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サバイバーの視点から、トラウマセンシティブマインドフルネスの重要性

本日は、女性のDV支援、加害者の更生のサポートを行っている、Dさんに、トラウマセンシティブ・マインドフルネスについてお話をお伺いしました。

インタビュアー:宮本賢也

Dさんは、暴力被害のサバイバーとして、自らでトラウマを体験されながら、DV被害者や加害男性の更生の支援業務に関わる中で、耐性の窓の考え方を理解することや、その窓に戻るためのツールを提供することの重要性を感じておられます。

カウンセリングやドメスティックバイレオンスにおける、マインドフルネスの可能性

―――本日はよろしくお願いいたします。現在はどのような活動に参加され、そのなかで、マインドフルネスやトラウマについて、どのように捉えられていますか。

普段は、大学などでのカウンセリング業務や、ドメスティックバイオレンス(DV)被害を受けている女性の支援、加害者男性の更生プログラム支援なども行っています。もともとは婦人相談員として、日常生活に悩みを抱える女性のサポートを行っていたのですが、そこに来る多くの女性がDVを受けている事が多く、徐々にそちらの方の支援を行うようになりました。そのような経緯もあり、大学で学び直し、いまは臨床心理士としてそれらの支援業務にあたっています。

―――加害男性の更生支援とはどのような業務なのでしょうか。

加害男性は、本人に虐待された経験がありその経験が根底にあってDVを行う原因が多く見られます。場合によっては本人自身が虐待を受けていたことを認識していないケースもあります。そのような人たちによく見られるのは、自分の体の感覚が感じられず、自分の感情を認識するのが上手にできないことです。
そのような人たちにマインドフルネスはサポートになると考えています。

―――どのような点でサポートになると思われますか。

普通、私たちは、怒りや悲しみを身体感覚として感じます。怒っていると胸のあたりがキュとしたり、頭が熱くなったりといった具合です。しかし、その人たちは、身体感覚が感じられないため、自分自身の感情に気が付きづらいのです。そのため、怒りや悲しみがあることを知覚できず、知らないうちに感情に飲まれて相手に暴力を奮ってしまう、ということが起きています。

私は、これまで、主に認知行動療法をベースにしたプログラムを支援に用いてきました。それは、思考や感情を感じるように促すものなのですが、これでは十分で無いことがあります。認知レベルでわかっても、体がそれについて来ないということが起こるからです。

マインドフルネスは、身体感覚への関わりも大事にするので、加害者教育に織り込むと、効果があるように思います。

―――ご自身も暴力被害を受けられたサバイバーとのことです。

いまだにフラッシュバックがあり、その時は、凍りつくような感覚が起きます。こうなると自分の力ではコントロールが難しくなります。
加害者男性にも同じように、トラウマに起因する凍り付きが起きているのだと思います。耐性の窓の下側にでている状態です。
TSMを学ぶうちに、自分自身に起きていることも、支援の対象者に起きていることも、理論的にも理解ができました。

―――当事者自身もコントロールできない状態になっている可能性があるということですね。

はい、ただ気をつけないといけないことは、加害者の場合、そうとも限らないケースもあることです。DVは悪いことだ、とわかっているのにやることもあるでしょう。例えば、妻を自分の自由にして良いのだという認識がもともとある人もいて、それが影響しているケースもあるので、耐性の窓だけで説明できるわけではありません。トラウマがあることが、そういった暴力の言い訳になってはいけません。

耐性の窓の中にいる状態でないと、本人の意識が変わり得ないということも事実だと思いますし、同時に、過覚醒でも低覚醒でもとにかく暴力はいけない、ということは認識して貰う必要があります。

これまでのケースの中で、加害男性の話を聞くと妻からひどい言われ方をしたので暴力を振るった、というのに、妻側の話を聞くとどうもそうではないらしい、ということが度々ありました。

そこで起きていたのは、妻の言った言葉自体は大した言葉ではないのに、男性側はそれをバカにされた、と捉えて耐性の窓の外に出てしまっていたということです。その男性が、過去に親から過干渉されていたとか、そのようなことがトラウマとして残っていて、些細な一言が引き金になり、窓の外に出るということが起きたのだと解釈できます。

トラウマセンシティブ・マインドフルネスが、支援にどう生かされるか

―――TSMはマインドフルネスを伝える上でマインドフルネスに配慮する、ということがプログラムの意図です。支援の中でTSMの学びはどのようにサポートになっていますか。

