見出し画像

Mindful Parenting (マインドフル・ペアレンティング)#2 — 現役デザイナーが考えるクリエイティブな子どもの育て方

あなたは、自分の子どもにクリエイティブになってもらいたいと考えていますか? わたしの息子は3歳になりますが、知的好奇心が強く、さらに人を笑わせるのが好きなので、いつも突拍子も無いことをして、わたしたちの毎日に数えきれないほど笑いを与えてくれます。多くの子どもがそういう時期を経ていくことでしょう。そんな頭の柔らかさが大人になっても続けばいいのに、と思いませんか? わたしもまだまだ子育ての新米なのですが、これまでにわたしが学んだことや考えたことを、ここで一度整理して、みなさんにもシェアしたいと思ったので、まとめてみました。

そもそもクリエイティブになって何がいいの?

1: 優しさへとつながる想像力と創造力。

クリエイティビティというと、「画家や歌手にでも育てるの?」なんて思うかもしれませんが、そんなことはありません。わたしは自分がデザイナーだからといって、必ずしも息子にデザイナーになって欲しいとは思ってはいません。そんなことよりも、わたしはクリエイティビティ(創造力)というのは、優しさに繋がるのではないかと考えています。人の気持ちがわかる、人の立場になって考える、といった思慮深さは、一方通行のアイデアではなく、「こういう場合はどうなるだろう?」という、多角的なイマジネーション(想像力)の賜物です。そしてイマジネーションは、クリエイティビティの大事な原動力です。イマジナティブ、そしてクリエイティブであることは、人として優しくあるための大事な要素だと思っています。

2: なんでもロボットというこれからの時代に。

AIが人間のあらゆる仕事を台頭すると言われているこの先、わたしたちが最も誇るべき、そして養うべきものは、クリエイティビティという能力です。わたしは、自分の子どもには、将来どんな仕事をしてもらっても構いませんが、どの道を選んだとしても、一流になって欲しいと考えています。一流になるには、たくましさと、未来への想像力、他と違ったユニークな答えを出す創造力が欠かせません。物事の本質をついて、ロボットでは生み出せない新たな価値を作り出す力を、彼にも育てて欲しいのです。

画像1

クリエイティビティを養うために親ができる3つのこと

全ての子どもは生まれながらにクリエイティブです。むしろそれを奪っているのは大人なのではないでしょうか? 単に大人の言いなりになる子が「良い子」と呼ばれることもしばしばあります。わたしは、子どもが子どもらしくあることが、最もクリエイティビティを養うために必要だと考えています。そのために、わたしたち大人が今日からでもできることが3つあります。

1: 止めない勇気。

子どもが遊んではいけないもの(=親が遊んで欲しくないもの)で遊んでいるときに、どうしても止めたくなる。その気持ちはわたしも痛いほどわかります。でも、よく考えてみると、「本当にこれってダメなの?」って思うことも多々あります。考えてみれば、0〜3歳児の遊びって、結局はたくさんの実験の繰り返しなんじゃないでしょうか? それを止めることは無意味でもあるんです。

画像2

例えば、子どもに絵を描かせたくて、一生懸命筆を持たせて、紙の上に描かせようと奮闘する大人。でも子どもは、もちろんそんなこと気にもくれず、筆で顔に絵を描くわ、手をパレットの上に置いて絵の具をぐちゃぐちゃにするわで、大人の意図なんて無視なのです。こんな時、「あなたが一番お行儀が悪いわよ!」と1歳児に向かって叫んでる親を、わたしは間近で見たことがあります。1歳児にお行儀とは、なかなか難しいことを言うものです。その子どもは、まだ絵の具に対して、どうしたら「正解」なのかなんて、まだ知らないし、知る必要もないのです。絵の具というものはどういうものなのかを、この子はまだ実験中なのですから。筆とはどうやったら握れるのか、水はどのように滴るのか、絵の具というものがどのように布や紙や床や筆に反応するのか、それをしっかり体験から学んでいる途中なんです。筆の握り方を知らずして、絵は描けません。滅茶苦茶にして、それでいいんです。

わたしが、子どもと行ったアメリカの2歳児向けワークショップでは、「何かを作る」ことを目的にはしていませんでした。それよりも「体験する」ことを大事にしていたのです。というのも、「何かを作る」ということを目的とすると、何かしら持って帰れるものを完成させようと、親が手を出し始めるらしいのです。それでは、本末転倒です。実体験が、興味を生み、喜びを生む。それが最も子どもには必要なのです。

親が、子どもを止めない勇気。そのためにあなたにできることは、まずは、何かを普通とは違った使い方で遊んでいる子どもを見かけたら、すぐに「ダメ!」と頭ごなしにいうのではなく、ちょっと子どもが白衣でも着ている姿でも頭に想像して「あら、〇〇ちゃん、実験中ね! お勉強の邪魔はやめておきましょう」くらいの気持ちで、静かに観察してみてください。結構面白いですよ。同じことを何度も繰り返したり、角度を変えてみたり、まるで本当に実験している研究者みたいです。

