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対談8 長谷部真奈見さんに聞く、就学支援のすすめ

「みんなで就学活動」は、支援の必要なお子さんが小学校に就学する時にご家族が遭遇する困難や悩みを知るとともに、自分たちにとってより良い選択を描きながら就学できるようにするための“こうしよう”術を、みんなで対話し、つくりあげていくプロジェクトです。
ここでは高橋真さんが各分野の専門家を訪ねて聞いた、多様な視点と具体的なアドバイスをご紹介していきます。

第8回目となる今回は、金融でお悩みを解決する株式会社FinCubeの代表であり、アナウンサーとして著名人のインタビューや対談などを多数担当する、対話力のプロ、長谷部真奈見さんにうかがいます。


長谷部 真奈見(はせべ・まなみ)
株式会社FinCube代表取締役、NPO法人アクセプションズ理事、経済キャスター(JOYSTAFF所属)。2001年慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、米JPモルガン・チェースに入社。投資銀行部門にてM&A(企業の合併・買収)に従事する。NY本社にて「9.11世界同時多発テロ事件」に遭遇したことをきっかけにジャーナリズムの道を目指し、民間テレビ局にアナウンサーとして入社。報道番組の記者兼キャスターを務め、現在はフリーアナウンサーとして活動を続けている。現在、経済キャスター、金融コラムニストとして様々なメディアに出演中。また、ダウン症候群のある長女の出産を機に、障がいのある方とその家族を支援するNPO法人アクセプションズの理事として、ボランティア活動やイベントの企画・開催、障がいのある子育てについても積極的に発信を続けている。
 長谷部真奈見オフィシャルブログ『“1000分の1”と共に』

就学活動は、戦わない、必要なのは対話力

高橋 真(以下、高橋さん) お子さんの就学活動の時や入学後でも、長谷部さんが気を付けて取り組んでいたことはありますか?

長谷部さん そうですね。就学支援といえば、対話力、だと思いますよ。なぜなら誰とも戦う必要もないし、敵はいない活動ですからね。

高橋さん 戦わないこと、大事ですね。ただどうしても、学校や先生との対話に緊張したり感情的になってしまい、思ったようにうまく話せなかった、という保護者の声を聞くこともあります。お子さんの就学にあたり、長谷部さんが最初に「対話力」を発揮したのはどんな時でしたか?

長谷部さん 現在娘は中学2年生なんですが、小学校に入学するとき、同じ渋谷区でも広尾に住んでいました。歩いて1分ほどの距離に地域の小学校があって、通常級しかないのも理解していましたが、何の迷いもなくそこに入学させるつもりでいたんです。でも、就学前診断で学校に行ったとき、最後の面接で担当いただいた校長先生に「お子さんにあった学校はもう決められましたか?」と言われました。その学校に入るつもりで娘と一緒に来ているというのに。

その時も冷静に「地域で育てたいと思っているのでここに通うつもりですが、先生は他にもっと娘にあう学校があるとお考えなんですか?」とお聞きしたら「そりゃそうですよ」とはっきりおっしゃったんです。つまり娘は歓迎されていなかった。その校長先生の言葉で、この学校では、どうしたら娘が学べる環境であるかと努めてくれることはない、と感じました。

高橋さん なるほど。では他の小学校を探したんですか?

長谷部さん そうですね、広尾が気に入っていたので、それまで全く考えていなかったんですが、夫と相談して、すぐに他の学校を見に行きました。たくさんの学校を見に行く中で、支援級の学校説明会に唯一校長先生が出席してくださっていた学校があったんです。校長先生とお話ししてみると新しい取り組みにも前向きな姿勢だと感じたので、結局同じ渋谷区内で、小中一貫の中学まで支援級があるその学校に通うことにして、今もそこに通っています。

もちろんあの校長先生が異動されることもあるので、学校が変わる可能性もありますが、どうしても「このままこの話し合いは平行線だろう」と感じる時もありますよね。そうした時に、相手に変わることを期待したりするよりも、こちらから環境を変えたり、相談する先を変えたりと、柔軟でいるように努めています。それは逃げではなく、対話した上での良い選択だと思っています。

対話で解決するために、ゴールを考えておく

高橋さん 今お子さんが通われている学校でも、学校の先生との対話で気をつけていることなどはありますか?

