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マインドフルネスは等身大であることを教えてくれた

MBSR講師養成受講者で、臨床心理士/公認心理師、ヨーガ療法士の茂貫尚子さんにお話をお伺いしました。茂貫さんは、講師養成講座で講師を務められるAmir先生のMBSR8週間コースやRene先生のセッションなどで通訳も務めて頂いています。

インタビュアー:宮本賢也

臨床心理士、公認心理師、ヨーガ療法士として


インタビュアー:
現在のお仕事や、ヨーガ、マインドフルネスを学び始めた経緯についてお伺いできますか。

茂貫さん:
臨床心理士、公認心理師、ヨーガ療法士として、心身相関のセラピストとして活動しています。言葉と体の両方を入口に心身へアプローチしています。クライアントは治療が必要なレベルから、健康促進を目的とする方まで様々です。

心理士としては、大学病院の心療内科で、ヨーガと臨床心理を組み合わせて、慢性疼痛や線維筋痛症の患者さんのケアをしたり、幼少期に虐待を受けてトラウマを抱えた方への心理面接や感情や体感を回復するためにヨーガを教えたりしています。また、婦人保護施設での支援業務、行政機関で若年者の発達障害に関する相談業務などにも携わっています。

異文化での生活で高じた心や体への関心

インタビュアー:
そこに至るにはどのような経緯があったのでしょうか。

茂貫さん:
中学の頃、父の転勤でアメリカのアリゾナ州に引っ越しました。最初は言葉や文化の違いにも苦労をし、その時に、人とつながることができるというのはとても大事なことだと感じました。その中でも、人とのつながりを助けてくれたのがスポーツでした。スポーツを通じて、言葉や文化の違う同級生たちとコミュニケーションをとることが出来たのです。

また、その頃現地で見たテレビ番組で、少年院の特集をしたものがありました。そこには家庭内の虐待の問題があったり、また少年院でスポーツを更生プログラムに活用したりと言ったこともなされていました。そういった経験を通じて、心や体の問題ということには、ずっと関心を持っていました。

その後、日本の大学に進学し、マスコミュニケーションを専攻しました。就職をする際には、マス(不特定多数の人々)に向けた仕事より、より一対一でやる仕事が良いと思い、スポーツ選手のマネジメントやイベントマーケティングを行う会社に勤務しました。

スポーツマネジメントからウェルネス、そして心理の世界へ

インタビュアー:
そのお仕事は如何だったのでしょうか。

茂貫さん:
スポーツ選手や上司、同僚もとてもいい人が多くて、充実した職場でした。
印象深かったのは、一緒に仕事をさせていただいたスポーツ選手達の生きる姿でした。アスリートとしての実績を残しているからというよりも、自分の人生を生ききっているという姿勢に感銘を受けました。同僚たちも、本当にスポーツが好きでその仕事をしているという人たちばかりでした。一方で、自分はそれと同じくらいのことが出来ているのか、このままではいけないのではないかと自問するようになりました。

また、入社して半年くらいしたある時、顔面神経麻痺を発症しました。今思えば、頑張りすぎていて無理をしていたのだと思います。自分自身は大変だけど充実していたと思っていたし、周りからみても楽しんで仕事をしているように見えたと思うのですが、等身大でなかったかのかなと。

そういうこともあって、本当に自分のしたいことはなんだろうと考えた時に、それが心や体のメンテナンス、ウェルネスという分野で仕事をすることでした。その頃、シーカヤックをするために、住んでいた東京から国内の様々なところを訪れるたびに、日本の自然の美しさに触れ、人生を豊かに生きるために、より自然に近いところに住みたいと思うようになりました。

そうしているうちに、長崎のハウステンボスと縁があり、そこで働き始め、その後、ハウステンボスに開かれた滞在型ウェルネス施設のマネジメントに関わることになりました。

インタビュアー:
そこから心理の道へ進まれたのはどのような経緯だったのでしょうか。

茂貫さん:
そこに来るお客さまと接しているうちに、本当の幸せというのは心の問題を抜きにしては語れないということを実感しました。それで、本格的に臨床心理を学ぶため、大学院に通い始め、卒業後、心理士として働き始めました。

