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美の生まれる場所

トーゴ人のナタリー と一日首都のロメ で過ごした。サヤカがきっと好きそうなところを見せてあげる、といろいろな場所に連れて行ってくれた。フライトアテンダントの彼女と初めて会ったのはベナン行きの飛行機の中で、その後一年くらいメッセージのやりとりをし、ようやくトーゴで会うことができた。実際に会うのはまだ2回目なのに、どうしてこんなに私の好みが分かるんだろう、とため息の連続だった。

ナタリーは美しい。しなやかでヘルシーで、いつも口角の持ち上がった明るい表情を浮かべていて、ハッピーな空気がこちらに自然と伝わってくるような人。

そんな彼女がオーダーメイドのワンピースをプレゼントしてくれた。嬉々としてすぐに着替える。トーゴで編み込んだヘアスタイルに、トーゴで仕立てられた服を着て、トーゴ人の素敵な友人と街に繰り出す。嬉しい。

初めに向かったのはビーチのレストランで、パラソルの下でピザを食べながらいろんな話をした。心地よい海風にあたり、波の音を聞きながら。

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トーゴ人でフライトアテンダントの仕事をしている人は珍しいのでは?と聞くと、統計的なことはわからない、と彼女は言った。仕事がない、チャンスがないって言う人は多いけれど、私はフライトアテンダントになりたいと思って、大学の途中でガーナの専門学校に行くことを決めて、そこで英語も学んだ。間口は狭かったけれどチャンスをつかんで、この仕事に就くことができた。この仕事が、本当に好きよ。

飛行機で、明らかにほかのスタッフとは違う、お腹の底から自然と湧き上がってきたような笑顔と華やかさをふりまいていた彼女を思い出した。キラキラとした粒子がまわりに見えるようで、お客さんと話すのが本当に好きなのだなと感じた。

このビーチにはオレンジやイエローの卵サイズの石がたくさん落ちていて、石好きの私にとってはたまらない光景だった。興奮しながら拾って品定めする私を、彼女はデッキに寝そべりながら「そんなに珍しい?」と不思議そうに眺めていた。この石たちは、今も私の部屋に飾ってある。

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彼女と一緒にいて、何度男の人たちに声をかけられたことか。そしてその度に、彼女は白い歯を見せて笑いながら、きっぱりNOと言った。男性も残念ではあるが悪い気はしないという感じで、じゃあまたねと去っていく。爽やかに断ることに慣れているのだなと思う。

「次は、ネイルを塗りなおしに行こう」と車に乗り込み、ロメ市最大のマーケットに向かった。車から降り、確かこの辺りだったと思うのだけど、と探りながら通りを抜けて行き、「ああ、ここ、ここ」とマニキュアがいっぱい詰まった金だらいを置いている露店の前で立ち止まった。

空の下の、ネイルサロン。

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ネイリストの彼女は、あら久しぶりねという感じで現地語のエウェ語で挨拶を交わし、ナタリーの付け爪のマニキュアを除光液でささっと拭き取っていく。隣にもうひと組お客さんがいて楽しげに話している。

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トーゴのヘアスタイルのおかげで、ここでも通りかかる人が私に声をかけてくれる。ナイスヘアね、と。

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隣のジーンズの露店から、一人の男性がスキニージーンズを肩や腕に載せてやってきて、ネイルを塗られているナタリーに声をかける。売り込みかな、また断るのかなと思っていたら「以前よく、彼からデニムを買っていたの」と言われハッとした。ナタリーはスタイリッシュで、Instagramにあげているコーディネートもとてもかっこいい。無意識のうちに、トーゴではない国で買った服なのだろうと思い込んでいた。

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マーケットでは洋服や靴、カバンなどがまるでフリーマケットのように山と積まれた状態で売られていて、この中から選ぶのは大変そうだなと通りすがるたびに思っていた。特に靴などは左右やサイズも関係なくごちゃ混ぜになっていて、ペアを見つけるのも一苦労しそうだ(下の写真の右側参照。黒いサンダルの山です)
けれど、彼が細身のシルエットだったり、綺麗なダメージ加工がされていたりと、ナタリーによく似合いそうなものばかりのジーンズを持ってきているのを見て、ああそうかお得意さんになると、こうやってお店の人が選んでくれるのかと納得した。

ふと周りを見渡すと、デニムのほかにもサンダル、イヤリングやネックレスなどのアクセサリー、カジュアルな古着などのお店が連なっており、そうかマーケットの中でもここは百貨店で言うところの「ファッション&ビューティーコーナー」であったのか、と気づく。

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ナタリーは付け爪を真っ赤に塗り直してもらい、これで1ドルくらいなのよ、とウィンクする。開放的だ。
日本でネイルサロンというと室内で、特に商業施設だと奥まっていたり、お客さんがゆっくりできるように個別に仕切られている。そこでネイリストはお客さんのリクエストにこたえながら、緻密な芸術品を生み出していく。親密なひそやかさのある空間の中で。

それに比べ、ここはずいぶんあっけらかんとしている。青空の下で、多少の砂ぼこりなどものともせず、まわりの人と笑い合いながら、なんなら他の商品の営業もされながら、さっさとおおらかに塗られていく爪。ちょっとはみ出ていたりと、技術的な緻密さの差はありつつも、こんなにも空気の流れがよい、ひらけたネイルサロンもあるのか。

ナタリー は手をひらひらさせマニキュアを乾かしながら、また車に戻り、うっかりドアに赤い跡をつけてしまって「きゃーどうしよう、お姉ちゃんの車なのに。怒られる!」と大騒ぎしながらもまた笑って、次の場所へと移動した。そう、ネイルが乾く間もないほどの短い施術時間。

その後も、彼女がいつも制服のサイズ調整を頼むテーラーのアトリエ(洋服を頼むテーラーはまた別にいるらしい)、馬がのんびりと歩く砂浜、ロメ市の象徴であるハトの像がある広場、彼女のお姉さん夫婦が経営するレストランでの夕食、チョコレートケーキが美味しくて夜景の美しい屋上のカフェバーと、本当に楽しい1日を過ごした。

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かしこまったことではなく、彼女の日常の楽しみ方そのものを見せてもらえたのが嬉しかった。華やかでおしゃれで都会的、けれど故郷のトーゴの中でもたくさんの楽しみを持っているナタリー 。

彼女の開放的な美が生まれる場所の数々。

彼女にもう一度会いたいと、心から思う。

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ナタリー とコラボレーションしたTシャツとパーカーを作りました。トーゴの独立記念日のお祝いとして、トーゴの国旗を纏いカメラを構えたナタリー の写真と、ミネラル(鉱石)をイメージしたプリントを組み合わせています。

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