[後編]ピュア爺のつくるピュアな布-岡山県/ギャバジン-
※前編はこちらです。
効率よりも納得いく「品質」を優先
民さん(以下/民)
ここからはインタビュー〈後編〉です。
八重蔵さんが織る生地について、
工場内を見学させてもらいながら
おはなしを伺っていきます。
石井八重蔵さん(以下/八重蔵)
はい、よろしくお願いします。
工場は、この奥です。どうぞ。
民
おじゃまします。わぁ!
たくさんの織機がずらりと並んでいますね。
そして、どの機械も年季が入っている…。
八重蔵
うちの工場で使っている織機は
すべて「シャットル織機」です。
どの織機も50年以上使っています。
メインで使っている豊田自動織機の
織機は、昭和46年に作られたもので
いまはもう製造されていません。
民
織機に「TOYODA」って
書いてありますね。
八重蔵
車のメーカーのトヨタって
元は織機の製造で創業したんです。
豊田自動織機はトヨタグループの本家で
創業者の豊田佐吉さんが
シャットル織機の発明者だそうです。
ちなみに、うちの織機の型式は「GL8」。
いまではメーカーにも手入れできる人が
いなくなってしまったから
自分で修理しながら現役で動かしてるのは
この辺ではウチぐらいじゃないかな。
民
シャットル織機で織っているところは
いまでは少なくなったそうですが、
現在主流となっている織機と
どんな違いがあるんですか?
八重蔵
生地は「経糸(たていと)」に
「緯糸(よこいと)」を通して
織り上げていきますが、
シャットル織機は緯糸を
「シャトル」という部品につけて
経糸の間に通して織っていきます。
八重蔵
現在主流の「シャトルレス織機」は
シャトルではなく、風圧や水圧を使って
高速で緯糸を運んで織っています。
コンピュータ制御で効率よく、早く
均一な生地を織ることができます。
一方で、低速度でしか織ることのできない
シャットル織機は、すべてがマニュアルで
職人の手作業が多く、効率もよくありません。
それでも、うちがシャットル織機で
ていねいに織ることにこだわるのは
風合いのよい、緻密で丈夫な生地を
お客さんに届けて喜んでもらいたいからです。
仕事の相棒は自分でメンテナンス
民
生地の仕上がりや風合いなどに
織機の種類が大きく影響するんですね。
八重蔵さんはこのシャットル織機で
どのように生地を織っていくんですか?
八重蔵
まず、織機に経糸をセットします。
次に、緯糸を巻きつけた「木管」という
パーツをシャトルの内側に入れて
織機にセットします。
織機が動き出すと機械の端から端まで、
シャトルが何度も往復して緯糸を通します。
木管の糸がなくなったら
自動的に次の木管と交換され、
木管がシャトルにセットされて
とぎれることなく
シャトルが往復しつづけます。
そうして生地が織り上がります。
民
織機が動いているときの
カシャン、カシャン、という
テンポの良い機械音は
ずっと聞いていたくなりますね。
八重蔵さんは、織機の音の違いで
機械の調子を察知したりするんですか?
八重蔵
そうですね。温度や湿度によって
機械の調子は毎日変わりますから
動いている様子や仕上がったものを
目で見て、音も聞いて観察します。
人間と違って、機械って
「モノ」を言わないでしょう。
ここが調子悪いから直してくれ、とか
機械が話してくれたらいいんですけど
そうはいかないから、よく観察します。
八重蔵
そして、機械はウソをつかない。
調子の良し悪しにも正直です。
先ほどおはなししたように、
もう50年以上使っている機械だから
メーカーには交換パーツもない。
だから、自分でメンテナンスをするし、
ほとんどの部品も作業場でつくります。
民
「作業場」って、工場への通路にあった
工具がたくさん並んでいたところですか?