ヨーガとマインドフルネス、MBSRの相乗効果

インタビュアー:
そういう中で、マインドフルネス、MBSRというものとどのように出会われたのでしょうか。またヨーガや心理士として学び実践してきたことの中で、それらはどう位置付けられているのでしょうか。

茂貫さん:
ヨーガというのは、身体的なものだと思われがちなのですが、気づきを扱うものです。その意味で、マインドフルネスと共通するところが大きいと思います。一方で、ヨーガについては様々なイメージをお持ちの方がいらっしゃって、必ずしも臨床の現場で全ての人に理解されていないところもあります。その点で、マインドフルネスは心理学の中でも扱われるトピックですし、医療の世界ではより多くの方に理解されやすいものだと思います。いま勤務している大学病院の心療内科でもマインドフルネスが実際に取り入れられています。

インタビュアー:
ご自身でMBSR8週間を受けられたときはどのようなことを感じましたか。

茂貫さん:
8週間プログラムが段階的に構成されていて、わかりやすいというのが最初の印象です。日常生活の中で活かせるように、プログラムされていると感じました。日常生活の中で、食べる、歩くといったことを意識的に行い、気づきが生じやすいと思います。

瞑想にしても、気づきによって、自らのもつ調整機能が自動的に働いてくるようになるという感じです。たとえば、座る瞑想をしていて首のあたりに違和感があると言った場合、ストレッチするのもよいのですが、ただそこに目を向けて見ると、緊張している状態に気づいて、体が内側から整ってくるというような感覚です。

今では、ヨーガの前にボディスキャン瞑想をやることでヨーガの練習でより気づきやすくなるなど、マインドフルネスとヨーガの相乗効果も感じています。

臨床の現場では、心と身体が切り離されているという患者さんがいらっしゃいます。たとえば痛みを感じる場合、そこから意識を遠ざけようする。マインドフルネスは、その痛みのある体とも繋がりましょう、という考え方で、痛い痛くない、良い悪いを超えて、体と関わる新しい方法だと思います。このような考え方は二極の対立の平等観といって、もともとヨガにもあるのですが、それがより伝わりやすいようにプログラムされているように思います。

マインドフルネス、MBSRを通じて感じた、等身大であることの大切さ

インタビュアー:
8週間コースでは毎日の練習も求められて、それなりに大変なプログラムですが、いかがでしたか。

茂貫さん:
そういった練習を通じて、完璧でなくても良い、という姿勢も学びました。それまでは、身の回りの支度を整えてからこそ練習ができる、という思いがあったのですが、MBSRを通じて、その時々の条件下で可能なことをやればよいということに気がつきました。それは条件が整っていなければ幸せになれないのではなく、どんな状況でも一呼吸するとかやれることはある、ということにつながっています。Amir先生がおっしゃっていたように、「ただ一呼吸をするだけでも良い、可能ならもう一呼吸すれば良い」というような言葉も助けになっています。8週間コースを受ける前は、「人生は充実させないといけない」という思いがあったのですが、それもまた執着になりうるこだわりなのだと気がつきました。

インタビュアー:
そうして講師養成講座に進まれ、いまモジュール1が終わり、モジュール2にむけて個人での実践やグループでのディスカッションなどを行っていただいていますが、ここまでの所どのように感じていますか。

茂貫さん:
受講者の皆さんから、学びたいという気持ちが強く伝わってきます。一緒に考えて、一緒に学んでいるということを強く感じています。事務局が、受講者みんなで会う機会をアレンジしてくれたり、オンライン上でコミュニケーションをとる仕組みを準備してくれたりとか言うことも助けになっています。さまざまなバックグランドをもつ人が、志と情熱をもって集まっているという意味で、本当にいいつながりだなと思っています。

インタビュアー:
いまはボディスキャンの練習が大きなテーマの一つですね。

茂貫さん:
これも一人ひとりのキャラクターがでますね。結局は、その人が心を込めてやるやり方が大切なのではないかと感じます。こういうスクリプトや教え方がいいよとか、ということではないのかなと。ガイド一つとってもその人のあり方がでるように思います。多分他の人がつくったスクリプトを私が読んでも上手く行かなくて、その人から素直に出てくる言葉でガイドをすることが大事だと思います。またインクワイアリー(※8週間コース内で行う講師と受講者の対話)でも、同じことを言ったとしても言う講師の人柄などによって、その言葉のもつ意味が変わってきます。

