見出し画像

【解剖学の大学院に行った歯科医師】

 歯科医師国家試験に合格し、歯科医師となった僕は、開業医の勤務でもなく、臨床の研修医でもなく、臨床の大学院でもなく、解剖学の大学院生となった。

 もともと、顎の骨の再生の研究テーマがやりたくて、尊敬する師匠のいる解剖学の大学院にいったのだが、解剖学の教室ということで、自分の研究以外では、学生の解剖学実習の手伝いなど、様々な解剖の勉強もさせてもらった。

 学生の解剖学実習の時期になると、解剖学実習の準備のため、ご遺体を大学の地下にあるホルマリンプールから取り出し、きれいに清拭し解剖台に並べる作業も行った。ご献体してくださった方々の遺志を大事にし、緊張感をもって毎回やっていたのを思い出す。

 そもそも、大学の解剖学実習というのはご献体下さった方々がいなければできない。その方々は自分が亡くなる前に、自分の身体を我々医療者のために献体することを表明し、自分の身体を差し出してくれるのである。自分にはこの覚悟が想像できない。

 解剖の教室の標本室には、入れ墨の入った背中の全体の皮膚の標本もあった。それを見る度、人間がどのように最期を覚悟して、人類永遠の課題である、死に対してむきあうのか、そんなことを考えながら4年間の大学院生活がスタートした。

 

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?