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ドイツ・ポッドキャストアワード2020【前編】

2019年、日本では初となる JAPAN PODCAST AWARDS が開催されましたが、ドイツでもこの一年はポッドキャストが大きな盛り上がりを見せた年でした。こちらでは、2020年3月26日に受賞者が発表された第一回のドイツ・ポッドキャストアワードについて、2回に分けて書こうと思います。
【前編】では概要と受賞作品を、【後編】では惜しくも受賞を逃したもののノミネートされた作品を聴き、解説します。

〈パッと概要〉

2020年3月26日に発表されたドイツ・ポッドキャストアワード(Deutscher Podcast Preis 2020)は、今年創設された賞で、ドイツ語圏のポッドキャストを表彰するもの。6部門に観客賞を加えた7部門で構成されている。
アワードを創設したのは、公共・民放ラジオ局数社、ポッドキャストプラットフォーム、オーディオブック配信を行うAmazonのaudible、Spotifyなどの計13社。2019年1月1日から12月31日までに1エピソード以上配信したドイツ語圏のポッドキャストが対象で、応募は全て自薦。5分以内のオーディオファイルでアピールポイントを送る。審査員は148人のポッドキャスト関係者で、ノミネート作品のポッドキャスターや、ジャーナリストなどが数多く並んでいる。
2020年3月19日にベルリンで予定されていた授賞式は、新型コロナウイルスの拡大で中止となった。代わりに授賞式はポッドキャストの形式で配信され、受賞者は電話で受賞を知ることとなった。その"授賞式"を収録している様子は、インスタグラムで見ることができる。

〈7の表彰部門と受賞作品〉

●ジャーナリズム部門

ポッドキャストはもはや、ただの教養やエンタメのためのメディアではなく、すでにジャーナリズムにとって欠かせないものとなっている。2019年、ジャーナリズムに大きな貢献をしたポッドキャストがノミネートされた。

受賞:"Verbrechen"(DIE ZEIT)

週刊紙 "DIE ZEIT" の副編集長で、長年司法問題を取材してきたザビーネ・リュッカート(Sabine Rückert)と、 同紙の "Wissen" 面を率いるアンドレアス・ゼントカー(Andreas Sentker)のポッドキャスト。主にリュッカートが取材してきた刑事事件を毎エピソード一件ずつ解説している。緊張感を持った語り口で事件を詳細に再現し、犯罪の法的な位置づけや、事件の背景にある個人的・社会的な問題を取り上げながら、1時間ほどのエピソードが進んでいく。
そのほかのノミネート
"Faking Hitler"(stern)
"Steingarts Morning Briefing -- Der Podcast"(Gabor Steingart)

●トークチーム部門

ポッドキャストの定番といえば、ひたすらお喋りを聴くというもの。ドイツ語では "Laberpodcast" という言葉が定着している。もともとは少し見下して使われていた言葉だったが、今やポッドキャスト愛好者の間では愛情を込めて使われているようだ。

受賞:"Paardiologie"(Spotify, Charlotte Roche, Martin Keß-Roche)

作家のシャルロッテ・ローチ(Charlotte Roche)と夫のマルティン・ケース=ローチ(Martin Keß-Roche)夫婦が毎週配信するトークポッドキャスト。15年の結婚生活での紆余曲折について二人が語る。お金、洗濯機、セックスなど、二人がパーソナルな領域を正直に明かしながら、愛は長年の付き合いの中で続くのか、という大きなテーマに迫る。本当に居間で夫婦の会話を聞いているような、ゆっくりとした時間の流れがまさに「オーディオ・セラピー」。Spotify限定配信。
ちなみにシャルロッテ・ローチはARTEのドキュメンタリーシリーズ "Love Rituals" で、日本を訪れて日本のラブホテルや「かなまら祭り」を訪れている。
そのほかのノミネート:
"COSMO Machiavelli"(Westdeutscher Rundfunk)
"Fest & Flauschig"(Jan Böhmermann, Olli Schulz)

●インタビュアー部門

ゲストを迎えるインタビューポッドキャストでは、いかにいいタイミングで、的確なエピソードを引き出せるかが鍵となる。その話術を評価するのがインタビュアー部門だ。

受賞:"Deutschland3000"(Junge ARD-Programme & funk)

