ミッドナイトスワンが凄かった話
こんにちは。
中学時代の思入れある友人がSNSに『これは間違いなく名作映画だ』と珍しく熱弁しているレビュー投稿をしていたのを見かけて、思わず邦画にめっきり苦手意識のある私も即座にオンラインチケットを取り次の日一人で鑑賞しに行った。
宣伝ポスターの草彅剛が女装しているというインパクトの強いビジュアルのみ頭に入れて、他の前知識は一切なかった。友人の感想には『映像、脚本どちらも良かった、草彅剛がまるで演じている役本人そのもので違和感なく圧巻だった』とざっくり書かれていたので、大まかなストーリーも知らずに。
凪沙(草彅剛)と、一果(服部樹咲)の物語だとすぐ理解する。
あれ、事前に一果の存在について知らなかったのは何でと疑問が浮かぶほど、こんなに日陰が似合う女の子が凪沙のインパクトを悠々と越えるか、並ぶか、圧倒的な存在感だった。メインの二人の側面を見守るような感覚と同時進行で、唯一の友だちだったりん(上野鈴華)が一果に向ける心情の変化を理解しついていく感覚で観ていた。キスしてしまうシーンが理解できちゃった。それくらい色んなこと複雑な感情を通り越して一果の美しさが勝った。
水川あさみ演じる実の母親は必要最低限しかシーンがないくせに、それが血の繋がりという絶望と愛の絶対的な力の大きさを揶揄しているように感じられて、生みの親という存在を見せつけられた気分になった。
凪沙に感情移入するのはあまりに苦しい。でも寄り添う一果に心底安心する。この世の中の真理を容赦無く突いている。私なら、なんて想像するのも凪沙を否定することになるんじゃないかと怖くなってできなかった。代わりに今の自分の人生について向き合わされた。共感ではなく、静かに現実と向き合う印象を受けた。
綺麗にまとめることもできるストーリーだけど、まとめあげてしまうより一瞬一瞬のシーンを愛おしく追悼するような感想でいいや、と思った。
この映画を観て数日経ってから書いているにも関わらずこんなに鮮明に劇場シーンを思い出すのは本当に久しい感覚で、ストーリーや映像は思わず目を瞑ってしまうような重たいものもあるのにしんどさや辛さより温かい気持ちが残っている。キラキラと眩しいくらい綺麗な映像とドスンと逃れようのない黒に近い現実が絶妙な塩梅でバランスを取っているんだろうな。とにかく何と表現していいか分からなくなるけど、愛に溢れた作品だったとだけ言い切りたい。絶望を与える映画ではなく、今を生きろと勇気のような使命のようなそんな感情をもらうことができた。観て良かった。
一人で観て正解だった。でも誰かと感想を言い合いたい、この気持ちはシェアしなくてはダメな気がするな。と興奮気味に帰る道中にレビューを書いていた友人から連絡があり、久しぶりなやり取りなのだけれどこの映画について通じ合う部分がありながらとても心地よい話ができたのが嬉しかった。その友人も邦画が苦手らしい。不思議だなー。こんなに良いものを観てしまったからまた当分観る気にならないかもと。たまにでいいね、って。
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