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時間の花が咲く音楽が聞こえてきた

何かよくわからないけど、やたらと同じような内容の話が目や耳に入ってくることはないだろうか? 私はある。何かわからんけど、全然関係ない知人や友人が同じようなことを言う時がある。

20代の頃、まったく現代美術に興味がなかったのに行く場所行く場所、会う人会う人から「今○○でやってるこのイベントに行ってみて!」と言われ、テレビとか雑誌ではなく直接出会ったミニマムな関係性からの情報だったので行ってみたらすごく面白い出会いが会った。そんな感じで、全然違う人や違う場所から同じような話を聞いたら、それを試してみることを信条にしてる。それがまた最近やってきた。違う場所で、違う人が同じことを言うのを、何故かひたすら聞く。

それは

「自分の夢や理想が叶うこと、思った通りになることが、本当の幸せな訳ではない」

ということ。

みんなそこを目指す。もちろん私もそうだった。自分の夢を叶えたら幸せになる。こういう世界に生きられたら私は幸せ。思った通り、願っていた通りになったらどんなに幸せなんだろう?

耳にする話は続く。年収○○○万円になったら幸せ。Instagramのフォロワー数が何人!とか、そういう偽物の幸せにほとんどの人が騙されている。世間一般的に成功者と言われている人で本当の幸せをつかんでいる人は実は少ない。夢が叶ったり大金持ちになったりすると、確かに最初はドーパミンが出て幸せを感じるけれど、それほんの一瞬。そこからは失う恐怖や不安、もっともっとを望む欲望、燃え尽き症候群のような鬱状態や虚無感に襲われる人が多い。例えばアメリカのNBAプロバスケット選手の7割が、選手時代に生まれ変わっても使い切れないくらいの資産に恵まれても、選手引退後に自己破産しているというデータもある。宝くじに当たった人も、ほとんどが自己破産している。それだけ多くの人が、本当の幸せを見失っている。

↑そんなことをまったく違う場所で、まったく違う人が話しているのを聞いた。すごく不思議だった。世界の秘密みたいなものを誰かが私に教えてくれているのだろうか?と思った。


そんな話を立て続けに聞いて間もなく、私は兵庫県の高砂にある不思議なスペースTentofuで行われた「モモを読むかい?」というイベントに参加した。「モモを読むかい?」は、同じ時間、同じスペースで集まった限定人数の数名でミヒャエル・エンデの「モモ」を読んで一日過ごし、夜の19時30分から読んだ感想をシェアするという会。

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Tentofuは通常、予約制でそれぞれ勝手に好きなスペースで好きに本を読むという場なのだけど、この日は初の試みで参加者全員で自己紹介をした。そのあとは自分の好きなスペースでひたすら「モモ」を読む。出入りは自由。昼食と夕食は出る。自分で淹れるコーヒー飲み放題。かっぱえびせん食べ放題。ハーゲンダッツのアイスクリームか、ハートランドビールか、ジュースはおひとつサービス。そんな不思議な「モモを読むかい?」。

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ちなみにエンデの「モモ」はすごく好きなので、このnoteにも書いています。みんな内容を知っている前提みたいに書いていますが、気になった方はぜひご自身で「モモ」を読んでみてください。

この日は朝の11時から夜の19時までひたすら「モモ」と向き合った。店主の衣笠さんがシェアする時に気になった時に本を開けるように…と言いながら渡してくださった付箋をページに貼り、さらに本に書き込みまでしてしまった。受験勉強みたいに集中している。モモが灰色の男たちから逃れ時間の国へいる場面では、気分を変えて天井裏の読書スペースに座って読み、時間の国から帰った後はまた自分のスペースに戻って読んで、より臨場感を楽しんだりした。

「モモ」を読む際、私がいつも気になるのは灰色の男たちの存在で、物語の中の架空の登場人物だけど、私はこの世界にも目に見えないけど居るような気がしてならないのだ。

今回私が気になった箇所は、岩波書店出版の「モモ」の

*P126の8行目

「人生でだいじなことはひとつしかない。」と男はつづけました。「それはなにかに成功すること、ひとかどのものになること、たくさんのものを手に入れることだ。ほかの人より成功し、えらくなり、金持ちになった人間には、そのほかのものーーー友情だの、愛だの、名誉だの、そんなものはなにもかも、ひとりでに集まってくるものだ。きみはさっき、友だちが好きだと言ったね。ひとつそのことを冷静に考えてみようじゃないか」

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*P276の4行目

「これできみにもわかっただろうーーーぼくがどんなになってしまったか。」自嘲するように彼はちょっと笑い声を立てました。「もどりたくても、もうもどれない。ぼくはもうおしまいだ。おぼえているかい、<ジジはいつまでもジジだ!>、ぼくはそう言ってたね。でもジジはジジじゃなくなっちゃったんだ。モモ、ひとつだけきみに言っておくけどね、人生でいちばん危険なことは、かなえられるはずのない夢が、かなえられてしまうことなんだよ。いずれにせよ、ぼくのような場合はそうなんだ。ぼくにはもう夢が残っていない。きみたちはみんなのところに帰っても、もう夢は取りとり返せないだろうよ。もうすっかりうんざりしちゃったんだ。」

