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「パラサイト 半地下の家族」のアカデミー受賞で日本の映画も変わる

 韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が米国アカデミー賞の作品賞を受賞した。セリフが英語以外の作品が受賞するのは92回のアカデミー賞の中で初めて。歴史的な受賞となった。今後、この受賞が日本映画に与える影響は大きい。

アカデミー賞・映画の聖地ハリウッド

 アカデミー賞は米国内で上映した映画に対して、米国映画関係者の投票で決める賞です。作品賞のほか、監督・俳優・衣装・撮影・録音・メイクアップ・音楽・美術など映画製作に関わる各部門の賞が用意されています。各賞の中でもメインとなるのが、作品賞、主演・助演俳優賞、監督賞、脚本賞。そして作品賞に関していえば、これまでは登場人物が英語を喋る映画(英語映画)だけが受賞しており、英語映画以外が受賞したことはありませんでした。フランス語も、スペイン語もなしです。英語以外の初の言語が韓国語だったわけです。

 アカデミー賞は、英語圏である米国ハリウッドという限定された場所のお祭りなのですが、同時にそのハリウッドが映画の最大の聖地でもあるのです。なぜならハリウッド映画は世界中に配給され、世界中の人が諸手を挙げて喜んで観るものだから。
 日本においても、日本製作の映画よりもハリウッド映画の方がたくさん見られているのが現実です。国産映画が無い国もたくさんありますが、そんな国では映画といえばすなわちハリウッド映画のことになるわけです。

映画人は皆ハリウッドに憧れる

 アカデミー賞の授賞式は毎年2月初旬に行われ、ハリウッドはお祭り状態になり、世界の注目が集まります。ハリウッドは世界中の映画人の憧れなのです。
 映画は総合芸術。いい画を撮ろうと思えば良いカメラが必要だし、背景美術にもお金をかけたくなる。昨今発達の著しいコンピュータグラフィックスを使うとその費用も必要で決して安くは無い。凝った映画を作ろうと思うとそれなりの予算が必要。世界中に映画を売ることができるハリウッドでなら、大きな予算を使って思いっきり映画を作ることができるのです。

 今、日本の映画制作費は数億円から多くても10億円という規模。
 2019年の1番の大作「キングダム」がまさに制作費10億円の映画。別途宣伝にも10億円投入と言われており、合計して総製作費が20億円。映画はヒットし56億円ほどの興行収入との情報がありますが、これが今の日本映画の制作費の上限といったところでしょう。日本ですごくヒットすると30億円興行成績を多々だき出すので、それを逆算すると掛けられるお金は20億円になると、こういうわけです。
 一方、ハリウッド大作は、制作費100億円の作品はザラです。スターウォーズの最新作ともなれば制作費は200億円を超えます。世界に配給されるハリウッド映画は観客数が日本の映画興行とは桁違いなので、それだけの予算がかけられるわけです。

 制作費が多ければいい映画になるとは言えません。巨額の制作費をかけた駄作はいくらでもあります。でも、1800円を払って映画を観る場合に、10億円で作ったものを観たいか200億円で作ったものを観たいかと言われれば、200億円のものを観たいと思うのが人間ではないでしょうか。10億と20億ならまだわかりますが、10億と100億とか200億の差となるとちょっと大きすぎます。
 それでも、観客としては、自分のひいきの俳優が出ていれば10億の映画を選ぶかもしれませんが、作り手となると、100億の映画を作ってみたいと思うのも致し方ないでしょう。それで、ハリウッドは映画人の憧れになるわけです。

日本でも制作費100億円クラスの映画が作られる!?

 今回、韓国製の韓国語の映画が作品賞を受賞するという歴史的な事件が起きたことで、日本製作の日本語の映画でもアカデミー賞を狙う作品が現れる可能性が出て来たと思います。あのアカデミー賞の授賞式を見て「よし!」と思っている映画人が必ずいます。野球をやっていれば最後はメジャーリーグに行きたくなるように、映画をやっていれば狙いたくなるのがハリウッドのアカデミー賞だからです。
 それに伴い日本における映画製作予算も100億円規模になる可能性が出て来ています。もちろん、製作費だけを10倍化すればビジネスにならないので、それに伴って配給においても領域を広げるようにならざるを得ません。そういった意味で、日本映画も変わる時が来ました。遅まきながらのグローバル化というやつです。

