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日本通貨とキャッシュレス

 あなたが経営しているお店に、1万円の買い物をするというお客さんがきました。お客さんはこう言いました。
「今日は物を持って帰るだけで支払いはしません。来月か再来月には9500円を支払いますので。」
 経営者であるあなたは何かの聞き間違いかと思うでしょう。あるいは、てんで話にならないのでさっさと追い出して清めの塩を撒いておくかと考えるかもしれません。

 品だけ持っていって代金は来月以降にするとか、1万円の品なのに9500円しか払わないとか、およそ常識のある人の考えではなさそうですが、読んですぐに気づいた人もいるでしょう。キャッシュレス決済は、これをそのままやっているわけです。

 キャッシュレス払いが好きな人は、日本を指してキャッシュレスが遅れてる国、と思っているようです。

 では、あなたがアジアの南国でお店を経営しているとします。同じく1万円分の買い物をしに来客がありました。
 日本の1万円札1枚に相当する現地の通貨は、触るのもためらいそうな、汚くてしわくちゃの万券紙幣100枚でした。つまり、通貨の価値が日本円と比べて100分の1です。数えるのがたいへん、枚数がかさむ分、両替手数料がかかり、偽造通貨も日本よりずっと多いといいます。さらにこの紙幣は国際的信用のある日本円と違い、ローカル通貨といって、そのへんの銀行でどこでも換金できるものでもないとわかりました。

 経営者であるあなたは現地通貨のリスクを感じるはずです。こんな通貨、たくさんあっても嬉しくないと。なんとかクレジットカードで払ってくれないかな、と切望するようになります。海外、特にアジアでキャッシュレスが進んでいるのはこんな理由があるからです。

 外国ではクレジットカードを信用カードと呼びます。ローカル通貨の諸国では現金より信用が上なのです。飲み物1本買うにもキャッシュレス決済の習慣があるのは決して何かが進んでいるのではありません。
 僕たち日本人は自国の通貨が世界的に見てどんなに優れているかを知る機会がなかなかありませんが、キャッシュレス決済が主流のアジア諸国で日本円は憧れの対象です。
 日本はキャッシュレスが遅れていると嘆くのは誤解があります。こんなに優れた通貨を差し置いて、途上国が仕方なしの手段に使うキャッシュレスを先進的だと追い求めるのは、自国通貨の価値を下げることにつながっていきます。なぜならみんなが日本円離れをしたら日本円に割かれると人員と予算、技術は衰退していくからです。
 日本がこのままキャッシュレスに突っ走り、円が国際基軸通貨から外れてしまうことは日本人にとって良いことでしょうか?
 その場で決済が完了できて、世界のどこでも信用のある、地上でもっともきれいな通貨。
 
 たとえ100円か200円でも
「お釣りはけっこうです」
と、きれいなお札で支払いを済ませてもらうと、個人商店ではほんとうに嬉しいことでしょう。同じものを売っても
「ペイペイで」
と言われると少しがっかりします。だって、お釣りはけっこうですどころか、その中から手数料を抜かれます。さらに、入金は来月か再来月です。最悪の場合、何かのミスや悪意によって支払いが完了していないこともあります。

 日本は国をあげてこんな広報をしてもいいのに、いや、するべきだと思うのですが、しません。それどころかキャッシュレスを進めなければ、という流れになっています。なので長々と書いてみました。
 読んでくれた人に、ぼくが日本円の実力について伝えたいことが半分くらいは伝わってくれたら幸いです。

 


 

 

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