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【読書レビュー】「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」第1回「ガンと生きる」

著者・書名・出版社・出版年は?


坂本龍一「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」第1回「ガンと生きる」

どんな本? 


月刊文芸誌「新潮」2022年7月号から連載されている、音楽家の坂本龍一による自伝的エッセイ。文章は坂本自身が書いているわけではなく、フリージャーナリストの鈴木正文を聞き手にしたインタビューを編集部で構成したもののようです。

今回紹介する第一回目は「ガンと生きる」というテーマで、後述の目次にあるような12のトピックが語られます。文章が掲載された2022年7月現在、坂本は闘病中であり、その際の身体的・精神的な制約に起因する思索が率直に語られています。

分量は各ページ約1300字で15ページ。ブランク部分を除外するとトータルで約1万7000字くらいかな。

何が学べるか?


  1. 坂本龍一の近況

  2. 坂本龍一の思考に影響を与えた多彩な情報源

  3. 時間や死について考えるヒント

どんなひとにおすすめ?


  1. もちろん、坂本龍一ファン

  2. 映画とか音楽が好きなひと

  3. クリエイティブマインドをもつひと

目次


ベルトルッチとボウルズ
手術直前のこと
せん妄体験
愛に救われた
友達という存在
時間の疑わしさ
息子が教えてくれた曲
初めての破壊衝動
『戦メリ』に対する思い
両親の死
本来の生命のあり方
死後の世界

文章で触れられる映画・音楽・書籍など


cinéma
『シェルタリング・スカイ』
『コンタクト』
『男はつらいよ』
musique
async, Ryuichi SAKAMOTO 
Yesterday, When I Was Young, Charles Aznavour
4'33”, John Cage
livre
『音楽は自由にする』
『今日は死ぬのにもってこいの日』
poésie
リルケ『時祷集 Das Stunden-Buch』

感想とか


インタビューの書き起こしだからか、それとも「教授」の知性的な抑制が効いているからか、全体的には感情が抑えられた表現になっています。自らの病状の診断について、「見落とし」があれば生死に関わる重要なものなので、怒りの感情も湧き上がっていたと思うのです。でも、そのあたりはわりとさらっと書かれていたので、逆に生々しい声(あるいは叫び)のようなものが感じ取れました。

それにしても、手術前の「最後の晩餐」など、楽観的な空気感というか、何があってもとにかく楽しくいきたいという思いが伝わってきます。術後の「せん妄」についても、捉え方が冷静です。その可能性を述べているくだりなどは、すべての体験を作品に変換しようとするクリエイターマインドが垣間見えます。とはいえ、ちょっと離れた立ち位置から冷静な分析をすることで心のバランスを保っている、ということなのかもしれませんが。

6番目のトピック「時間の疑わしさ」以降の記述の根底に流れるものは、時間についての考察です。ひとは、自らの死が突きつけられたときに、はじめて時間の意味を知るのでしょう。しかし、これを読んでいると、そのような絶望的な状況であっても、なにか透明な喜びのようなものも感じられます。時間の意味に覚醒していれば、悲しみに飲み込まれることもないのでしょう。

わたしたちは、近代が追求してきた価値のほころびを、やわらかい言葉で語れる坂本龍一という存在がいることに感謝すべきかもしれません。

Kindle INFO


AudibleとかUnlimitedはありません。2022/08/26現在、amazon.jpでは4000円前後で中古・新品が入手可です。15ページなので、近隣の図書館とかで読むほうがいいでしょうね。


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