Azur "Reflorescence"(2017年、日本)


Azurは日本の音楽ユニット。メタルの色の強いアニソン調の曲を得意としている。
アニメに詳しい方はご存知かもしれないが、このユニットは"Fate"シリーズのCM楽曲"A stain"の歌唱で話題になった環みちるが在籍していることでも知られている(当時は「みちこる」名義。以下「みちこる」と表記)。彼女は商業作品・同人作品問わず作詞家としても数多くの傑作を書いており、このアルバム"Reflorescence"でも2曲歌唱と作詞を担当している。今回は彼女に焦点を絞ってこのアルバムについて書いてみたい。このブログの一応の題は「アジア民族派ロック・ポップス探訪記」であるが、"Reflorescence"は「和」の趣の強いアニソン・ロックが特徴だ。早速いってみよう。
「桜の唄」でこのアルバムは幕を開ける。みちこるによる冒頭の歌詞は以下の通りである。
「今宵 霞がかり 差し込む 月あかり / 歪む 水面に雪化粧 夢見事」
耽美的な、象徴主義的な一節だと思う。何か物語性・メッセージ性があるようなフレーズではないが、能の謡曲を読んでいるような感覚にとらわれる。夜(今宵)→霞→月→水→雪→夢、といった美しいイメージの連続が畳み込むようにリスナーを襲う。
前作"Gears for Quartet"(2016年)からみちこるは作詞家デビューを果たしたが、その作風は私小説的な作家性の強いものである。今でこそ彼女は多数のアーティストに歌詞を提供しているが、Azurを主催しているTomoさんのこのアルバムのコンセプト「和」に応えるような見事な歌詞を書いている。"Gears…"のようにありのままの自分を思いきりさらけ出すような歌詞ではなく、与えられた一定のテーマに沿った歌詞を初めて書いたという意味では彼女の後の商業作家としてのきっかけとなるものではないか。
みちこるが書いた2つ目の歌は「山花茶」である。ここでは私の思い入れが先走るような解説になってしまうことを許して欲しい。
「あぁ 気高く咲き誇る花 / 信じる者は自分自身と / あぁ 何度でも呼びかけて」。孤独や絶望に苛まれながらも、それでも「気高く咲き誇る花」のように前を向こうとするみちこるの姿がこの歌には投影されている。
数年前の話になるが、都内某所でのライブハウスで彼女のライブを見たことがあった。最後の方でこの「山花茶」を歌ったのだが、彼女のMCによると、ちょうどこの頃の季節も考慮して「冬から春へと変わるイメージ」を想定してこの歌を最後の方に持ってきたという。この歌を歌い終わった時、彼女は体の中に新しい命を宿していることを告白し、一瞬、会場が荘厳な雰囲気に包まれた。その次に歌った歌がいきものがかりの「花は桜 君は美し」だった。そのパフォーマンスは圧巻だった。おそらく私が今まで見た彼女のパフォーマンスの中で最も優れたものの一つだったのでは、と思う。私はその時、彼女の青春、そして自分の青春が「山花茶」の花のように散っていく幻想を見たような思いだった。青春は終わってしまったのだろうか。いや、彼女が後に自身のサークル"cuebloss"として発表したアルバム"polyhedra"(2021年)に収録された歌 "The Girlest Day"によれば、毎日が残りの人生の中で「最も少女な(The Girlest)」日なのだ。
Azurは他にも良質なアルバムをリリースしている。最近はサークルとしての活動が停滞している感はあるが、M3で出店する機会があったら是非ともCDを購入して欲しい。
みちこるのソロ作品についてはまたいずれこのブログに書いてみたい。


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