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解剖学教室での出来事②

 大学を6年で卒業し歯科医師免許を取得したあと、前述の通り大学院へ進学した。大学院では解剖学教室に行ったので、解剖のみならず、組織学ということも4年間かけ研究をした。

ひたすら標本を切り暗室に籠る毎日

 組織学はまさに細胞をひたすら見るというもので、実験で得た標本を1ヶ月~1ヶ月半かけて樹脂に包埋し作り、重合させ、ダイアモンドナイフで100ミクロンくらいに切り出し、顕微鏡(ときには電子顕微鏡)で観察、アナログのカメラで撮影し、更には暗室にこもりそれを現像するという、当時は全てがアナログの世界であった。

 途中のどれか一つでも失敗すると、全てが台無しになる。今でこそ、デジタルカメラで何枚も撮れるが、僕の大学院当時は超アナログであり、最後の写真現像で露光して失敗すると、初めからやり直しという、地獄のような繰り返しであった。ときには、撮影でフィルムが回っておらず、なにも撮影されてないフィルムを現像屋さんにもっていき、できた写真をみて愕然としたこともある。

機嫌に左右される電子顕微鏡

 中でも、アナログの極地であったのが電子顕微鏡であった。1970年くらいの日立製作所のものだったと記憶している。
 電子顕微鏡撮影は標本作りが大変に難しく通常の顕微鏡で見る切片とは薄さのオーダーが違い、100万円近くするダイアモンドナイフで超薄切片を切る。

 呼吸で切り出し片が飛んでしまうので、マスクを着けて切り出す。しかも、電子顕微鏡で見たい部位をすぐに切り出せるわけでないのでとても難しい。世界地図の中から、自分の家を探すような作業になる。



 ある程度メドがつくと、ウラン鉛染色をして、ここからがさらなる地獄で、超アナログの宇宙船の操縦室のような電子顕微鏡で撮影をするのであるが、これがまたその日の気温、湿度に左右され、日によっては撮影が難しくなる。暗闇でパネルをいじりながら撮影を12時間くらいする。

 撮影はとても高度で僕一人では到底無理で、教授に1日かかりで撮影してもらった。

アナログの美学

 アナログカメラで一瞬の出来事を撮影していた昔のカメラマンは本当にすごい。
 なんでもない1枚の写真を撮影するのに、想像を絶するとてつもない努力をしている。

 昨今のデジタル化はまさに人類の進化の結果であるが、昔の経験で得たアナログの美学を大事にして、デジタル化の波にも乗り遅れず楽しみたい。

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