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放課後ののどごし・色のさざめき

ゆるやかな眩しさの日差し、9月のトーゴ。
首都ロメから車で2時間ほどの町、パリメ。どこまでも続いていきそうな滑らかなアスファルトの上を、ブロロロ・・・とどこか牧歌的な音を響かせながらバイクタクシーが行き交う。車道の両脇には開放的な小さな店たちが並ぶ。フフなど日常ごはんを提供するレストラン、ビールやヤシの蒸留酒を出すバー、カラフルな生地屋、ミシンを踏むテイラー、スニーカー屋、八百屋、肉屋、雑貨屋、駄菓子屋、ヘアサロン、コスメティックショップ、バイクや車のパーツ屋、マッサージ店、そのほか生活にまつわるものは、なんでも。

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パラソルの下のそのジューススタンドも、そうした並びの一角にあった。
日差しから逃れほっと一息つく。ずらりと並んだ、半透明のプラスチックのフタ付きバケツのような容器の中に、これまた半透明の液体が入っている。爽やかなイエロー、柔らかいオレンジや茶色の液体たちが、大きめの氷と一緒に光を反射させて静かにきらめく。

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どれにしようか迷っていると、カラフルなプラスチックのカップに入れて少しずつ味見をさせてくれる。イエローとオレンジ色は柑橘系のすっきりとした清涼飲料の味。知らぬうちに体温の上がっていた体にするりと染み込んでいく。茶色い液体の正体は結局分からなかったけれど、アイスティーのようにほんのすこし甘みのある、思ったよりもクセのない喉ごし。頼むとカップになみなみと注いでくれる。

身体によく合ったドレスを着ているなぁ、広がった袖の形がエレガントだし、コルセットのように生かしたテキスタイル模様の切り替えも素敵だし、髪型もかっこよくて色気があるなぁとか、ジュース屋の主人であり、どしんとした安定感のある空気を放つ彼女のことをひそかに眺め回しながら、パラソルの下で立ったままこくこくと飲む。

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少女が2人、笑いさざめきながら立ち寄った。トーゴ、もしくはアフリカでは、潔い坊主頭の少女や女性たちがたくさんいる。頭の形も姿勢もよく体幹が整っているからか、とても似合う。隠しようのない、隠す必要のない顔立ちと表情。アフリカンヘアにはチャレンジできても、このスタイルを試すには私にはまだ勇気が必要で、羨ましい。

彼女たちがテイクアウトを頼むと、店主は短い傘袋のような筒状のビニール袋を取り出し、プラスチックの漏斗できっちりカップ一杯分を測ってとぷとぷと注ぎ、水風船のようにくるっと口を結んで渡した。即席のペットボトル。つるんとした細長いフォルムに閉じ込められた透明なレモンイエロー。

彼女たちの、制服と思われるベージュのスカートにふと目をやると、2人の生地の色が微妙に違う。それどころか、シルエットや丈もちょっと違う。日本のように腰の部分で折り返して長さを調整しているから、というレベルの違いでは決してなく、形そのものが別物だった。彼女たちは小銭を渡して、ぷよぷよとビニールを弄びつつまた笑いながら去っていった。
私もカップの謎のままの茶色い液体を最後まで気持ちよく飲み干し、お礼を伝えてその場を離れた。身体に水分が行き渡り、ぷりんと内側から潤ってみなぎる。

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この近くの学校ではやはり、無地のベージュが制服の基調らしい。下校中の少年少女たちをよく見ていると、一人ひとり少しずつ異なる色合いで、裾の長さや襞の数などデザインが違う。ワンピースタイプの場合だと、襟元のデザインやシルエットにもその違いが見られる。

その後マーケットで、山のように積み重ねた無地のベージュ生地を売っている店を見つけたが、やや薄いもの、ミルクティ色、からし色に近いもの、と全部異なる色彩の生地をうず高く積み上げていた。おそらくこの中から選ぶのだろう。

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一応の形の指定はありつつも、各家庭でマーケットで生地を買い、それぞれ贔屓にしているテイラーに持ち込み仕上がりのデザインも変えて頼んでいるのか、テーラーごとに自然と差が出るに任せているのだろうか。制服だけれど、一人ひとり異なる形と色。
中高と判で押したように皆と同じ制服を着ることが嫌いだった私には、どこか心の緩むルールと風景に映った。だいたい同じであれば、それでいい。着る人も、作る人も違うのだから、と言われているようだった。

一見同じふりをした制服を身に纏い、はしゃぎながら赤土の道を駆け抜け、ベージュのモザイク模様の波のように景色に溶け込んでいく彼ら彼女らを目で追いながら、なんだか嬉しくなってまた前に進んだ。

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