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コーヒーから味わうD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)

 ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)という言葉を目にすることが増えているようだ。ダイバーシティ(Diversity)は、「多様性、種々」、インクルージョン(inclusion)は、「包摂、受け入れ」という意味だが、D&Iとは、社会・組織・職場では、多様性を認識するだけではなく、一人ひとりが受け入れ、尊重することによって個人の力が発揮できる環境が整備されていくという考え方だ。なぜそれが必要か、どう実現するのか。最近、好きなコーヒーから、コーヒーの世界はまさにD&Iの再現ではないかと強く感じている。

● コーヒーの分類とダイバーシティ
 元々よくカフェでコーヒーを飲みながら、仕事や読書などをしていたが、コロナ渦で、店に行く機会がかなり減った。代わりに、焙煎された豆を買って、家でドリップコーヒーを作ることが多くなった。ますますコーヒーに魅了されると同時に、コーヒーに関する知識も増えてきた。

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近所の自家焙煎珈琲店

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スーパーのコーヒーコーナー

 コーヒーの味とフレーバーは、品種や栽培された場所の気候や風土から生まれる。場所や気候によって違う。加工や管理、そして流通によっても違うのだ。コーヒーの豆は、大きく、以下のように分類される。

・ストレート
 ストレートコーヒーとは同じ産地のコーヒー豆だけを使うコーヒーのことだ。「ブラジル」「コロンビア」といった国や、「ブルーマウンテン」「キリマンジャロ」といったエリアのように、生産地の名前がつけられている。コーヒー豆の産地は世界に約70ヵ国がある。以下は、よく言われる代表的な国のコーヒーの味わいだ。
ブラジル:クセがなく、飲みやすい。チョコレートやナッツ系のフレーバー
コロンビア:酸味が強く豊かなコクと香り。チョコレートからフルーツまで幅広いフレーバー
パナマ:上品な香り、ほのかな酸味。さっぱり繊細なフレーバー

 代表的なエリアとしては、

ブルーマウンテン:カリブ海の島国ジャマイカにあるブルーマウンテン山脈で栽培されて、酸味、苦味、香り、コクなどバランスが良い
キリマンジャロ:アフリカ東部のタンザニアにある海抜2000m級の高地で栽培されて、フルーティーな心地よい甘味をともなった酸味が特徴
 
 ストレートコーヒーは、異なる農園の豆を混ぜて販売されるため、豆本来の個性は失われてしまうことが多いが、各国や異なるエリアの特徴的な味わいを楽しむことができる。

・スペシャルティ
 近年、「スペシャルティコーヒー」が注目を集めている。日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)では次のように定義されている(一部抜粋):

消費者が美味しいと評価して満足するコーヒーであること。
(......中略)
生産国においての栽培管理、収穫、生産処理、選別そして品質管理が適正になされ、欠点豆の混入が極めて少ない生豆であること。
スペシャルティコーヒーでは、個性的な風味がクリアに感じられるコーヒーを良質なものと考えている。

 スペシャルティコーヒーは、際立つ印象的な風味特性を備え、生産地からお店に届くまでの過程がしっかり管理されているコーヒー。

・シングルオリジン
 シングルオリジンコーヒーとは、ストレートとスペシャルティコーヒーよりもっと厳しく、生産国やエリアに加え、収穫時期、生産者、豆の品種、精製方法などの単位で一銘柄とする、つまり、農園単位かつ単一品種のコーヒーだ。シングルオリジンのパッケージには、生産国だけでなく農園名や品種、生産処理方法に至るまでの細かな情報が盛り込まれている。

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丸山珈琲のシングルオリジン

・ 人のダイバーシティ 
 上記のように、コーヒーは国、エリア、農園によって違う味とフレーバーを持つ。コーヒーには「ダイバーシティ」の魅力が凝縮されている。われわれ人間も同様だ。よく、国柄、地域柄/県民性、人柄で言われているように、国によって違う、同じ国でも、地域によって違う。同じ地域でも、家庭や育ちにより違うのだ。もうちょっと具体的に言うと、
見える違い:性別・人種・年齢・見た目・働き方・習慣など
見えない違い:文化・国籍・宗教・信仰・学歴・価値観・キャリア志向・ライフスタイルなど

