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学生時代死ぬほど好きだった教授の話


自分の興味のある分野で、単位が取りやすいと聞いていたから
わたしが大学2年生の時、「形態論」を履修したのはそんな理由からでした。

形態論とは言語学の単語に関する分野で
簡単に言えば「一語」がどう作られているかを分析するものです。

その先生は初回から凄いスピードで、形態論とはなにか、この1年でどんなことを学んでいくのかを話続けていました。

なんかめちゃくちゃ興奮してた。
すごい勢いで二面の黒板は埋まっていった。
勢いがあるのに、綺麗な字。
書いては消して書いては消してを繰り返す。

これはわたしが大学生活の中で一番授業が楽しかった、金曜3限がゴールデンタイムだった時の話です。

金曜3限の特等席

毎週授業を受けていくうちにどんどん先生の虜になっていきました。

字が綺麗で、息を吸う暇もないほどずっと喋っていて、わたしたちのため(先生はわたしたちのことを諸君と呼んでいた、変すぎる)に数十ページのレジュメを毎週準備してくる。質問にも毎週丁寧に解答して細かい解説のレジュメを送ってくれる。

授業も上手い、人を惹きつける魅力がある、わたしたちの質問や疑問に向き合ってくれるところも大好きでした。


授業が始まって数週間後
いつもと同じようにサークルの予定が終わりギリギリに教室に駆け込む。
うーん!まさかの1番前の方の席しか空いていない~~!

友人と「さすがに近すぎない?」と笑いながら私は教卓の目の前の席に座りました。

ここがこの一年間、わたしの金曜3限の特等席となる場所です。

その日のストーリー
目の前のが教卓

その日の授業のスピードもそれはそれは早くて、集中してないと一瞬で分からなくなる勢いでした。
黒板が文字でいっぱいに埋まっていき、消されていき、また埋まっていく。

先生はキリが良くなるまで絶対に雑談をしませんでした。授業が始まったら息をする間もないくらいずーっと講義している。1時間くらいするとちょっと休憩で雑談タイムが入る。これも大体言語学の話。それか大学周辺の自然が如何に豊かで素晴らしいかみたいな話。

この2パターン。ずっと楽しそう。ずっと早口。ずっと興奮してる。

そして一段落するとまたずっと喋り始める。
形態論の90分は秒だった。
Twitterやインスタを見る暇なんて無い。
スマホはリュックにしまって、ひたすらノートを書き続けた。楽しかった。

あの席はわたしにとってSSS席でした。
推しの90分ライブを無料でこの席でみれるなんて、大学って最高~~!

ちなみにこの席がほかの女(女子大)に取られていた日は睨みながら(そこ私の席だからな、調子乗んな、来週は絶対座ってやる〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜)と念を送っていました。

この席はファンサービス(問題)をめちゃくちゃ受けられる。
絶対に誰にも譲りたくない。

授業が終わった後のツイート
完全に虜


わたしが認知を貰うまで

何度かファンサ(問題)を貰うことも、講義前にちょっとお話することもありましたがまだ先生から認知は貰えていませんでした。

わたしは好きになると好き避けしがち
拗らせがちです

好きなら講義の後とかに話しかけたり質問したりすればよかったのに、と今でも思いますが、その時はわたしが先生をめちゃくちゃ好きだという事実を本人に知られたくなかった。(一応言っておきますが、恋愛的な好きという気持ちは1ミリもなかったです。本当にファンなだけ。超ファンなだけ。)

そこで取った私の行動。
今考えるとまあまあ気持ち悪いです。

1期目のテストで死ぬほどいい点数を取ってわたしという存在を頭の中に刷り込んでやろうと思いました。

それはもうめっちゃ勉強した。
誰にも負けたくない。
あの教室で、私が1番、いい学生になってやる。

99点を取りました。
1個間違えちゃったことが本当に悔しかったです。
ファンとして有るまじき失態。

でも、この効果は凄かった。

ファンサじゃん…………………

↑ちなみにわたしは指定校推薦というチート芸で入学したのですが(GPA高かったから許して欲しい)この言葉で救われた気持ちになりました。字、綺麗〜

ちゃんとこの後ツイートした

これを機にわたしは認知を貰いここから徐々にファンサを貰っていきます。
絶対に、先生はわたしのこと大好きだったと思います。

ファンサービス

このテストの後からは、よく先生から話しかけてくれるようになりました。授業中も大教室で名指しされるようになりました。ファンサ(問題)もたくさん貰えるので、ちゃんと応えたくて(解答)毎週ちゃんと復習してました。

ある日授業前に準備をしていたら「みそさん、ノート見せてくれない?」と先生から声をかけられたことがありました。わたしの大好きな先生の大好きな授業の板書ノートを見せるのはなんだか照れくさくて「え〜笑」って言いながら渡した気がします。

わたしのノート


「大丈夫大丈夫〜…え、【○○先生(自分の名前)大好き】とか書いてないよね!?笑」

めちゃくちゃ好きばれしまくってた(ファンサ)
めちゃくちゃいじられた(ファンサ)

ここまで読んで皆さんがセンセイ君主の竹内涼真みたいな爽やか系高身長イケメンを想像していたら申し訳ないので言っておきますが、あの、大学教授なので普通におじさんです。茶色い服きてます。でもたまらん。わたしがめちゃくちゃ好きなの分かっててやってる。SUKI。


