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描くこと、共創すること、余白を残すこと

クリエイティビティって、なんだろう?
創造性って、なんだろうか?

色鮮やかに堂々と、巷にはこの言葉が溢れかえっている。しかし、それを雲のように実態が掴めずふわふわと感じるのは、私だけだろうか。

本書では、社会問題の解決に必要不可欠とされるこのクリエイティビティや創造性という正体を、「描く」ことと「共創」することの2つの側面から紐解いてみたいと思う。

はじめに

本書は、「武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第一回(5/18)  三澤直加さん」の講義レポートである。

武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダシップコースとは、創造的問題解決に向き合う、日本ではまだ数少ないデザインスクールに分類される。

そして、この大学院の中で必修の科目としてあるのが、本書の「クリエイティブリーダシップ特論」である。毎回オムニバスで、クリエイティブとビジネスを活用して実際に活躍されているゲスト講師を囲み、その持論を浴びることで、思想、活動、スキルの多様性を理解することを目的としている。

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この全14回の講義を、まるで旅のように感じている。14人との出会いを通じて創造性の本質を見つける旅。解釈の拡散と収束をカメラのピントを合わせるように繰り返しながら、一人ひとりの"たとえば"という多様な持論に触れ、"つまり"という本質に向けて焦点を絞ることで、創造性の本質に辿り着けたらと思う。

また、本書はあくまで講義のレポート(エッセイ)であるが、創造的思考やデザイン思考など、社会課題を解決すべく日々奮闘している方に向けて知の共有ができればと考えている。私のこの出力が、誰かの気付きになれば嬉しい。

これからを 描き つくる仕事

第一回目のゲストは、株式会社グラグリッドの代表である三澤直加さん。ビジュアルシンキングを強みとしたサービスデザインによって、体験や社会の仕組みを新しい価値に刷新している。

金沢美術工芸大学でプロダクトのデザインを学び、キャリアを通じ「プロダクトデザインだけでは社会の課題になかなか近ずくことができない」という葛藤から、社会を滑らかにするために共創のものづくりが出来ないだろうか、という想いのもと起業。

「これからを 描き つくる仕事」という言葉を掲げ、そのために、未来を描き、状況を可視化し、意思を引き出すようなデザインアプローチを実践している。

「描く」ことと「共創」すること。この2つの言葉が、未来に向けた現在地の創造性を紐解く上で、重要な手掛かりになってくると考え、深く掘り下げていきたいと思う。

なぜ、描くのか、共創するのか

では、そもそもなぜ「描く」のか、「共創」するのか。会社のビジョンにも通じる三澤さんの見解は以下である。

「"共存できるサスティナブルな社会のあり方"を常に考えています。その時だけの改善ではその時で終わるし、一人の力に依存した解決は続くことはありません。」
「一人ひとりが活きいきと未来を創造し、仕組みを生み出すことができる社会へ向けて、カチカチなもの(閉塞感・壁)を、ふわふわに柔らかいもの(有機的で活動的)にしたい。柔軟性を持って豊かな社会を作っていきたい、そう考えています。」

打ち上げ花火のような刹那的なものでも、スーパーマンのように誰か一人による活躍でもない。未来に続いていく私たちの社会をつくるためには、有機的で活動的に、私たち自身がつくることで本質的に社会に馴染むものになる。そのために「描く」ことと「共創」することが、手段として必要。自分たちが暮らす社会は自分たちでつくる、明確に本質的なものであると捉えている。

描く、共創するとは、何なのか

それでは、「描く」ことと「共創」することとは何か。ここがデザインアプローチへの変換になる。
株式会社グラグリッドは、社会課題に向き合う上で「描く」ことと「共創」することを、ビジュアルシンキングやファシリテーションという専門性を持って社会と接続している。

ビジュアルシンキング

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photo by:https://glagrid.jp/about

まず、ビジュアルシンキング。これは、「描きながら考える」という動的な意味で捉えている。考えたことを描写するのではなく、分からないまま描いていたらなんか分かってきた、という過程と結果の関係性である。

