エディ・ヴァン・ヘイレンがすごい本当の理由

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 2020年の秋口、時代を創り上げてきた素晴らしいミュージシャンが空高くジャンプしたきりそのまま戻って来なかった。追悼の意を込めて彼が如何様に素晴らしいギタリストであったか、という自分なりの思いをここに記したい。

私とVan Helenの出会い

 中学生の頃だった。キムタクが主演のドラマやCMなどの効果でQueenが小さく流行っていて、かねてからDeep Purpleなどのアルバムを聴いてギターを手にした私は、少し時代を下って80年代のハードロックを聴きはじめていた。

 Def Leppard、Whitesnake、Mötley Crüeその他NWOBHMやLA Metalの流れの中にあるような耳馴染みの良いバンドが好きで色々聴き漁っていたが、Van Halenを初めて聴いたときの衝撃は今でも鮮明に覚えている。今挙げたようなバンドが同列に存在する中、やはりVan Halenはそのデビューから30年後のロックギターに勤しむ中学生からしても、衝撃だった。頭一つ抜きん出ていた。

 80年代のハードロックバンドは、もう時代的にはダサいものになってしまったのかもしれないが、それはそれで良い。どのバンドも、キャッチーなメロディラインであったり骨太だけど繊細なギターソロであったりおんなじようなんだけど全然違うリフだったり、そうした各々のキャラクターに特化していたように思う。だが、Van Halenはそのすべてを持っているように思えた。それでいて、唯一無二のサウンドをハジけさせていた。リフはメジャーキーでポップな曲のはずなのに、エディのヘンなチューニングとデイヴの声質のせいでどこかおどろおどろしかったり、エディのギターのサウンドもマーシャルアンプにギターを直接ぶち込んだようなありがちなものではなく、ガムをくちゃくちゃ噛んでるみたいなヘンなサウンドだった。当時はそんなことは言葉にできなかったが、他のバンドと何かが違う、ということだけは肌身をもって感じていたと思う。

 当時はエディのギターソロなんて全く弾けなくて、"You Really Got Me"だとか"Runnin' with the Devil"だとかの簡単なリフをコピーして満足していたが、それから10年以上経った今、改めて彼がどういったサウンドでどう弾いていたかということを意識しながら練習している。

エディ・ヴァン・ヘイレンの発明

 音楽系のメディアのみならず総合ニュースサイトなども彼の死をこぞって取り上げているが、どこもかしこも言うのは彼が”ライトハンド奏法を編み出し”、”いつでも笑顔でギターを弾いていた”ということだった。それも事実の一部だ。しかし、それだけではこれだけ多くの人からの敬意は集められない。なので、一応ギターを嗜む私なりにギタリストとして彼の何がすごいのかということを書きたい。

ギターサウンド

 まず特筆すべきは、そのギターサウンドだ。

 先程も少し書いたが、彼のギターからはガムをくちゃくちゃ噛んでるときみたいな、本当に変わった音が出ている。ずっと聴いてるとぶっちゃけ良いのか悪いのかもうよくわからなくなってくるのだけれど、曲の中ではそれが嫌に目立つこともないし自分で同じ音を出そうといくらセッティングにこだわっても、あのような音には絶対にならない。

 聴いたほうが早いので言葉で説明するのも野暮だとは思うがどんなサウンドかといえば、エレキギターの美味しいツボちゃんと押さえて良いとこバランスよく鳴ってます、みたいなことだろうか。

 一見こういうヘヴィな音楽をやっている人たちは、低音を強調しがちだと思われていて実際にギタリストでも無駄にBassノブを上げたがるやつもいるが、それは状況によっては間違いで、ドラムのキックとベースが担う音域と干渉して音像がぼやけて聞きにくくなってしまうことがよくある。反面エディのギターサウンドは、ミドル以上の音域がアグレッシヴなようでバランスよく鳴っていて、ヘンな音なのに聴いていて疲れない。リフを弾いているときは歯切れよく、ギターソロになると平らな面を玉が転がるような軽やかさを醸し出す。

