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ナイチンゲールの足場から〝いま〟の わたしたちを見たら(9)


【第3章】 生活を整える 

04:物音 Noise


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不必要な物音や、心のなかに何か予感や期待などをかき立てるような
物音は、患者に害を与える音である。


〜物音は音ではない、物音は意味である〜

物音とはなんでしょうか。ナイチンゲールは多くの事例をあげて物音の持つ患者への影響について説明をしています。患者に害を与える物音として〝不必要な物音〟と〝心のなかに何か予感や期待などをかき立てるような物音〟をあげています。物音を単なる〝音〟ではなく、〝意味〟と捉えたときに、それが患者に与える影響を考えることは、看護であることの大切な要素であることがわかります。

不必要な物音とはなんでしょうか。それは意識したり、注意したりすれば避けられる物音です。配慮にかけたり、無意識に出したりしている物音といっても良いかもしれません。ナイチンゲールはその顕著な例として「患者を突然に眠りから目覚めさせるような物音」をあげます。患者にとってそれは単なる睡眠の中断ではなく眠る力を奪うことになります。日常動作やリハビリ中の不用意な声がけにも注意を促します。突然であったり、予期できなかったりすると思わぬ事故につながる恐れがあります。何かに集中していたり、考え事をしていたりするときにもそれを中断させないように見守ることが大切です。

予感や期待などをかき立てるような物音とはなんでしょうか。それは人の話し声です。病室の中や外から聞こえてくる話し声やささやき声に患者は耳をすましています。「自分が話題になっているかもしれない」と思い、そのことが患者の心を苛立たせたり、落ち着かない気持ちを生じさせたりします。ナイチンゲールはこうしたことを「最も悪質な行為」と非難しています。ナイチンゲールはさらに見舞客が患者に発する「取り繕った湿り声や同情をよそおった声」なども患者に害となる物音だとしています。


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あなたが聞かれていないことに、あなたは答えない。

新型コロナウイルス感染症の物音とはなんでしょうか。それは情報です。意識的にせよ、意識的でないにせよ、情報は入ってきます。姿やかたち、中身がはっきりしない〝相手〟だからこそ、確かな情報や不確かな情報が入り乱れました。情報の渦に飲み込まれ、考え方や行動にいろいろな影響が生じました。

情報を得ることは大切です。では、正しい情報を得るためにはどうしたら良いのでしょうか。発信元が明らかな新聞やテレビの情報だけではありません。ホームページやブログ、SNSなどの発信元が不確かな情報もあります。真偽を見極めて振り回されないようにすることは困難かもしれません。しかし、ただひとつできることはあります。わたしたち自身が不確かな情報の発信者にならないことです。安易に情報の根拠や信頼性を確かめることなく反応しないことです。

ナイチンゲールは「あなた自身の心のなかに何らかの疑問やためらいのあるようなことは、たとえそれが些細なことであっても(私はむしろ些細なことのほうが良くないといいたい)、絶対に患者に伝えないこと。疑問はあなた自身の内にしまっておき、決定していることだけを患者に伝えること」と言っています。情報は〝ある〟のではありません。発信者が〝生む〟ものです。


ひとりでも多くの人にナイチンゲールが言う「生活を整える」ことの大切さを伝えたい…、そんな願いからnoteで発表することにしました。本記事は一般社団法人チーム医療フォーラムの季刊誌『ツ・ナ・ガ・ル』35号(2020年6月発行)の特集記事を転載したものです。ほぼ毎日「1章」か「1節」ずつ記事を掲載していきます(下記の目次をご参照ください)。

※本記事は以下に記載した文献を出典とし、参考にしています。 看護覚え書 フロレンス ナイチンゲール (著) 現代社、新版 ナイチンゲール看護論・入門 金井一薫(著) 現代社 白鳳選書、ナイチンゲール言葉集 現代社 白鳳選書、ナイチンゲールの『看護覚え書』金井一薫(著) 西東社、看護覚え書きフロレンス ナイティンゲール (著) 日本看護協会出版会、フロレンス・ナイチンゲールの生涯 宮本百合子 (著) Kindle版、他。
・記事監修:秋山和宏(医学博士、東葛クリニックみらい院長)


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