加減を知らない
彼は、料理がヘタである。
基本的に料理を作るのは僕の役割。仕事をしながら、献立を考える。なるべく健康的にと用意する。
僕は、高校生のころから料理を作っている。作っている時間がなんとも好きで片づけは嫌い。
ある朝、目を覚ますと彼がキッチンに立っている。「ぴーぴー」とごはんが炊けた音。なんと、僕と付き合うまで料理をしたことがなかったと言っている彼が、朝ごはんを作ってくれている。
不機嫌な顔で「いつまで寝てるの」とひとこと。
キッチンを横目に洗面台へ向かうとき、目玉焼きを作ろうとしていたのが見えた。
(揚げ物を作るのか?!) の如く、オイルボトルを傾ていた。
顔を洗い、歯を磨き
「いただきます」
「なんだか油が多かったんじゃない?とってもおいしいけれど」
「油をたくさん使わないと不安」と、彼が一言。
「なんで?」
「絶対にくっついちゃうじゃん、焦げちゃうかもしれないし」
「・・・」
彼は料理がヘタである。加減を知らない。
もう、その出来事があってから何か月かたち
朝ごはんは彼の役割になった。
レパートリーも増えて、ベーコンを焼いてくれるようにもなり、
納豆を出してくれるようにも。
そんな彼の作る朝ごはん。
目玉焼きは毎日違う固さ。
油は多め。
ベーコンは焦げて。
お米は朝から炊きすぎる。
今日も、昨日も、もしかしたら明日も
加減はまだ知らない。
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