私の大学は学生証をピッてして出席をとるみたいな最先端技術がないので毎回リアクションペーパー(通称リアペ)という感想シートを出して出席を取ります。先生は授業の感想を書かせる時もあれば、課題を出してその回答を提出させることもありました。

リアペの課題が英文訳だった日がありました。
わたしは英語が(一般的に見れば)苦手では無いですが、分からない時はとことん分かりません。この日の英文は文構造も、単語も全然理解出来ず、お先真っ暗、わたしには太刀打ちできないものでした。

答えを書かずに返るのは嫌だったけど、分からないものは分からない、「無理です、分かんないです」って書いて出した。

教室を後にしようとしたとき、「みそさん〜〜〜〜〜〜!ちょっと〜〜〜〜〜!」って呼び止められました。

マイク越しに。
構内で2番目に大きい部屋で。
他の学生めちゃくちゃいるとこで。

恥ずかしかったし、英語が全然分からなかったことは悔しかったけど、ちょっと嬉しかった。
好きじゃん、先生、わたしのこと!!!!
気になってるやん!!!LOVE!!相思相愛!!!

これもちゃんとツイートした気がします。


先生は割と人気で、形態論を取ってた人の中には何人かわたしみたいなファンがいたと思う。

でもわたしは誰にも負けたくなかった。中途半端な好きじゃない。ファッションで好きなんじゃない(大学教授をファッションで好きとは)。

若干の同担拒否


好きだからちゃんと勉強もする。
ちゃんと学んでやる。
忙しかったけど形態論だけは妥協したくありませんでした。

毎週ポータルサイトに送られてくる質問解答のレジュメや講義ノートをちゃんと開いて、復習する。ちゃんと吸収してやろうと思った。

図書館で司書の人に声をかけないと借りられない文献までちゃんと読んだ。英語を読むのは苦痛だったけど先生の為なら楽勝だった。

勝手にファンネーム作った

↑誰も答えられなかった問題を振られて即答できたときの喜びツイート。
自分で言うけどめちゃくちゃかっこよかったわたし。
ちゃんと勉強してた、よ!

授業に行けばファンサが貰える
勉強すればするほど先生の期待に応えられる
仲良くなれる
毎週金曜日、3限、126教室の教卓前。
大好きな時間。大好きな特等席。


来年はここにいない

大学2年生もあと数ヶ月になった9月、
先生は授業中に「来年はこの大学に来ない」という話をし始めました。
元々先生は他大の先生で、毎週数コマの為にわたしの大学に来ていました。他大の方が忙しくなるから来年は別の先生が担当になる、と

寂しかったし、悲しかったです
わたしが3年、4年になってもっと言語学に詳しくなったらもっと話せるのに、
単位なんていらないからあと2年間この授業を聴講してやろうと思っていたのに、
もっともっと仲良くなりたかったのに。


最終講義と最後のリアペ

最後の講義もいつも通り超スピード超早口超板書で進んでいきました。
最後くらいゆるっとやろうとかは無かったです。そういうところも大好きでした。字も最後まで綺麗だった。

最終講義のリアクションペーパーは学籍番号と名前を書くだけで大丈夫でした。でもみんななんとなく先生の授業の感想とかを書いていたと思います。

わたしも何か書こうと思いました。

この一年間、金曜の3限が楽しみでしょうがなかったこと、先生の授業は凄いってこと、言語学って面白いって知れたこと。

書きたいことはたくさんありました
でもちょっと恥ずかしかったんです。寂しかったし、悲しかったし、恥ずかしかった。

結局何も書かずに、学籍番号と名前を書いたリアクションペーパーを出しました。

言語学と大学生活

初めは不純な目的だったけど気づいたら言語学が楽しくてしょうがなくなっていました。

他の言語学の授業も取ってみたい。
この大学で取れる全ての言語学科目を履修したい。
他大の講義も受けてみたい。
もっと色々知ってみたい。

結局わたしは大学3年も4年も言語学のゼミに入り、卒業時にはほぼ全ての言語学科目を履修しました。
でもやっぱり一番楽しかったのは、先生の形態論でした。

その道に進むことは無かったけど、就活のときにこの思い出はわたしにちょっとだけ自信をくれました。好きなことだったら、好きなものの為なら、わたしは絶対頑張れる。好きなものを仕事にして、頑張っています。

先生とは最後の講義以降お会いしてません。
連絡も取っていません。
時々あの授業のことを思い出して青春だったなぁと思います。今でもあのスピード感と高揚感を思い出しては懐かしい気持ちになります。

わたしは大学2年時、学園祭の副委員長をやっていて身体的にも精神的にも結構疲弊していました。形態論は学祭委員の全体会議の後にありました。形態論が始まるまでの数分で議事録を書き上げ、時にはパンをかじりながら先生の講義を聞いていました。キツかったけど、形態論が毎週楽しみで、金曜日まで頑張れた。この会議が終わればまた先生に会える、それだけで元気が出た。

いつかまたお会い出来る時があったらちゃんとお話したいなと思っています。今もどこかで先生の授業を受けてる大学生がいると思うと羨ましいです。またあの、息を吸う暇もない講義と、書いては消して書いては消しての板書を見たい。食らいついていきたい。あんまり興味無いけど、如何に大学周辺の自然が豊かで素晴らしいかの話もちょっとだけ聞きたい。

元先生の受講生より。

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