長谷部さん  コミュニケーションの機会は大切にしています。実は今の学校も、支援級と通常級がすごく離れている場所にあったり、入学式では支援級の3名だけが別々に入場してきたりして、これじゃ支援学校と変わらないのでは、と前途多難を想像することは最初からありました。

でも私の中で決めていたゴールは、「娘が小学校という大事な時期に、地域の学校で育ち、できるだけ通常級のお友達とも一緒に過ごせること」でした。そのために、先生とも学校とも、時には学務課とも、誰とも戦わず、ただ一緒にどうしたらそのゴールが可能になるのかを考えてもらいたい、と思っています。

例えば何か話し合う時も、関係する人みんなに集まってもらえるようにしたんです。具体的には、支援級の担任の先生と主任の先生、それから、通常級の担任の先生と主任の先生ですね。どうしても支援級の都合と、通常級の都合に違いがあるので、それぞれの違いを先生たちに体感していただけるように、両方の先生に同席をお願いした形です。そうすると、副校長先生も参加されることもあるし、高学年になると専科の先生も入ったりして、私を含めた6者面談ということになります。

できるはずのことが「できない」原因はどこに

高橋さん そうした対話によって、これまでに改善できた事例があれば教えていただけますか?

長谷部さん 低学年の時の交流時間ですね。娘にはできるだけ通常級のお友達とも交流をもってほしかったので、最初の切り口として、給食の時間の交流をお願いしました。学校も、給食を通常級で一緒に食べることには前例があったんです。しばらくしてその様子を聞くために、6者面談をお願いしました。

高橋さん 面談では、どんな風に話を切り出すんですか?

長谷部さん 課題を聞くようにしています。娘はどうですか?と通常級の先生に聞くと、「とってもいい子です」と良いことばかりをおっしゃっていたので、「先生、今うちの子にとって、給食に関する課題はどんなことでしょうか?」と聞きました。それで、3つ挙げられたんです。1つは、みんなが給食を食べ終わるまで待てず、支援級に帰ってしまうこと。2つめが、給食後の休憩のあとは掃除の時間になるので、給食の後に机を隅に寄せることになっているのに娘がやらないこと。3つめは、掃き掃除や拭き掃除はできるけど、机を元の位置に戻せない、ということでした。

なるほど、と受け止めたものの、どれも娘ができるはずのことだという確信がありました。きっとできない理由があるからしていないんだろうと考えて、ひとつずつ先生方と対話を進める中で解決したんです。

一緒に話し合うことで、「できない原因」に気付き解決した3つのこと

長谷部さん まず1つめの、通常級ではみんなが食べ終わるのが待てない、ということについて。その時、通常級で食べるのは週2回だけだったので、他の日に一緒に給食を食べている支援級の先生にも「支援級で食べるときもみんなのことが待てませんか?」と聞いたところ、「いいえ、ちゃんとみんなを待ってから遊びに行ってますよ」と。じゃあ何が違うんでしょうね?と先生方にお尋ねしました。

そこでわかったことは、娘は支援級で配膳された給食を自分で通常級に運んでいること。そして、支援級で給食費を納めているため通常級では、うちの娘だけお代わりもできない、ということでした。娘はごはんが大好きでよく食べるので、自宅でも給食でも必ずお代わりをするんですが、それが通常級ではできない、と言われていた。それで早く食べ終わると手持ちぶたさになっていたようなんです。

そこで提案として「支援級にも通常級にも、両方に給食費を収めるから、いつどちらのクラスでもみんなと同じように食べさせてもらえないでしょうか」とうかがいしました。その時は「前例がない」と言われたので、「どちらのクラスでも食べていいようにしてもらうか、あるいは、給食は毎日通常級で食べるようにするか。いずれかを検討してもらえませんか」とお願いしたんです。少し検討の時間は必要でしたが、結局、毎日通常級のお友達と給食を食べられるようになって、そしたら最後までみんなのことも待てるようになりました。

高橋さん よかったですね!2つめの、給食後に机を移動しないと言われた点はどうされたんですか?

長谷部さん 支援級の先生に聞くと、娘はクラスのルーティンは全てできている、ということだったので、「じゃあなぜ通常級では決められたことができないんでしょうね?」と聞いてみました。

対話の中で気になったことがあったので「通常級ではどこの席で給食を食べていますか」と聞いたところ、先生と一緒に一番後ろの列だと言われて、やっぱりな、と思いました。というのも一番後ろの席だと、机を寄せるのが最後なんです。他のみんなが食べ終わって、机を寄せて遊びに行った後になってしまう。まだ友達もいないのにそんなに待てるわけないと思いました。それで、一番前の席で食べさせてもらいたいとお願いして、それは翌週から対応いただけたので、すぐに解決できました。