 人々は、個性や特徴、自分なりの「フレーバー」を持つ、それぞれは特別なオンリーワンだ。

 人々で構成される社会や組織の成長には絶えないイノベーションが必要だ。イノベーションという概念を確立した経済学者シュンペーターが、イノベーションに必要な新しい知は、既存知と別の既存知の新しい組み合わせによって生まれると主張している。多様な人材を持つ組織がうまく機能すれば、さまざまなイノベーションや改革が生まれることが期待できるようになる。コーヒーの世界も同様だ。

 カフェや喫茶店では、国・エリア・農園で分類される複数の異なる豆を混ぜる、所謂「ブレンドコーヒー」がよく提供される。なぜブレンドコーヒーか。

● ブレンドコーヒーとインクルージョン
 ブレンド(blend)の語源は、ラテン語の「目を見えなくする」を意味する言葉、転じて「元となるものを見えなくする」と「混ぜる、混合する」という意味であったという。
 複数種類の豆を混ぜて作られるコーヒーは、それぞれの豆の欠点を補うようなブレンドをして、おいしく飲めるバランスの良いコーヒーが作られるというような長所がある。配合するコーヒー豆の種類や割合によって、味わいや風味は無限に変化する。言い換えると、異なる特徴のあるコーヒー豆を混ぜることで、求める味のコーヒーを作り出すことが可能だ。また、ブレンドで、値段がリーズナブルで味のバランスが取れたコーヒーの提供が可能になるというメリットもある。
 実際に、ブレンドコーヒーで配合するコーヒー豆の種類や割合には決まったルールがない。お店のマスターの技術や好みにより、それぞれ独自のブレンドが作られる。それは、所謂「オリジナルブレンド(独自の混合)」とも呼ばれる。店のオリジナルブレンドを飲み比べてみれば、その店や店主の個性を知ることもできる。
 例えば、日本コーヒー消費量一位となる京都では、多くのカフェや喫茶店が立ち並ぶ。その中に、“京都の朝は、イノダコーヒの香りから”/“Good morning from Kyoto.”と親しまれる、京都を代表する老舗喫茶店・イノダコーヒがある。その看板メニューとなる「アラビアの真珠」は、オリジナルスペシャリティーではなく、しっかりとした味わいが特徴のオリジナルブレンドコーヒーだ。⾃社の⽬利きと技術で創り出した「アラビアの 真珠」が多くの⼈々に愛されている。

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 D&Iの「インクルージョン」が、コーヒーのブレンドと似ているように、一人ひとりがそれぞれの個性(ダイバーシティ)を受け入れることで一体性を目指している。ダイバーシティを受け入れるだけでなく、大切な個性や違いを活かして、全体の調和と最適化を実現することが「インクルージョン」の本質だ。
 インクルージョンが実現できれば、各々が力を最大限に発揮することができるため、結果として、仕事のパフォーマンスが向上し、従業員が生き生きして離職率も低下する。
 多種多様な人材がいるならば、さまざまな考えが入り混じり、組織には常に新しい刺激がもたらされる。新たなアイデアの発見や革新的な商品が生みやすくて、企業の成長や人材不足の解決にも大きく役立つのだ。
 近年、日本においては、多様な人材の採用、LGBTへの配慮と理解、柔軟な働き方など、ダイバーシティ推進の動きが広まっている。しかし、例えば、子どもの迎えで早く帰ることさえも周囲が迷惑に感じるようであれば、D&Iがうまくいっている状況とはいえないだろう。多様な人材を登用するだけでは「表面的なダイバーシティ」となってしまい、うまい「ブレンド」と言えない。
 ブレンドコーヒーの場合、ルールや規定はないが、下記のような基本的な流れもあるといわれる。
1. 味の中心となるベースのコーヒー豆を選ぶ。
2. ベースのコーヒー豆と正反対の特長を持つコーヒー豆を組み合わせて風味に幅を持たせる。
3. ベースのコーヒー豆と似た特長を持つコーヒー豆を組み合わせて全体のバランスを整える。
4. お好みで個性的な風味のコーヒー豆を追加して、味にアクセントをつける。
 これはD&Iにも参考になる。組織のリーダーは、カフェのマスターと同じように、なんでも揃っているのではなく、優秀な人材の目利きと採用、組織構成のバランス、人材の特長を活かすマネジメント力、所謂、うまいオリジナルブレンドのようなインクルージョンが問われている。

 ブレンドコーヒーは、コツをつかめば美味しい風味とフレーバーのオリジナルブレンドを作り出すことが可能だ。組織も社会も、D&I(ダイバーシティとインクルージョン)で、一人ひとりの持ち味を生かすことで、豊かな社会を作れるだろう。

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