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P321の12行目からP322の6行め

「はじめのうちは気のつかないていどだが、ある日きゅうに、なにもする気がなくなってしまう。なにについても関心が持てなくなり、なにをしてもおもしろくない。だがこの無気力はそのうちに消えるどころか、すこしずつはげしくなってゆく。日ごとに、週をかさねるごとに、ひどくなるものだ。気分はますますゆううつになり、心の中はますますからっぽになり、じぶんにたいしても、世の中にたいしても、不満がつのってくる。そのうちにこういう感情さえなくなって、およそなにも感じなくなってしまう。なにもかも灰色で、どうでもよくなり、世の中はすっかりとおのいてしまって、じぶんとはなにもかかわりもないと思えてくる。怒ることもなければ、感激することもなく、よろこぶことも悲しむこともできなくなり、笑うことも泣くこともわすれてしまう。そうなると心の中はひえきって、もう人も物もいっさい愛することができない。ここまでくると、もう病気はなおる見こみがない。あとにはもどることはできないのだよ。うつろな灰色の顔をしてせかせか動きまわるばかりで、灰色の男とそっくりになってしまう。そうだよ。こうなったらもう灰色の男そのものだよ。この病気の名前はね、窒死的退屈症というのだ。」

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灰色の男たちの末路は虚無だなと思った。虚無と言えば、エンデの「はてしない物語」でも重要なキーワードになるのだけど、それはまた別のお話し。


しかし灰色の男たちはとても巧妙に私たちの中に入り込んでくる。特に

”「人生でだいじなことはひとつしかない。」と男はつづけました。「それはなにかに成功すること、ひとかどのものになること、たくさんのものを手に入れることだ。ほかの人より成功し、えらくなり、金持ちになった人間には、そのほかのものーーー友情だの、愛だの、名誉だの、そんなものはなにもかも、ひとりでに集まってくるものだ。”と書かれていたように、私たちは知らず知らずの内に、こういう価値観を植え付けられている。その価値観はいったい全体誰が作ったものかはわからないけど、知らず知らずのうちに多くの人がその価値観を持っている。

でも、それは本当に人生で大事なこと?


先に書いた「自分の夢や理想が叶うこと、思った通りになることが、本当の幸せな訳ではない」という情報の中で、こんなエピソードを話す方がいた。

”イチローがインタビューで語っていた言葉の中に「ヒットを打ってる時以外は吐き気がしている」というのがあった。イチローが言うととても恰好いいけど、よく考えて。ヒット打ってる時以外は吐き気してるって幸せ?”

成功と幸せと苦しみはセットという考え方が変なんじゃないか?という問いなのだけど、誰から見ても成功していると思う人が本当に幸せなのか? 他の誰でもない自分にとっての幸せは何なのかをもっと感じてほしいというメッセージでもある。

また「モモを読むかい?」の参加者のひとりが、灰色の男たちの正体は退屈だと思う。退屈を感じた時にあいつら近寄ってきてた!とシェアしていた。そういう心の隙間に灰色の男たちはやってくるのかな。


灰色の男たちがやってこないようにするにはどうしたらいいのだろう?


その答えはきっとひとりひとり違うから、自分にしか見つけることができないけど、実はすごく些細なことなんじゃないかと思うし、すごく近くにありすぎてわからないのかも知れない。

ただ、何となく思ったのは、私はとても調子に乗りやすいし、それこそ灰色の男たちが仕掛けた成功や幸せの価値観にすっかり騙されていたクチなので、今まで世に言う成功を掴むことができなくてよかったなと思った。勘違いしまくっていた時期もあったし、大事なものがわからない時期が長らくあったけど、取り返しがつかなくなるような遠いところまでいかずに居られたのは、むしろ神様に守られていたからこそなんじゃないかなと思う。

思い通りにいかないことや、理想の自分と現実の自分のギャップに苦しんだことも多かったけど、もう苦しむ必要もないし、我慢したり苦しむことをやめても幸せでいられる。どうしたら自分の時間の花が咲くのか、それを追求するだけでいいのかもしれない。


ここまで書いた後、たまたま見た武田双雲さんのYouTubeで、武田双雲さんが暇つぶしに感謝してる。人間は退屈に耐えられない。だから、その時間を使って、ひとつひとつを丁寧に行う幸せの修行をしてるとおっしゃっているのを聴いた。


そういうことが、きっと色彩あふれる世界に生きるコツ。

生きた時間を豊かに過ごし、時間の花を咲かせる秘訣。

何でか突然私に集まってきた世界の秘密。

私だけにしまっておくにはもったいないので書いてみました。

たくさんの人に届かなくても、どこかの誰かがこの文章を読んで、時間の花が咲いたら嬉しい。

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