肥後百景#7【下通り】
熊本の街には
地方の繁華街にはつきもののような存在のアーケードがある。
西日本でもかなり大きなアーケードのようで、路面電車が走る市電通りを挟んでアーケードが二分されている。
そこを境にアーケードには名称が付けられていて
上通りと下通り
と呼称されている。
下通り
と呼ばれる側のアーケードは
行き交う人の年齢層が幅広く
ショップから飲食店までテナントも様々。
また、時間帯によって客層も変化していく。
休日の午前中は家族連れが行き交い、中高生の姿も目立っているが、時間が経つにつれ年齢層が徐々に上がっていく。
夕方以降は大学生や専門学生とバイトやサークルの飲み会勢が増えていき、仕事帰りのお父さんやお水のお姉さんの姿も見られるようになる。
夜も更けるといよいよカオスな街に一変
そこら中で吐き散らかす大学生やサラリーマン、二次会帰りのおっさんおばさん集団の乱痴気騒ぎを楽しめる。
アーケードを中心にいくつも通りが交差しており、それぞれの筋にコンセプトがあり店のテイストも様々だ。
子どもの頃から親しみのある下通りは、例によって成人するまでに何度となく足を運んだ。
その時々に遊んだ場所や連んでいた連中との思い出がぎっしり詰まった場所である。
小学生から中学生にかけては、下通りのアーケード内にあった謎の文具店がみんなの憧れの的になるマストスポットだった。
通称「田中屋」
めちゃくちゃダサい名前しているが、男子の羨望の眼差しが向けられる店だった。
何がそうさせたのかというと、とにかく龍やら虎やら骸骨やら、おどろおどろしい商品のラインナップが狭い店内にこれでもかというほど陳列されていたのだ。
こんな店を男子が放っておく訳が無い。
こちとら修学旅行では木刀買うし、謎の水晶のなかに龍が埋め込まれたキーホルダーをお小遣い全額はたいて購入するようなヤツだ。
同類の男子と足繁く通った。
小学校の卒業式後には風神雷神の缶ペンケースを購入し、中学入学して舐められないように準備したのはなつかし思い出だ。
中学生になったら、映画館やゲーセンに通うようになった。
高校生になると、さらにディープな遊び場を覚えて通うのだが、何せ街に行けば何かあると同年代の誰しも考えて行動しているので、誰かしらには必ずといっていいほど遭遇してしまう。
なので、下通りから上通りに浮気してしまうようになった。
けれど、元の鞘にもどることになる。
酒を覚えると、下通りがまた一味も二味も違って見えるようになるのだ。
結局、下通りの包容力に身を委ねることになる。
酒に飲まれ、アーケードのゴミ袋を突くカラスと共に朝を迎えて初めて熊本県民としての成人式を迎えたと言っていい。
田中屋で購入した風神雷神の御利益の甲斐なく、中学デビュー失敗したあの日。
明け方のアーケードを千鳥足で歩きながら思い出し、久しぶりに足を向けると田中屋の影も形も無かった。
寂しいようなんだけどめちゃくちゃ笑った。
お心遣いに感謝です。今後も励んでいきます!