チェーンソーや電動工具が置かれていて
まるで鉄工所のような雰囲気でしたね。
八重蔵
そうです。溶接もするし、電気系統も
自分でぜんぶ直しますよ。
民
織る技術だけでなく、修理する技術まで
備えているから、昔ながらの機械を
いまでも使いこなせるんですね。
採算はとらずに「合わせる」もの
民
ここまで、機械についてのおはなしを
聞かせていただきましたが
次は、生地の材料について教えてください。
八重蔵
生地を作る材料は「糸」ですが
ギャバジンと平織どちらも、40番手の糸を
2本よりあわせた「双糸」で統一して
織っています。「40」番手の「双」糸だから
「ヨンマルソウ」と呼ばれます。
ギャバジンで使う糸の数は、基本は
経糸が128本で、緯糸が52本。
1m巾の場合は緯糸が38本になります。
民
生地の原料となる糸の仕入れは
どのようにされているんですか?
八重蔵
うちの工場で織る生地用の糸は
都築紡績から天然繊維100%の
無農薬の上質な綿糸を仕入れています。
綿の産地は、インドネシアなど
海外がほとんど。国内の綿産業は
いまはあまり聞かなくなりましたね。
民
国産の綿がないとなると、海外からの輸入に
頼りきる状況が長く続いているんですね。
八重蔵
実は、糸の値段はいま
どんどん上がっているんです。
でも、生地を買っていただく側からは
「もっと値下げしてほしい」といわれる。
民
糸は値段が高くなっているのに
生地は安く売るとなると、採算はとれるの?
と心配になりますね…。
八重蔵
そうですよね。でも、私自身は
「採算は合わせるもの」という考えで
自分の商いをやっています。
民
採算を「とる」ではなく、「合わせる」。
八重蔵
はい。採算は「合わせる」ものです。
そして、採算を合わせる、ということは
数学の式をつくることなんですよ。
八重蔵
自分自身は、いきなり繊維業界に
入ったのではなく、商科大学に進んで
商学部で勉強しました。その経験の強みは
自分の商いに必要な“数学式”を
自分でつくれることなんです。
民
その“数学式”とは、具体的には
糸の仕入れ値と、生地の売値の間にある
「工程」を工夫するなどでしょうか。
八重蔵
工程の工夫については、もちろんそうですし
職人の数を調整することも工夫のひとつです。
かつて忙しかった時代はたくさんの職人に
この工場で働いてもらっていましたが
いまは基本的に、生地を織るのは私ひとりです。
生地のオーダーがたくさん入ったときは
人に来てもらって数名体制で
製造することもあります。
民
なるほど。いまはお一人で製造されている
とのことですが、次の代は…?
八重蔵
うちの子どもは勤めに出ていて、
いまから技術を伝えるとしても
十分に伝えきれないまま
引退することになってしまう。
とはいえ、次の代に技術や正しい教育を
つなげたい気持ちはあります。
自分自身は今年、77歳です。
先代が亡くなったときの年齢を
とっくに超えてしまいました。
だから織る作業は、いまは休み休みですね。
ちなみに、糸の入った箱は
1箱25kgもあるんですよ。
それを一人で持ち上げてる。
民
1箱25kg!
八重蔵
織るために必要な作業なので、
箱を持ち上げる体力や健康は
維持できるように努力してますけど
それでも、いつまで自分ひとりで
持ち上げられるかわからないなぁ。
うちの生地をほしいと言ってくれる
お客さんから電話がかかってくるうちは
最高級品のギャバジンにこだわって
ものづくりを続けていきたいですね。
民
肌に心地よいピュアな布がうまれる現場を
今回、実際に見せていただいて
ピュアな布のこだわりを実感できました。
貴重なおはなし、ありがとうございました!
作り手による生地解説〈後編〉まとめ
工場を継いで50年以上、という
石井織物工場の三代目、石井八重蔵さんのお話。
〈後編〉ではものづくりの相棒・シャットル織機で
生地を織る工程を見学させていただきました。
印象的だったのは、使う糸、使う機械、
どれひとつとっても、真摯に向き合う姿でした。
そして、信頼されるものづくりを続けるため
「採算を合わせていく」という考え方。
“ピュアな布”をつくる八重蔵さんその人が
とことんピュアな方なのだ、と腑に落ちたのでした。
石井織物工場(岡山県倉敷市)
取材日:2021年3月24日
取材・執筆・撮影:杉谷紗香(piknik/民ノ布編集室)
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