2: 何をどのように褒めるか。

では、なんでもかんでも褒めればいいのかというと、それはどうやら違うらしいのです。人間発達学を学んだ夫によると、特に大事なのは、何を褒めるかと、どのように褒めるか。一言でいうと、結果を褒めるのではなく、過程を褒める、が最も大切だとのことです。というのは、結果を褒めると、その子どもは「褒められジャンキー(褒めてもらいたがり)」になるというのです。褒められジャンキーは、承認欲求が強く、親に褒められないとやる気が出なくなります。これに対して、クリエイティブな子どもは、誰かに成果を承認されなくても、主体性を持って、物事に好奇心旺盛に取り組む姿勢があります。

画像3

具体的には、見たままを伝えて、行為自体を楽しいと認識させるのは有効です。
例:「この絵、上手く描けたね!」ではなく、「色とりどりのお花を描いたのね。絵を描くの、楽しいね!」

また、努力を褒めるのも大切です。
例:「トイレができて、いい子だね!」ではなく、「トイレ、この前はできなかったのに、練習したらできるようになったね!」

初めは難しいかもしれませんが、これは慣れなので、まずは気付いた時から始めてみるのがいいでしょう。別に本人に直接言わなくてもいいのです。思えば、わたしが小さいとき、テレビで華麗に歌って踊るアイドルたちを見て、母がいつも言っていたのは、

「いっぱい練習したんだろうねぇ」

という言葉でした。わたしはこれを何度聞いたかわかりません。80–90年代のアイドル像は、トイレすら行かないとされている夢のような存在だったので、母の発言は現実に戻される思いでしたが、わたしの中で、「練習したら、上手くなる」という考え方は、実はここで植え付けられた気がします。このせいか、わたしはむしろ、練習ジャンキーになり、親に勉強している姿を見られたくなくて、親が突然部屋に入ってきたときには、勉強していた教材を隠すほどでした。

3: たくさん描くことより大事なこと。

クリエイティブ=絵が上手い、という構造を頭に浮かべてしまうと陥りがちなのが、たくさん絵を描かせればいい、というアイデアです。いろんなテクニックや見方を学ぶという意味では、絵画教室に通わせるのも確かにいいのですが、その前に、もっと大事なことがあると、わたしはある本で学びました。それは『子どもに伝える美術解剖学: 目と脳をみがく絵画教室(布施英利 著)』という本でした。

ここには、クリエイティブであるために、最も大事な、大人が与えられる環境について書かれています。著者の布施英利さんは東京芸大の学部、大学院を経て、なんと東大の医学部解剖学教室助手として養老孟司の下で研究をした、異色の美術批評家&解剖学者です。彼は、「ようこそ先輩」という番組で、自分の学んだ小学校を訪ねたエピソードでこの本を始めます。

二日間のプログラムで、彼はいきなり「魚の絵を描いてください」と子どもたちに言います。描かれた絵は、ほとんど全ての魚がフラットに横に寝かされた状態の、アイコンなどであるようないわゆる「魚」。胴体は格子模様がざっくりと描かれ、左が頭で、右が尻尾というところまでも共通項。さて、彼はその後すぐに全員を魚釣りに連れて行きます。子どもたちは初めての魚釣りに大はしゃぎ。餌をつけて、釣り針を垂らし...待っても待っても来ない...という気持ち。そして、連れた時の感動。初めて生きた大きな魚に触れた子もたくさんいたはずです。二日目には、理科室で魚の解剖実験。解剖する前にはお祈りをします。そして解剖しながら、いろんな部位を観察するのです。午後になって、ようやく教室に戻り、さて、もう一度、彼は言います。「魚の絵を描いてください。」

その時に描かれた絵、想像できますか? 真横ではなく、なんと正面を向いた魚。エラや鱗が細部まで丁寧に描かれている魚。体や内臓まで綺麗にラベリングされている魚。釣られそうになって、「がーん」と漫画のようにショックを受けている魚。そして、小さなたくさんの魚たちを繋げて描いて、「命」という漢字を作った子もいました。2次元の絵の中の魚に、厚みがあり、内臓があり、感情があり、命があるんです。

わたしは、このエピソードに大変感激しました。子ども時代には、とにかくたくさん遊ばせる。経験させる。それが一番大事なのです。実体験から学ぶことは、書籍から学ぶより尊く、深い。そんなことは、頭ではわかっていても、いざとなったらなかなか難しいものです。でも、小さなことでいいのです。例えば、落ち葉を拾って、色や形を比べる、なんて、どこにいてもできます。都会にも、自然がたくさん転がっています。どうぞ、五感を大事にした会話や遊びを心がけてみてください。

まだ3歳の我が家の息子。偉そうに色々と書きましたが、まだまだうちも子育てが始まったばかりです。前向きで、幸せで、人の気持ちの分かる、クリエイティブな子に育って欲しいと、わたしたち夫婦は、毎日小さな努力を重ねています。皆さんにも、そして子育ての先輩方には特に、なにか家庭でしている工夫があったら、わたしたちに教えていただければ嬉しいです。

※追記:これは2018/12/13に書いた記事を、ブログのプラットフォーム移行に伴い、若干の修正を加えて転載したものです。

画像4


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?