タルシル中庸∞影と光(7話)

真壁「どこに居んだよ。探したよ。何で北京に?そのサングラス何?怪しい」

真壁兄「声デケぇよ。お前こそ何だよ。こんなとこで会うとは思わなかったよ」

真壁「言っとくけど旅行じゃないからね。勉強だよ、研修。兄貴こそ何だよ。仕事は?休んで旅行なんてできるの?クビになった?」

真壁兄「だから、声デカいって。仕事。俺も旅行じゃないよ。それよりお前の部屋行こう。目立つよここ」

真壁「あ、そうだね。まぁ、いいけど、すごく怪しい…」

真壁兄「ハイハイ、まず行こう。何階?」

チーン!
ガチャ!

真壁「ほい、ここだよ。西崎と同室だからあまり色々触んなよ。北京ダック食べる?お土産は?」

真壁兄「あるか!だから仕事だって」

真壁「いつまでこっちにいんの?仕事って?」

真壁兄「ちょっと詳しくは言えねーんだ。まぁ、調査だな。いつまでってーのもちょっとまだ分からん」

真壁「やっぱ怪しいなあ、ヤバい仕事とか?」

真壁兄「まぁまぁ、それよりな、お前鍼灸師だったよな?ちょっと手伝ってくれない?」

真壁「まだ学生だよ。国家資格まだ取ってないから。治療はダメだよ。何手伝えって?」

真壁兄「伊藤美治って人知ってる?」

真壁「あぁ、有名な鍼灸師だよ。今回の俺達の中国研修に参加してるよ。日本では有名な大先生達も研修生としてこの研修に参加してんだよ。それだけこっちの中国の先生方が凄いんだろうなぁ。んで、伊藤先生がどうしたって?」

真壁兄「へぇ、そんなに有名なんだぁ。色々調べてることがあってさ。同行してるなら尚好都合だ。一緒に調べてもらえないかなぁって」

真壁「兄貴警察じゃないっしょ?なんでお役人の兄貴が何を調べるってさ」

真壁兄「んーー、まぁ、お前だから話すけど、絶対に内緒だかんな。誰にも言うなよ」

真壁「なになになに、ちょっと待って。ヤバいこと?面倒なの嫌だからね。やっぱ聞かなかったことにする!」

真壁兄「今更なんだよ!折角の情報源を手放す訳にはいかない。もう決めた!話す!だから手伝え!」

真壁「勝手に決めんなよぉ、俺勉強しに来てんだからね。兄貴の手伝いに来てるんじゃないからね!面倒嫌だし…」

真壁兄「分かってるよ。迷惑はかけないからさ。な!頼むよ!お前が伊藤美治の近くに居るんなら尚更好都合なんだからさ」

真壁「報酬は?タダじゃ動かないからね」

真壁兄「報酬って、お前、まぁ何か考えておくから、な、ヤバいことはさせないから」

真壁「んーまぁ、じゃぁ、少しなら、んで何だっけ?」

真壁兄「うん、じゃぁまぁ、座れ。座って話しよ」

真壁「俺の部屋なんですけどぉ」

真壁兄「まぁ、いいから。お前この前のオリンピック見てた?冬の北京」

真壁「それ程熱狂的じゃないけど見てたよ。知ってる人も出てたし。応援してたよ」

真壁兄「何かおかしいって感じなかった?」

真壁「何が?おかしいことないでしょ。知り合いがフィギュアで銀獲ったし」

真壁兄「銀?じゃぁ知り合いってフィギュア男子の水選手?」

真壁「そう!兄貴は仕事一筋だと思ってたけどスケートとかに興味あったんだ?」

真壁兄「あれだけたくさんあるオリンピックの全競技の中で水選手以外でメダル獲れた人いたか?中国の選手以外で?」

真壁「あ!!」


某年、北京冬季オリンピックの全競技種目のメダルを中国選手が総なめにしていた。
唯一、フィギュア男子の銀メダル以外は。
金銀銅の全てである。

当然、当時の全世界のマスコミは大騒ぎでドーピングが強く疑われ、各国選手団からもクレームが入り、オリンピックの組織委員会は時間をかけて詳細に調査が行ったが薬物は一切検出されずドーピングの疑いは晴れてメダルが確定していた。

今までの大会でも開催国のメダル獲得数が多くなる傾向はあったが、ここまであからさまに一国の独り勝ちでは疑念が生じてもおかしくはない。

真壁兄は厚労省勤務の役人であったが、とある外郭団体に出向中で特別な任務に就いており、頻繁に中国との間を行き来している。
今回は中国のメダル総なめに関する内部情報による調査のための渡中であった。
確かに薬物類の一切は検出されず、許可されている薬物の服用もしていないことが確認されている。
内部情報とは、薬物以外の方法でメダル総なめを実現したという情報であったが、それは確かに規約違反ではなく現行のオリンピック規約に合致しているため正当であると判断される。
正当なメダル獲得であれば内密に調査する必要はないのだが…


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