ビジュアルで考え、ビジュアルで会話する力

複雑なもの、煩雑なものを理解しやすくするために、コミュニケーションの中心に「絵」を用いて可視化します。絵を描くことは、考える解像度を高め、考え方を成熟させ、アイデアの質を高めることに直結します。先の見えない状況の中で歩み、模索し、行動へつなげるための「未来の地図」になるはずです。

私たちは、グラフィックレコーディング、ビジュアルファシリテーション、ビジュアルスケッチを効果的に活用することで、会議やイベントを創造的に変革します。

出典:https://glagrid.jp/about


ファシリテーション

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photo by:https://glagrid.jp/about

続いて、ファシリテーション。これは、単なる「進行」という意味ではなく、共創の場において、どうやったら一緒に考えていけるのだろう、という考え方そのものを広く捉えて設計する力である。

考え方をデザインする力

考える力を最大限に活性化させるファシリテーションの技術を活用し、考えるプロセスを大きく変革します。「議論しやすい環境」、「考えやすい問いの設定」、「考えたことを再考するフレーミング」を効果的に組み合わせ、参加者の気持ちに寄り添い、導きながらワークショップを設計・実行 します。

出典:https://glagrid.jp/about

どのようにして、描くのか、共創するのか

それでは、ビジュアルシンキングとファシリテーションの実際の事例を通して、具体的にどのようにして「描く」のか、「共創」するのかを紐解いてみたい。

1. 固定概念の解放による、解釈の変化と創造性の拡張

まずは、ビジュアルシンキングの事例。
小学校の"思考力と判断力を養う教育が出来ていない"という課題に対する解決策として、「グラフィックレコーディング」を活用し、ノートは綺麗に書き写すもの、という固定概念から解放した。その結果、主体性と創造性が劇的に変化した事例である。

特筆すべきは、「解釈」の持ち方次第で、創造性が劇的に変化するということ。グラフィックレコーディングは固定概念を解放することでノートの解釈を再定義し、そこに遊びを持たせたことで創造性を飛躍的に引き上げた。「理解」と「解釈」をつなげる時、自分なりに自由に遊び心を持って解釈することは創造性における一つの要点になってくる。正解は一つではない。

2. 自分たちに深く潜ること、そこに答えがある

続いて、ファシリテーションの事例。
福島県郡山市の地域の課題として、もっと自分たちの地域を発信したいものの、特に何も資源がない、と思い込んでしまう課題があった。解決策として、市役所職員、観光協会、地域の権力者、地元企業、大学生、など地域の関係者と一緒になって共創ワークショップを実施した。

個人的な思い出やエピソードを共有し、そこに皆んなで思いを馳せる。面白そうという感覚を紐解くために、魅力の再発見をしに現地現物に行く。より具体的な体験をつくるために、カスタマージャニーを作ったりと、一緒になって体験を考えていく場を設計する。

結果として、自分たちで名所を見つけ出し、ブランディングして発信できるようになった。

共創と良いデザインの関係性

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ただ一つ気をつけなければならない点がある。それは、「共創」という文句の付けようがない言葉を前にして、悪い意味で自分たちを納得させてしまうことだ。

良い社会をつくることが目的であるにもかかわらず、手段であるはずの共創が目的にすり替わってしまう可能性だってある。

専門家がつくることに関与する際、共創の考え方として持っておくべきなのは、最後の仕上げ作業としての余白を残しておくということ。つまり、自らのアウトプットを意識的に未完成に留め、利用者と一緒になって最後の仕上げ作業を一緒に行うことで、社会に馴染むアウトプットにすること。

この余白における最後の仕上げは、傷をつけて、壊して、直すこと。ここをしっかり楽しむことが共創であり、社会に滑らかにフィットするためには必要な過程である。

さいごに

これまでは、思考の際なるべく構造的に物事を捉えようとしていたが、これからは描きながら考えを前に進めていこうと思う。PCの隣に紙とペンを揃えて。

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