の100年使える湯のみ(専用箱付き)



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