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[後編]ピュア爺のつくるピュアな布-岡山県/ギャバジン-


日本諸国テキスタイル物産店の広報紙「民ノ布」にてご紹介する「みんふ」は、日本諸国テキスタイル物産店のプライベートレーベルです。
そして、みんふのものづくりを支えているのは岡山県の児島にある「石井織物工場」さん。「みんふ」のデザイナー、岩崎恵子さんによると石井織物工場がうみだす布は、「とにかくピュア」ということ。
布の生地が“ピュア”って、どういうこと?
その秘密を探ろうと今年3月、岩崎さんと一緒に石井織物工場を見学させていただけることに。
年季の入った昔ながらの織機がずらりと並ぶ工場で石井織物工場の三代目であり岩崎さんが“ピュア爺”と尊敬する職人、石井八重蔵さんに生地のおはなしを伺いました。

※前編はこちらです。

効率よりも納得いく「品質」を優先

民さん(以下/民)
ここからはインタビュー〈後編〉です。
八重蔵さんが織る生地について、
工場内を見学させてもらいながら
おはなしを伺っていきます。

石井八重蔵さん(以下/八重蔵)
はい、よろしくお願いします。
工場は、この奥です。どうぞ。


おじゃまします。わぁ!
たくさんの織機がずらりと並んでいますね。
そして、どの機械も年季が入っている…。

八重蔵
うちの工場で使っている織機は
すべて「シャットル織機」です。
どの織機も50年以上使っています。
メインで使っている豊田自動織機の
織機は、昭和46年に作られたもので
いまはもう製造されていません。

シャットル織機を動かす八重蔵さん。織っているのはギャバジン。


織機に「TOYODA」って
書いてありますね。

八重蔵
車のメーカーのトヨタって
元は織機の製造で創業したんです。
豊田自動織機はトヨタグループの本家で
創業者の豊田佐吉さんが
シャットル織機の発明者だそうです。

ちなみに、うちの織機の型式は「GL8」。
いまではメーカーにも手入れできる人が
いなくなってしまったから
自分で修理しながら現役で動かしてるのは
この辺ではウチぐらいじゃないかな。


シャットル織機で織っているところは
いまでは少なくなったそうですが、
現在主流となっている織機と
どんな違いがあるんですか?

八重蔵
生地は「経糸(たていと)」に
「緯糸(よこいと)」を通して
織り上げていきますが、
シャットル織機は緯糸を
「シャトル」という部品につけて
経糸の間に通して織っていきます。

織機にセットされたシャットル。緯糸を巻きつけた木管がシャットル内に入っている。


八重蔵
現在主流の「シャトルレス織機」は
シャトルではなく、風圧や水圧を使って
高速で緯糸を運んで織っています。
コンピュータ制御で効率よく、早く
均一な生地を織ることができます。

一方で、低速度でしか織ることのできない
シャットル織機は、すべてがマニュアルで
職人の手作業が多く、効率もよくありません。

それでも、うちがシャットル織機で
ていねいに織ることにこだわるのは
風合いのよい、緻密で丈夫な生地を
お客さんに届けて喜んでもらいたい
からです。

仕事の相棒は自分でメンテナンス


生地の仕上がりや風合いなどに
織機の種類が大きく影響するんですね。
八重蔵さんはこのシャットル織機で
どのように生地を織っていくんですか?

八重蔵
まず、織機に経糸をセットします。
次に、緯糸を巻きつけた「木管」という
パーツをシャトルの内側に入れて
織機にセットします。

織機が動き出すと機械の端から端まで、
シャトルが何度も往復して緯糸を通します。

木管の糸がなくなったら
自動的に次の木管と交換され、
木管がシャトルにセットされて
とぎれることなく
シャトルが往復しつづけます。
そうして生地が織り上がります。

箱にたくさん入った木管(もっかん)。織る前に、機械で緯糸を巻きつけて準備する。


織機が動いているときの
カシャン、カシャン、という
テンポの良い機械音は
ずっと聞いていたくなりますね。

八重蔵さんは、織機の音の違いで
機械の調子を察知したりするんですか?

八重蔵
そうですね。温度や湿度によって
機械の調子は毎日変わりますから
動いている様子や仕上がったものを
目で見て、音も聞いて観察します。

人間と違って、機械って
「モノ」を言わないでしょう。
ここが調子悪いから直してくれ、とか
機械が話してくれたらいいんですけど
そうはいかないから、よく観察します。

工場内にて。八重蔵さんの横にあるのは、木管に緯糸を巻きつけるための機械。

八重蔵
そして、機械はウソをつかない。
調子の良し悪しにも正直です。
先ほどおはなししたように、
もう50年以上使っている機械だから
メーカーには交換パーツもない。
だから、自分でメンテナンスをするし、
ほとんどの部品も作業場でつくります。


