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デンマークでの面接回顧録

海外転職というのは、同じ業界内であっても、けっして簡単なものではありません。

そもそも面接の過程や仕方が違ってたりします。今回、デンマークの大学へ移籍するにあたって、それを痛感しました。

イギリスでは、私は博士号取得後、勤務する大学を2回移籍しています。つまり、これまでに、フルタイムの大学教員として3つの大学で働いた経験があるわけです。

その都度、それなりに就職活動もしたわけですが、イギリスの大学のポジションは大体、数ヶ月で決着がつきます。

イギリスだと、面接に呼ぶ候補者を選定する「ショート・リスト」まで約2,3週間、長くても1ヶ月位。面接が済んだら、採用の場合は一両日中に知らされることが多いです。不採用だった場合は、1週間後、遅くても数週間後にメールで通知が来ます。

これは新米の講師であろうが教授であろうが大して変わりません。(学部長とかの管理職ポストの公募はもっと長くかかりますが)

ところがどっこい、デンマークの大学は、昨年6月末の応募締め切り日から正式採用の通知をもらうまで、半年以上かかりました。

その間、何段階も審査過程がありました。一段階クリアするたびに、「今ここ!」みたいな連絡がメールでありましたが、正直、「一体いつまで続くねん!」と言いたくなる時期もありました。

まず、研究業績が精査されます。選考メンバーが、業績の文献リストをたんにチェックするだけではなく、複数の論文を実際に読んで、「当学部に合うかどうか」を検討します。

これを経て、ショート・リストされるまでにひと月半。イギリスならここで「面接に来て下さい」と言われるところですが、そうは問屋がおろさず。

ショート・リストされた候補者数名の応募書類一式が、今度は外部の審査員(他大学の教授 2,3人)に送られ、「このポジションにふさわしい資格があるか」が吟味されます。これに3,4カ月かかりました。

そして、外部審査員の評価レポートをもとに、選考メンバーが、面接に呼ぶ候補者を決定します。

イギリスの大学だと、同じ日に 3-5人の候補者が招かれ、順次プレゼンをするのが常ですが(悪名高き、「ビューティーコンテスト形式」と呼ばれるやり方)、デンマークの組織(大学だけに限らず民間でも)は、あらかじめ厳選して本当に雇う気がある最少人数だけを面接に呼びます。

私が面接通知を受けたのは昨年の11月初めでした。面接日は12月。面接に呼ばれたのは私ひとりだけでした。

主要人物全員と個人面談

面接当日は、丸一日かけて、学部とそれに属する研究センターの主要人物全員と一対一での面接が組まれていました。俗に「Back-to-back interviews」と言われる面接方法で、これは私は初めてでした。

まず、朝一番の面談は、研究センター長をしているスウェーデン人の教授。
彼の論文は私も何度か引用したことがあります。まさか実際に会って話す機会があろうとは。

つぎに、副学部長を務めている女性の准教授、そのあと、研究センターの中堅男性准教授。

4人目は学部長。この人はデンマーク人の教授。たぶん私と同じ年代と思われ。彼とは昼食も一緒にとりました。

昼食後、他の面々と博士課程の学生をまじえた聴衆を相手にプレゼンテーション。プレゼンというよりも、ほぼ研究セミナーのセッティングで、質疑応答を含めて1時間半かかりました。

プレゼンテーション後の休憩のあと、博士課程の学生と面談(というか、これは談笑に近かったです)。

そのあと、夕方ちかくに、また別のベテラン教授と面談。ふつうならこの段階でグッタりするところですが、一連の面接は終始和やかなムードで、あまり疲れませんでした。

とどめは、なんと、あさイチに会った研究センター長の教授とディナー。
え、マジですか?こんな偉い人と差し向かいで?

学部秘書から、「最寄りのレストランに席を予約してあります」というのは事前に知らされていましたが、てっきり学部の皆さんと一緒だと思ってた。

で、そのレストランというのが、コペンハーゲンでもそこそこの部類に属するお店です。それも、キャンドルが灯されたテーブルで、ワイン付きフルコースときたもんだ。

何事なんだろう。。。
こういうパターンの面接は初めてなので、ちょっと面喰らいました。

でも、研究センター長の教授とディナーは、研究のことだけでなく、仕事に対する考え方とか、以前の仕事とか、いろんなことが話せて、とても有意義なものでした。さすが著名な年配の学者だけあって、人の扱いになれているなぁ、という印象です。

この学部に貢献したい、と心底そう思えたのは、私のアカデミックキャリアの中でもこれが初めてかもしれません。

これで終わりかと思いきや、そうではなく、後日、学部から、今度は大学本部に「推薦」されて、年明けの1月初旬に大学の研究本部長および教育本部長の2教授と最終面接。

これらを経て、めでたくオファーを頂きました。
かつて経験したことのない、長い道のりの採用過程でした。

私は正直いって、デンマークという国にたいする憧れはまったくなく、今の段階では親近感はみじんも持っていません。なおかつ、個人的には、この国の仕組みや慣習についてはどちらかというと懐疑的です。(まぁこのへんの実態については、デンマークに移ったら、おいおい書いていこうと思っています)

でも、昨年12月の学部面接の日に感じたポジティブな思いを大事にして、次なる一歩を踏み出したいと思います。