若手ジャーナリスト、エファ・シュルツ(Eva Schulz)がゲストを呼んで1時間ほど、その人物像に迫るトークポッドキャスト。ゲストは「ポップと政治の間のどこか(irgendwo zwischen Pop und Politik)」で活躍する人で、若いことが多い。
シュルツは、政治にあまり関心を持っていない層に興味を持ってもらうきっかけを作ることを目標の一つに掲げて活動している。彼女が関わるビデオチャンネル "Deutschland3000" (YouTubeが開きます)では、このような層向けに政治や社会の仕組みを解説している。ドイツのポッドキャスト10選でも紹介。
そのほかのノミネート:
"Alles gesagt?" (ZEIT ONLINE, ZEIT MAGAZIN)
"Hotel Matze"(Mit Vergnügen)

●プロダクション部門

プロダクション部門では、ポッドキャストというメディアの魅力を最大限に引き出すために努力を惜しまず制作にあたっているポッドキャスターを表彰。どこにBGMや効果音、生音声を挿入するかが、実は心地よいポッドキャスト体験を支えている。

受賞:"TALK-O-MAT"(Spotify)

全く異なる分野で活躍する人の「ブラインドデート」ポッドキャスト。話始めるまでお互いを知らず、誰とトークすることになるかも知らない2人が、約1時間、二人っきりの空間で話す。
話すテーマは、「感情のないアルゴリズム」によって次々と決められていくという設定で、どんどん移り変わる。話している途中で冷酷なコンピュータ(っぽい)声が次のテーマを宣告し、二人は突如話題を変えなければならない。このような中、初めはぎこちなく始まる会話が、だんだんと慣れたものになっていき、話が弾む様子が面白い。毎月1エピソード配信。
そのほかのノミネート:
"Eine Stunde History"(Deutschlandfunk Nova)
"Finding Van Gogh"(Städel Museum)

●スクリプト/作家部門

この部門では、ノンフィクションをいかに的確にポッドキャストに再構成するかが問われる。現実世界に散らばった事実、人の物語を組み立て、一つのストーリーに落とし込む技術は、ポッドキャストの要とも言える。人に届く言葉や演出方法を駆使して、人を惹きつけるポッドキャストが制作されている。

受賞:"Das allerletzte Interview"(Spotify, Visa Vie)

本名を Charlotte Mellahn というヒップホップの専門家でありモデレーターである "Visa Vie" のポッドキャスト。自身もラッパーである彼女のこのポッドキャストは3シリーズ、30エピソードにおよぶ大作。架空のヒップホップジャーナリスト Clara が、有名ラッパーを殺害しようとするという「実際の出来事や存命の人物、あるいは故人とは一切関係ない」ストーリーだが、いくぶん自伝的な要素も入っているという。いわゆるポッドキャストとは少しテイストが違い、ミステリーもののオーディオブックを聴いている気分になる。
そのほかのノミネート:
"Enke -- Leben und Tragik eines Torhüters"(NDR2)
"4 Tage Angst"(BR2)

●ニューカマー部門 

いまやポッドキャスト番組は80万も存在するという。日々新しいチャンネルが誕生する中で、この1年でポッドキャスト界に欠かせない存在になったポッドキャストがノミネートされる。

受賞:"Paardiologie"(Spotify, Charlotte Roche, Martin Keß-Roche

ドイツ・ポッドキャストアワード2020、唯一の2冠を達成したのが "Paardiologie"。ポッドキャスト配信された授賞式に電話越しに「出席」した、夫 Martin は、「57歳でニューカマー賞をもらえるなんて」と感激していた。このポッドキャストは書籍化もされている。
そのほかのノミネート:
"180 Grad: Geschichten gegen den Hass"(NDR Info)
"Bestatten, Hauda."(Bianca Hauda)

●観客賞/エンターテインメント部門

受賞:"Gemischtes Hack"(Felix Lobrecht, Tommi Schmitt)

合計90万以上の投票数から最も多くの観(聴)客を勝ち取ったのはコメディアンのフェリックス・ロープレヒト(Felix Lobrecht)とコメディー放送作家のトミー・シュミット(Tommi Schmitt)のポッドキャスト。タイトルの意味は「合い挽き肉」。60分から80分、コメディー畑の二人のおしゃべりは飽きない。Spotify限定配信。
そのほかのノミネート:
"Dick & Doof"(laserluca)
"Football Bromance"(Coach Esume, Björn Werner)

〈後編の目次〉

後編では、それぞれの部門でアワード受賞こそ逃したものの、語らないにはもったいないノミネート作品を紹介する。

もしご興味があれば、ポッドキャストアワードとは別に、独断と偏見で選んだドイツのポッドキャスト10選もお読みください。一部、今回ノミネートされている作品も含まれています!


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