 巷では”ブラウンサウンド”などと呼ばれ洋の東西問わずそのサウンドを研究しているギタリストは少なくないだろうが、ついぞ誰も究明することなく謎の核心はエディがあの世へ持っていってしまった。今頃フランク・ザッパに挨拶に行っている頃だろう。

リフさばき

 サウンドと同じぐらい重要な発明が、Van Halenの曲中のリフの数々だ。

 それまでのリフは、低音弦を使って低いフレットで弾くものだった。そうして70年代後半、同じ様なリフが量産されるようになってロックギターは行き場を失い死にかけていた。しまいにはForeignerとかChicagoとかがソフト・ロック路線に走ったりしていた(いやどっちも好きなんだけどね、ロックギターの文脈からすると批判的にならざるをえないわけですよ)。しかしエディは何をしたかというと、それとはまったく逆のことをして新しいリフをどんどん生み出していった。2~4弦のネックの真ん中あたりを多用して軽快なリフを世に送り出した。

 時代を遡ると、エディ以前の教祖であるジミ・ヘンドリクスも実は同じことをやっていた。"Wait Until Tomorrow"なんかが良い例で、この曲はカッティング寄りではあるけれどこういう響きのギターリフは恐らくそれ以前にはあまり耳にしなかったように思う。そうしたヒントをもとに(したかどうかはわからないが)エディはロックギターのリフを更にコードワークでもって発展させる。

 ”リフ”とは何の略語かと言うと、”リフレイン”すなわち曲の中で繰り返し、特にギターで演奏されるパートのことを指す。であるからして、それまでの一般的なリフというのはひとつ、多くてふたつぐらいのコードの行き来の中で短く繰り返されるものが多かった。Led ZeppelinやDeep Purple、Black Sabbathの大半の有名曲をイメージするとわかりやすいだろう。しかしエディは、同じような尺の中でもう少し多くのコード間を行き来し、なおかつコード感を保ちながら動きに富んだリフを多数創り出した。最も代表的なのが"Panama"、"Dance The Night Away"、"Unchained"、"Runnin' With The Devil"などだろうか。これらを聴くとわかるが、"Good Times, Bad Times"とか"Highway Star"とか、"Paranoid"などとはまったく異なる印象を受ける。

 こうしたまったく新しいリフのスタイルを彼が生み出したことによって、従来のリフは時代の彼方へ追いやられてしまった。オジーはJake E. Leeを雇わなければならなくなったし、サウンド面でもレスポールを持っていたギタリストたちもフロイド・ローズ付きハムバッカーを搭載したストラトタイプに持ち替えなければならなくなった。

まとめ

 ギターソロについては今更言うこともないので今回は割愛するが、以上のようなことからロックギターの概念を根本から覆したという意味で、エディから影響を受けたというのをおおっぴらに言うのはどこか恥ずかしい、みたいな風潮があったんじゃないかと思う。そんなの当たり前であるからして、わざわざ言う必要も無いということだ。それを結構インタビューとかで言うしギターのスタイルにもモロに現れたりしているExtremeのヌーノなんかもいるけれども。以前書いたKhruangbinのMark Speerについての記事の冒頭でも同じことを書いたが、エディ・ヴァン・ヘイレンというのは木の枝葉に栄養を供給している立ち位置にいたことは確かだ。

 最後に、私がVan Halenの中で一番好きな曲を紹介して本文を締めたいと思う。

 1981年のアルバム"Fair Warning"に収録されている"Unchained"という曲だ。ザクザク刻まれる半音下げからさらにドロップDにしたイントロのリフもクールだが、それ以上に歌が入ってからのバッキングが秀逸なので、耳をそばだてて聴いていただきたい。

 ハードロックなんてダサ〜い、イマドキそんなの聴けな〜いというナウなヤングたちには、The Bird and the Beeがむちゃんこシャレオツにカバーしたヴァージョンもあるから。元の曲が良くないとカバーは良くならないから。かしこ。


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