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息子へ/2

恐怖と不安に包まれた深夜の救急搬送先は市内の大きな総合病院。看護師さん数人の会話が時折耳に入る。

妊婦の救急搬送など日常茶飯事かのように落ち着いている。時折聞こえてくる話の内容から、息子、そんなに心配しなくても大丈夫そうな感じ。

手術未経験の私だったが、なぜか手術に対する不安や恐怖はなかった。

ただただ、早く息子を・・・それしかなかった。

いざオペ室へ。執刀医が現れ看護師に現在の私と息子の状態を確認している。

私に何か声をかけただろうか。今となっては記憶にない。

ただ覚えている医師の言葉は、「今日の晩御飯のラーメン美味しかったよ。みんな何食べた?」みたいなごはんの話だった。

不謹慎だと感じる方もおられるかもしれないが、私はそのなんでもない会話でなんだか安心した。

そして、医師のご飯の話のなか産まれてきた息子は、新生児とは思えないほど美しく、可愛く、天使だった。産まれたばかりの赤ちゃんは、しわくちゃでサルで、例え我が子でもお世辞にも可愛いとは言えないだろうと覚悟していた私にとって、初めて見る我が子はまさに神の遣いだった。

医師によると、臍の緒が手首にぐるぐる巻き付いていたため心拍が落ちていたのだろうと。

看護師から「お母さん、元気な息子さんですよ~!おめでとうございます!」

そんな初めての言葉をかけられなんだか照れ臭かった。

元気に無事産まれたものの、ちょっと小さいということで保育器に入ることに。

もう夜は明け、朝になっていた。

出産当日、どのように過ごしたのか記憶にない。夫がずっとついていてくれたのさえも分からない。ただ、寝たり起きたりを繰り返していたような気がする。

当日だったか翌日か、定かではないが「医師から話があるからご主人と一緒に」と看護師に呼ばれた。そんな曖昧な記憶ではあるが、その時の医師の表情、声のトーン、そして私たち夫婦から溢れ出る不安は鮮明に覚えている。

「色々な検査をしたんですが、息子さん血糖値がないんです。」

医師の告げた言葉は理解しがたい内容だった。



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