「作業場」って、工場への通路にあった
工具がたくさん並んでいたところですか?
チェーンソーや電動工具が置かれていて
まるで鉄工所のような雰囲気でしたね。

八重蔵
そうです。溶接もするし、電気系統も
自分でぜんぶ直しますよ。


織る技術だけでなく、修理する技術まで
備えているから、昔ながらの機械を
いまでも使いこなせるんですね。

作業場の様子。小さなパーツから大きな部品まで修理は八重蔵さん自身が行う。

採算はとらずに「合わせる」もの


ここまで、機械についてのおはなしを
聞かせていただきましたが
次は、生地の材料について教えてください。

八重蔵
生地を作る材料は「糸」ですが
ギャバジンと平織どちらも、40番手の糸を
2本よりあわせた「双糸」で統一して
織っています。「40」番手の「双」糸だから
「ヨンマルソウ」と呼ばれます。

ギャバジンで使う糸の数は、基本は
経糸が128本で、緯糸が52本。
1m巾の場合は緯糸が38本になります。

「整経」の工程は織る前の下準備。織りに必要な数の経糸をそろえていく。


生地の原料となる糸の仕入れは
どのようにされているんですか?

八重蔵
うちの工場で織る生地用の糸は
都築紡績から天然繊維100%の
無農薬の上質な綿糸を仕入れています。
綿の産地は、インドネシアなど
海外がほとんど。国内の綿産業は
いまはあまり聞かなくなりましたね。


国産の綿がないとなると、海外からの輸入に
頼りきる状況が長く続いているんですね。

八重蔵
実は、糸の値段はいま
どんどん上がっているんです。
でも、生地を買っていただく側からは
「もっと値下げしてほしい」といわれる。


糸は値段が高くなっているのに
生地は安く売るとなると、採算はとれるの?
と心配になりますね…。

八重蔵
そうですよね。でも、私自身は
「採算は合わせるもの」という考えで
自分の商いをやっています。


採算を「とる」ではなく、「合わせる」。

八重蔵
はい。採算は「合わせる」ものです。
そして、採算を合わせる、ということは
数学の式をつくることなんですよ。

整経の工程では、糸の状態も注意深く見る。きちんと整経できると仕上がりもキレイ。

八重蔵
自分自身は、いきなり繊維業界に
入ったのではなく、商科大学に進んで
商学部で勉強しました。その経験の強みは
自分の商いに必要な“数学式”を
自分でつくれることなんです。


その“数学式”とは、具体的には
糸の仕入れ値と、生地の売値の間にある
「工程」を工夫するなどでしょうか。

八重蔵
工程の工夫については、もちろんそうですし
職人の数を調整することも工夫のひとつです。
かつて忙しかった時代はたくさんの職人に
この工場で働いてもらっていましたが
いまは基本的に、生地を織るのは私ひとりです。
生地のオーダーがたくさん入ったときは
人に来てもらって数名体制で
製造することもあります。

あらゆる道具が並ぶ作業場。「修理のためなら自分で溶接も行う」と八重蔵さん。



なるほど。いまはお一人で製造されている
とのことですが、次の代は…?

八重蔵
うちの子どもは勤めに出ていて、
いまから技術を伝えるとしても
十分に伝えきれないまま
引退することになってしまう。

とはいえ、次の代に技術や正しい教育を
つなげたい気持ちはあります。

自分自身は今年、77歳です。
先代が亡くなったときの年齢を
とっくに超えてしまいました。
だから織る作業は、いまは休み休みですね。
ちなみに、糸の入った箱は
1箱25kgもあるんですよ。
それを一人で持ち上げてる。

紡績糸の捲糸が入った箱。「チーズ」は円筒状に糸を巻いたもののこと。


1箱25kg!

八重蔵
織るために必要な作業なので、
箱を持ち上げる体力や健康は
維持できるように努力してますけど
それでも、いつまで自分ひとりで
持ち上げられるかわからないなぁ。

うちの生地をほしいと言ってくれる
お客さんから電話がかかってくるうちは
最高級品のギャバジンにこだわって
ものづくりを続けていきたいですね。


肌に心地よいピュアな布がうまれる現場を
今回、実際に見せていただいて
ピュアな布のこだわりを実感できました。
貴重なおはなし、ありがとうございました!

作り手による生地解説〈後編〉まとめ


工場を継いで50年以上、という
石井織物工場の三代目、石井八重蔵さんのお話。
〈後編〉ではものづくりの相棒・シャットル織機で
生地を織る工程を見学させていただきました。

印象的だったのは、使う糸、使う機械、
どれひとつとっても、真摯に向き合う姿でした。
そして、信頼されるものづくりを続けるため
「採算を合わせていく」という考え方。
“ピュアな布”をつくる八重蔵さんその人が
とことんピュアな方なのだ
、と腑に落ちたのでした。

石井織物工場(岡山県倉敷市)
取材日:2021年3月24日
取材・執筆・撮影:杉谷紗香(piknik/民ノ布編集室)

Instagram:@taminonuno


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