映画は米国ハリウッドのお家芸、日本人には真似できないよ。30年前の言葉 

  かつて、日本の経済が上り調子だった30年以上前に、日本のハードメーカー各社がこぞってハリウッドの老舗映画スタジオの買収に走りました。松下、東芝、ソニー。ハードの生き残りにソフトが必要不可欠という結論に至ったのです。
 ニューズウィーク誌が「ソニーはアメリカの魂を買った」などと報道して注目を集めましたが、日本各社は米国ハリウッドの独特の文化に割って入ることができず、東芝や松下は早々に撤退をするしかありませんでした。ソニーだけは多くの損失に負けず粘り続け、今でもハリウッドにソニー・ピクチャーズの名を残しています。

 「欧米人が出演して母国語で歌舞伎を作れると思うか? そんな事は無理だろ。同じように、ハリウッドお家芸の『映画』は、日本人が逆立ちしても作る事はできないよ。」30年前によく聞かれた話。日本企業のハリウッド撤退を見ながら、この言葉の重みを感じていました。それ故当時は、日本の映画がアカデミー賞に行く事はないと誰もが確信していました。

 しかし、世界は大きく変わった! メジャーリーグで日本人が活躍するようになったのもその世界の変化の一つでしょう。映画でも同じことが起きつつある!!
 これからは、日本映画でもいろんな変化が起こる! と思うと、楽しくなりませんか!? 日本からとんでもない映画が飛び出す令和時代に、乾杯!!!

韓国が先んじたハリウッドの壁破り、しかし・・・

 歴史的に見れば、日本企業がハリウッドに進出し、1986年「乱」で黒澤明が監督賞ノミネート、1988年「ラストエンペラー」で坂本龍一が作曲賞受賞。東洋で言えばアカデミー賞に一番近いのは日本だったはずが、英語圏国境の壁を破ったのは韓国でした。
 これは、韓国の「映画国策」政策が功を奏したのが原因の一つであると考えます。韓国が国を挙げて動く時のすごさに関しては30年前にも目の当たりにしていたのです。

 70年代から80年代にかけて欧米での空手ブームがありました。80年代にはケイン・コスギの父であるショー・コスギが牽引したニンジャブームもありました(忍者が使う武術は空手であり、空手は強くてクールというイメージ)。それらを受けて、1984年には「カラテキッド」という映画が米国で大ヒットし、出演の日系俳優がアカデミー助演男優賞にノミネートされるほどだったのです。
 しかし、その大人氣の空手がオリンピックの正式種目になるのは30年以上後の2020年の東京五輪を待たねばならなかった! 一方で、韓国はテコンドーを1988年のソウルオリンピック時に正式種目化しているのです。

 「テコンドーなんか誰も知らないよ。逆に欧米でも空手を知らない人はいないのに、悔しい。韓国は国としてテコンドーのオリンピック種目化に取り組んだんだ。あの国はそういう時にすごい力を発揮するんだよ」と30年前、日本空手道連盟のスタッフをしていた高校の担任が、廊下でボソッと語った一言。あの集中力の韓国は映画でもその力を発揮したのだ。
 日本は国を挙げて取り組む・・・という事には弱い。いわゆるロビー活動という文化も薄弱だった。そういう体質が、日本の位置優位を活かしきれずに来たのを見て来たのでした。
(ちなみに、その時の担任の先生が、今の日本空手道連盟の事務局長になっています。日下先生です!)


そして、パラサイトを観た。

 映画では勢いに乗る韓国。
 受賞した映画「パラサイト・・・」もスピードとパワーに満ちている。声に出して笑いながら楽しく観進めるコミカルな滑り出し。そして、貧乏一家が金持ちの屋敷にパラサイトを完成するあたりから話が急展開する。
 映画の最後に向けては、今の韓国が持つ痛みがにじみ出て溢れた。エンタメ映画なのだからもう少し楽しく終われば良いのにと思うのだが、今の韓国を生きる作家としてはこういうラストにせざるを得なかったのだろう。
 格差社会が放つ匂いは悲哀に満ちたラストを迎えた。

 韓国に限らず、米国を含めた先進各国では格差の問題が大きくなるばかりで、日本も同様。映画は引き続き発展するとして、一方で国は、世界はどうなるのだろうか。映画の楽しさに酔いしれてばかりはいられないこの現状が生んだ、社会派の映画がこの「パラサイト」だ、という結論になる。

 令和の時代に、我が日本とその映画はどうなっていくだろう。
 パラサイト自体の感想は、また別記事に書こうと思う。

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