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【ドヤ街の歯科医師として】

『ドヤ街の歯医者』

4年間の解剖学教室での大学院の間は研究をメインで行い、歯医者のアルバイトを週に2日ほどやるというもので、世間一般から見た歯医者とはかけ離れた生活を送っていた。

 そんな中、先輩に紹介してもらった歯医者としてのアルバイト先が自分の中での価値観を変えるほど、大きなものとなる。

 そのアルバイト先は、日本三大ドヤ街である山谷の中心にある歯科医院であった。

 ドヤ街とは、「寄せ場」とも言い、簡単に言うと日雇い労働者が集中して集まっている場所のことであるが、当時無知な自分は『ドヤ街』という単語すら知らなかった。

 アルバイト初日の午前9時、日比谷線の南千住駅で先輩と待ち合わせして、歯科医院に向かった。駅から向かう最中、衝撃的な光景を目の当たりにする。

 ワンカップ片手に路上に座り酒盛りをする人々、朝からやっているカラオケスナックで騒ぐ人々、路上で寝てる酔っ払い。目にする光景が、当時の僕にはかなり衝撃的だったことを思い出す。

 アルバイト先の歯医者はまさに、そんな地域の中心にあった。もともと日雇い労働者の街である山谷には、その方々が宿泊するための『簡易宿泊所』と呼ばれる、旅館が多数ある。そこにみんな住みながら、日雇いの仕事をしたりしている。

 そんな地域の中心にある歯科医院だったので、必然的にそのような方々が診療に来る診療所ということは、言われなくてもすぐに分かった。

歯科医院はおよそ30年前にできた歯科医院であった。タイムスリップしたように、治療の椅子も含めすべてが昔のものであった。

 この場所で、果たして働けるのだろうか。

 初日からそう思ったわけであるが、結果としてそこでは7年働かせていただくことになり、そこでの様々な患者さんとの出会いが、今の自分の価値観にも大きな影響を与えることとなる。



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