奇想天外な体験をしてみては?HBOドラマ『ラヴクラフト・カントリー恐怖の旅路』
【海外ドラマファンのためのマガジン第104回】
怪奇ホラー小説とアメリカの黒人差別の歴史を組み合わせる。
一体、どんな作品に仕上がるのでしょうか?
鑑賞する前は、まったく想像がつきませんでした。
『アンダーグラウンド』のミシャ・グリーンがショーランナーを務めて、映画『アス』のジョーダン・ピールと、ドラマ界の大御所J・J・エイブラムスがプロデュースすれば、こんな奇想天外なドラマが制作できてしまうのです。
HBOの怪奇スリラー『ラヴクラフト・カントリー恐怖の旅路』には、原案となった小説があります。2016年に出版されたマット・ラフのSF小説『ラブクラフトカントリー』が原作です。
朝鮮戦争からアメリカに帰還した主人公の黒人青年アティカス(ジョナサン・メジャース)が、行方不明になってしまった父親のモントローズ(マイケル・K・ウィリアムズ)を探しに、マサチューセッツ州アーダム(架空の町)にでかけます。
時は、1950年代。映画『グリーンブック』(2018)でも描かれていたジム・クロウ法と呼ばれる人種差別的な法律が存在した時代。
白人と同じレストランを使えず、バスも白人席と黒人席に別れていた時代では、故郷を抜け出して、旅行に行くのも黒人にとっては命がけでした。
叔父のジョージ(コートニー・B・ヴァンス)、友人のレティ(ジャニー・スモレット)とともに車で移動するアティカス一行は、白人の差別主義者たちの暴力の的になってしまいます。
彼らから逃れて、森の中に逃げ込んだ3人ですが、この森では化け物に襲われます。
この「化け物」というのが突如登場するので、かなり驚くのですが、モンスターにも原案が存在します。
原作のマット・ラフの小説のタイトルにある「ラヴクラフト」とは、H・P・ラヴクラフトという怪奇小説家のことで、彼が作り上げたオカルトな世界が、ドラマの中でも広がっていきます。
ラヴクラフトは、1937年に46歳で亡くなっていて、死後に作品の評価が高まった作家です。
かなりマニアックな世界を細部まで作り上げていて、彼が創造した神や怪物たちは、「クトゥルフ神話」として体系化され、スティーヴン・キングなどの作家たちに影響も与えています。
わたしは、ラヴクラフトという作家を存じ上げなかったのですが、知ろうとすればするほど、かなりやばい沼にハマってしまいそうで、ちょっと怖くて、これ以上詳しく調べるのをやめにしました。
ラヴクラフトの世界の一端を知るという意味でも、このドラマをとっかかりにするといいかもしれません。
ショーランナーのミシャ・グリーンは、黒人奴隷の開放運動を地下組織で行った地下鉄道を題材にしたドラマ『アンダーグラウンド』(2016-2017)を制作しています。
地下鉄道(アンダーグラウンドレイルロード)は、19世紀に実際に存在した組織で、黒人奴隷の実態を知るためにもぜひチェックしておきたい歴史的事実です。
地下鉄道の車掌として多くの黒人奴隷を自由にしたハリエット・タブマンを主人公にした映画『ハリエット』(2019)や、バリー・ジェンキンスのドラマ『地下鉄道』(2021)は、Amazon Prime Videoで鑑賞できるのでおすすめします。
黒人差別の歴史と、ラヴクラフトのモンスターと魔術のオカルト要素が融合したドラマ『ラヴクラフト・カントリー恐怖の旅路』は、かなり奇想天外なドラマでした。
映像的には、Starzの『アメリカン・ゴッズ』(2017-2021)に近い雰囲気を感じます。
J・J・エイブラムスお得意の時空の移動や、ジョーダン・ピールの映画『アス』(2019)に登場した笑顔の怖い女の子も登場するので、ものすごく盛りだくさんの要素を一気に楽しめるドラマになっています。
シーズン2に更新が決定していたのですが、コロナ過で制作がキャンセルされてしまいました。
第73回エミー賞 【ドラマ部門】18ノミネート
【ノミネート主要部門】
作品賞
主演男優賞 ジョナサン・メジャース(アティカス・フリーマン役)
主演女優賞 ジャーニー・スモレット (レティーシャ・ルイス役)
助演男優賞 マイケル・ケネス・ウィリアムズ(モントローズ・フリーマン役)
助演女優賞 アーンジャニュー・エリス(ヒッポライタ・フリーマン役)
ゲスト男優賞 コートニー・B・ヴァンス(ジョージ・フリーマン役)
脚本賞 第1話「サンダウン」ミシャ・グリーン
次回は、Netflixオリジナルドラマ『ブリジャートン家』をご紹介します。
【エミー賞ー作品賞コンプリート紹介を実施中。#4】
ザ・クラウン
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