インタビュアー:
講師としてその辺りの力を高めるにはどうしたら良いと思いますか。

茂貫さん:
これはヨーガでも一緒ですが、まずは自分がマインドフルになる練習、実践を行うことだと思います。そして、自分自身の体験をマインドフルに味わっていることです。それを通じてこそ、相手に伝わっていくのだと思います。Amir先生やRene先生といった方々と通訳業務を通じてご一緒させていただいてきましたが、ご本人たちの人柄がにじみ出ているのを感じます。シンプルな言葉で大事なことを伝えてくれます。これは経験があるからこそだと思います。なんというか、等身大であるということです。耳からだけでなく、毛穴から言葉が入ってくる感じです。言語を超えたところのコミュニケーションです。

インタビュアー:
マインドフルネスの実践を通じて、日常生活やお仕事で変わったことはありますか。

茂貫さん:
対話の中での「間」、を安心して取れるようになった感じがします。それまでは、相手の言ったことに急いで返事しないといけない、と思っていたのが、ちゃんと聞いていますよと受け取ることで、あせらずより相手と繋がりながら対話をすることが出来ているように思います。

インタビュアー:
私にも同じような体験があります。自分が対話のプロセスの一部であると感じていて、相手、自分、プロセスへの信頼が高まってくると、自分で全てをコントローしなくて良いというように思えて、より深い対話ができるようになってきている感じがします。

茂貫さん:
対話は話し手、聞き手の個人の持つ文化的なフィルターを通じて行われるものですよね。だから、同じ言葉が発せられて相手に届いても、違う解釈が生まれることがあります。例えば「状況を受け止めてください」という何気ない言葉一つでも、自己肯定感の低い人にとっては責められているような感じになったりするかもしれません。なので、言葉選びは細心の注意が必要とも言えるし、一方で、言語を超えたところで、対話の「間」や話し手の人柄なども、伝えることの重要な要素になります。

インタビュアー:
伝える言葉の問題というのはとても大事なテーマだと思います。
たとえば、ボディスキャンのスクリプトを作る中で、とある方との話で「宇宙のエネルギーを感じてみます」という言葉を入れるのはどうか、という議論がありました。私の好みとしてはあまりイメージを使わないのですが、この言葉も受け取り手によって、スピリチュアルに聞こえたり、物理学的に捉えれば科学的に聞こえたり様々です。唯一の正解はないのかなと思っています。ただ、最終的なところに行き着くために、たとえ同じ見解になったとしても、他の受講者の人と議論をして、揉んでいくことで、自分の中で熟成されて、自分自身にとって本当の言葉になるのではないかと思います。ですから、どの言葉を選ぶかも大事なのですが、その言葉を作っていくプロセスが必要不可欠で、そのために受講者どうしのコミュニケーションというのがとても大事だと感じます。

茂貫さん:
そうですね、等身大の自分が現れている言葉であることが大事だと思います。ですから、30人いれば30通りのボディスキャンがあってもいい

インタビュアー:
はい。ガイドではこのような言葉を使わない、こうした言葉を使う方がいいというセオリーもありますが、言う人の人柄、声の質、トーンなどによって、伝わり方は異なり、言葉は生きているので、唯一無二の正解はないと思います。

茂貫さん:
アメリカに行った頃は、海外で生活できることが有り難い体験だとおもって弱音ははいてはいけないと思っていたのですが、いま思えばちょっときつい思いをしていたのかなと思います。素直に自分のつらさに気づく余地を与えていなかった。今もうっかりするとその傾向に陥りやすいところはあります。周囲の人に「いつも元気で明るいね」と言われることから「どんな時も前向きでいないと」と言うポジティブさへの執着や先入観があって、それに囚われていたのではないかと思います。自分の中に生じるネガティブな気持ちも「そう言う時もあるよね〜」と内包してあげられることが真のポジティブだということにヨーガやマインドフルネス から教えてもらっています。先入観や期待感と言った自分自身の中に生じているそのような心のパターンに気づきながら、等身大の自分として生きていくために、マインドフルネスは助けになってくれると思います

インタビュアー:
本日はありがとうございました。


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