高橋さん 先生たちもきっと、気づけなかったところが見えた感じでしたね。

長谷部さん 3つ目もまさにそうでした。支援級では掃除もちゃんとできていたのに、支援級と通常級で掃除の仕方が違うということがわかったんです。前提が揃ってなかったことに、先生たちもその時初めて認識されていたようでした。

支援級では、机の置く位置に印が付けられていて、そこに合わせるように指導されていたんですが、通常級ではそもそも印がないんですね。みんな感覚で、前や横の机と位置を揃えながら戻すなんて、娘は教わったことがないのでできていなかったんです。そこで、通常級の先生は「周りと揃えながら机を戻すことを教えます」と言ってくださったし、支援級の先生は「支援級でも少しずつ、印をはずして通常級のように揃えることを教えはじめる」ということになりました。

こうしたことは、仕組みの問題なんですよね。だから誰のことも否定しないでいいし、通常級の先生を非難する必要もないし、こちらも娘ができてないことを挙げられても謝る必要もないと思っています。ただ、何が原因で「できない」状況になっているのかを、先生たちと一緒に考えてほしいと思って話しあいました。

対話は少しずつ、重ねていくもの

高橋さん 目指すゴールに向けて対話を深めること。そして、その対話に必要な人は誰なのかを考えること。どちらも大切でその通りだとわかりつつ、私自身もなかなか時間が取れなかったりするので、長谷部さんはすごいですね。

長谷部さん どれもある程度、アバウトにしておくことも必要ですよ。相手がいることなので、事前に想定した通りに話し合いが進まないことだってよくあります。正直、先生たちの中には、障害者権利条約とかもそんなにご存知ない方もいると思います。それまで縁がなかったら、触れる機会がない先生がいたって不思議ではありませんからね。

想定していたよりも話しあいが進まない時は、対話の前に「聞く力」に集中するようにしています。アナウンサーの仕事でも、その場の自分の力ではどうにもならないような方にインタビューする時など、徹底して「聞く」ことに集中していて、学校でも同じです。

その先生がこれまでどんな学校で教えてきたのか、とか、娘が家で教えてくれた先生のことをもっと聞いたりとか。先生の特性を知って、私は先生に教えてもらいたいと思っている、と理解していただくようにします。

また、対話の時にも小さなゴールを考えるようにしています。例えば先ほどの給食の話でいうと、3つの課題を解決することがその日の対話におけるゴールになります。しかしすぐに解決しない時もあるので、そういう時は「今日の話し合いは「給食の時間の様子を聞くこと」をゴールに変える」など、もっと小さなゴールを設定して、段階を追って解決に向かうようにしています。

高橋さん なるほど。一回で解決しないでも良い、というのも大切な視点ですね。

長谷部さん 対話は重ねることで深まるのも確かですからね。その日に達成したいゴールを決めて行ったとしても、必要な人がその日に来れなかったり、特に、学校の先生ではなく区や都の職員さんに来てもらう必要があるような時は、なかなか決めた日程に調整できないことだってありますよね。そういう時もスモールゴールに切り替えています。例えば、今日は娘の課題を先生に聞きだすことにしよう、とか、逆に、娘の才能や評価を確認させてもらう時間にしよう、とか。そうすると自然に先生から雑談が出てきたり、共感が生まれたりして、その場を良い形に変えることができたりするんです。

高橋さん 先生や学校との話し合いというと、緊張することもあるかもしれないけど、だからこそ、事前に話したいことをまとめておくのは大切ですね。手元にメモしておけば、感情的にならずに、内容に立ち返ることもできそう。

長谷部さん そうですね。私もいつも、ゴールに向かって対話が進むような議題をいくつかメモして行きます。それと、普段から先生たちとのコミュニケーションの機会は大切にしていますね。支援級だと学校との「対話ノート」があって、思わず、なんでこんな保育園みたいなことするんだろうって思ってしまいがちですが、先生や学校のおかげで娘の「できること」が増えているので、毎日感謝を綴っています。

高橋さん それを続けると、実際に会って話すときの会話も深めやすくなりそうですね。

長谷部さん そうなんです。先生も「人の子」ですから、対立する必要はないし、否定的な憶測をする必要もないんです。あと、しっかり話したい時はTPOに合わせた服装をすることもおすすめします。お受験スーツである必要はないですが、先生や区の職員さんたちはお仕事上しっかりした格好をされてるので、それに合わせる方がいいです。そして、明るく、元気に接すること。これは鉄則ですね。

高橋さん 子どものことを信じて、先生たちとコミュニケーションをして、子どものためになるゴールを一緒に目指してもらうための対話をする。今日はとても参考になるお話をありがとうございました。



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