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彫刻オレンジ
トーゴのアベポゾで、とても美しいものを見た。
テーラーのEpifaniの家の近くの、車道から一歩入ると、砂と土の通りが広がる。人通りは少なく、ゆったりと穏やかな空気が流れる。そんな茶色い通りに、彼女は店を出していた。隆々とたくましいパイナップル、つやつやのアボカド、バナナ、マンゴーなどを売る場所として。
彼女の肌はアボカドに負けないくらい、つややかに太陽の光を跳ね返していた。
テーブルの中央には、スレンダーな鉄製のスタンド。まるで小さな帽子スタンドのように先が輪になっている。そこに、器用に重ねて乗せられた白く丸いもの。
それは、繊細な彫刻を施されたような小ぶりのオレンジだった。
縦にすっと細く、囲むように刻みがつけられている。下に落ちている菊の花びらのような皮の形状から、ためらいのない勢いで剥かれたのが分かる。(ああ、もっとクリアに写せていたら!)
このオレンジを買うと、上部をくり抜くように切れ目を入れてくれる。片手で軽く潰すように握ると、そこから果汁が溢れ出してくる。ここに口をつけ、果汁を飲む。
果汁100%どころではなく、果汁そのまんま、カップさえ必要のないフレッシュジュースなのだ。
全体を白い部分を残して皮をむくのは、握って果汁が出やすいようにするための工夫。お店ごとに刻み方やスタンドの形状があるようで、個性を感じる。ナイジェリアを訪れた時も、流線状に彫られたのをマーケットで見かけた。羽毛のような皮の山。
彼女はとてもなめらかにナイフを扱う。なんでもないような顔をして。いつまでも眺めていたくなる手さばき。ああすごい、と思わず言うと、はにかんだ笑顔が咲いた。
喉を潤した後はそのまま土に環るゴミになる。その時間のためだけに、彼女はこんなにも繊細な彫刻をオレンジに施している。その儚い美しさを思った。
パッケージも、カップも、ストローもいらない。
何度もなんども繰り返された動きから生まれるこの刻みによって、果物そのものだけで、飲み物として、商品として売ることができる驚き。その知恵と、美しい刻みをつけることができる、彼女の身体性に心を奪われる。
ああ、このまま日本に持ち帰って、戸棚に飾りたい。そして時々取り出して、ゆっくり眺めたい。
そうできたらいいのに、と思う。
できないから、絵に描いた。
けれども彫刻のような美しさは到底再現できるわけがなく、そのままずっと、あのはにかんだ笑顔とともに脳内に残されている。
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このnoteのカテゴリーでは、私が描いたアフリカの絵とともに、人のあり方や衣食住について感じたことや、エピソードを綴ります。
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