私自身は瞑想を教えているわけではないのですが、支援の際に、サポートの一環として、心や体に働きかけることを行います。TSMの考え方はその中で生きています。

例えば、支援を求めてやってきた方に、呼吸法をやってもらうと、「自分の呼吸に意識を向けると具体が悪くなる」という方もいます。また、落ち着くための方法として自分の体に触れるという方法もあるのですが、特に暴力被害を受けた方などはそれを嫌がることもよくあります。普通の人であれば自分の体に触れることが落ち着くことでも、人によってはそうでない事があるのです。David先生の話すのを見て、これまで気づかずにやっていたことがあったのだと、振り返る機会になりました。

「耐性の窓」に戻る

―――狭義の「マインドフルネスを伝える」ということではなく、被支援者に寄り添い、そこにサポートとして働きかける、という一連のなかで、TSMの理解が助けになっているのですね。ご自身でもMBSRを受講されたことがあるとのことでしたが、どのような体験でしたか。

先生も素晴らしく、プログラム自体はとても良かったのですが、練習をしているうちに、解離することがありました。体が凍っているような感じで、何も感じられず、体と意識がばらばらになるようなことを体験しました。

そのような時に感情に目を向けると、覚醒度が上がったり、心拍数が上がったり、トラウマの記憶が引き金になって、被害を受けたときの風景とか、羞恥心などが蘇る体験をしました。David先生が話していたように、注意を向けているつもりがないのに、そちらに惹きつけられてしまうのです。そして、それを防ぐことができず、窓の外に出てしまのです。

その時、窓に戻る、という考え方があれば、そのこと自体がサポートになると、自らの体験で実感しています。

―――具体的に、どのようなことが、窓に戻る助けになりますか。

私の場合は、何かを食べたり、自然に触れたりすることがその助けになることがあります。
他者との関わりもサポートになることがあるのですが、人間はその時々で変化するものなので、その点、自然はいつも安定していると感じられます。

―――TSMの中でもリソースという考え方が出てきました。自分を安定させる物を持っておくとサポートになりますね。

私の場合は、趣味の楽器を弾くことも窓に留まるサポートになります
また、その時の体や神経の疲れ具合も影響するように思います。例えば、私は暴力被害を受けたことに関連して、とある人から心無いことを言われ傷つく、二次被害を経験しました。これに類することは今でもおきます。これも、元気な時は大丈夫なのですが、疲れている時は、ダメージや恐怖心が起き、パニック状態になることもあります。なので、心身を整えておくことは普段から大事なことです。

―――TSMでは、窓の外に出た時に早く戻ることや、窓の幅を広げて外に出づらくなる、といった考え方が出てきます。そして、窓の中にいてこそ、理性的な判断も可能になるということなのだと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました。


トラウマセンシティブ・マインドフルネス・ジャパンの活動

マインドフルネスは様々な領域で注目を集めています。これまで以上にさまざまな場面での活用が進んでいる中で、「トラウマセンシティブ・マインドフルネス」の視点は世界的に共通認識へとなりつつあり、マインドフルネス、瞑想、ヨーガの指導者として配慮が必要なものとされてきています。

しかし、日本ではまだトラウマセンシティブ・マインドフルネスに関する情報は少なく、十分に理解されているとは言い難い状況にあります。出版物に掲載されている瞑想ガイドやオンライン上で入手可能な動画・音声などについても、トラウマセンシティブな視点が考慮される前のものが多く含まれており、実際に安全に用いたり、ガイドを行う上では、その視点に配慮をした上で行うことが望まれます。

私たちの願いは、マインドフルネスが、安全な形で日々の生活をサポートする方法として必要な人々に届くことです。そのために、トラウマセンシティブ・マインドフルネスについて学び、多くの方に知っていただく活動を続けています。

皆さんの周囲にこのトピックに関心がある方がいらっしゃいましたら、本をご紹介いただいたり、勉強会の情報をお知らせいただけると幸いです。

より深く学んでみたい方

みんなと考えたいシリーズ、今回は教育に導入する際に配慮したいこと。

マインドフルネスやヨーガ、瞑想を伝える方に知っておいてほしいこと。 トラウマセンシティブ・マインドフルネス13ヶ月集中コース

David氏やゲスト講師の動画講義を見ながら、グループで学ぶ13ヶ月のコースです。

書籍
トラウマセンシティブ・マインドフルネスの基礎がわかる1冊です。


最後までご覧いただきありがとうございます。一緒にマインドフルネスを深めていきましょう。お気軽にご連絡下さい!