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ボディスキャンは難しい? 〜仲間とのボディスキャンの学び〜

MBSR(マインドフルネスストレス低減法)やMBCT(マインドフルネス認知療法)の基礎的な練習の一つである「ボディスキャン」。MBCTの講師資格を持つ筆者が、あらためてMBSRの講師トレーニングに参加して感じたことについて。

1.「ボディスキャン」は難しい?

皆さん、ボディスキャンをご存知でしょうか。ボディをスキャンするということなので、輪っか型のスキャナーを思い出すかもしれません。

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近からずと言えども遠からずです。ボディスキャンは、MBSRやMBCTの練習で最初に行う練習の一つで、これらのプログラムの最も基本的な練習の一つです。

多くの場合、仰向けになり行います(椅子に座って行ってもよい)。
通常、MBSRやMBCTでは45分程度を、ガイドに沿って行っていきます。横になっている身体を、左足の指先から、左足のすね、膝、太ももと一箇所ずつ注意を向け、次に右足のつま先から、同じくすね、膝、太ももを経て、胴体、両腕、頭、体全体という順番でやっていくのが一般的です。

聞いていると簡単そうですが、多くの方が、「難しい」と言います。そして、「苦手」という方も少なくありません。ただ、言われた通りに注意を向けていくだけなのですが、これがなかなか思うように行かないのです。足のところをガイドされているかと思えば、気がつくとガイドがお腹にいっていたり腕に行っていたりということがよくあります。これは、ガイドが飛んでいるのではなく、向けている注意が別のところに動いているということです。

例えば、車を運転していて、気がついたら目的地の近くまでついていた、という経験は皆さんにもあるのではないでしょうか?ボディスキャンで起きているのはこれです。

そして、そのさなかにしばしば眠ってしまうことがあることがよく起こります。そして、「ガイドを聞かずに寝てしまっていた。難しいことではないのに、なぜこんなことができないのか?」と、がっかりすることを多くの方が経験します。そして、また「自分は時間とお金をかけてこのコースに参加し、なぜこんなに意味不明なことをやっているのだろうか?」と思う人も少なくありません。

こういったことはマインドフルネスプログラムに参加する多くの人が通過する体験です。
私も例にもれず、「これは一体何だ?」「身体の感覚を感じるってどういうこと?」「また眠ってしまった」を繰り返したうちの一人です。

それが今では、この練習が多くの人にとって役に立つ練習だと思っているわけですが、それは、自分で練習を重ねたこともさることながら、教えるためのトレーニングを通じて自らに芽生えた好奇心によるところも大きな要素です。

※筆者はMBCT Trained Teacherの資格を取得後(Oxford Mindfulness Center)、MBSRではMindful Network(Bangor大学)のトレーニングおよび、IMAのMBSR講師養成@日本のトレーニングに参加しています。

2.ボディスキャンとはなんのための練習なのか?

それではボディスキャンの練習とはなんのために行われるものなのでしょうか。

結論から言うと、ご自身で体験していただくしか無いのですが、Susan Woods氏の近著”Mindfulness-Based Stress Reduction - Comprehensive Guide To Facilitating The 8-Week MBSR Program(未邦訳)”では以下のようなことが挙げられています。

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・身体の感覚に意図的に注意を向けるトレーニングであること
・注意を集中し、感覚を探り、注意を動かす練習であること。
・未来や過去の考えに容易にハイジャックされる自動操縦へ上手に関わること。

とても実践的で納得できることだと感じます(体験していないと、言葉で読んでもわかりづらいかもしれません。何より体験してみることが一番です)。

そして、MBSRの創始者であるJon Kabat Zinn博士が著書『マインドフルネスストレス低減法(原題:Full Catastrophe Living)』のなかで述べているのは、より抽象度の高いことですが、要約すると、ありのままの自分や状況を受け入れることを学ぶこと、ということです。

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※原文の内、一部訳されていないところがあります。


このことは瞑想全般で言われる練習に対する態度としても現れてきます。

意識がさまよう、眠ってしまう。それは自分でコントロールすることが難しいことです。それにも関わらず、「思ったように出来なかった」ことにがっかりし、「思ったようにならない」がゆえに、「苦手」と感じる方がたくさんいます。その、「思ったように出来ない」ことを受け入れ、そのときにがっかりすることも受け入れていく。そして、「何を思ったようにしないといけない」と思い込んでいるのかということにも気がつくかもしれません。そうして、長い目で見たときに、心の反応を含め、変えられないものを期待せずに受け入れていく練習と言えるでしょう。

また、もしかすると、こんなにも毎日の生活の中で、注意があちこちに動いていて、その発見はとても興味深いものかもしれません。「コントロールしないといけない」「眠ってはいけない」「感覚を感じないといけない」とそのようなものの見方で、状況に接していたんだなと。また、身体の感覚は、場所によって、またその時によって強く感じたり、弱く感じたり、感覚がないところがあったり。変動しているということにも気がつくかもしれません。

興味のある方は、ぜひ、前述の『マインドフルネスストレス低減法』の第5章を読んでみてください。


3.ボディスキャンを練習すること&教えることの難しさとは?

さて、このボディスキャンは、8週間コースのうち、早速第1週目に登場します。というわけで、IMA/IMCJのMBSR講師養成プログラムでも、4月に行ったModule1で集中的に取り組む課題となりました。

ボディスキャンのトレーニングは、大きくわけて、ガイドと、体験について語るインクワイアリー(マインドフルな対話)の部分に分けられます。そして、Module1では、主にガイドについて学んでいきました。

ガイドと言えば、スクリプトがあってそれを読めば良さそうにも聞こえますが、Module1の3日間をかけてボディスキャンのガイド一つを練習する(実際にはレーズンエクササイズや導入部分があったのでこれだけではありませんが)ということから、それだけで済む話ではないということはおわかりいただけるかと思います。

ボディスキャン一つでも、その裏に、さまざまな理論があります。
そして、受講者の皆さん(私も含めてですが)に課せられたのは、この3日間の練習だけではなく、6月のModule2に向けて、モジュール間もその学びをグループや個人で深めていただくという宿題です。
一体何がむずかしいのか?出来合いのスクリプトを読むだけではだめなのでしょうか?

これを理解するためには、ボディスキャンの練習の意図に立ち返る必要があります。先程ご紹介したように、ボディスキャンの練習の大きな目的の一つは、今この瞬間に意識を向け、そしてそこで起きていることを受け入れていくということです。

これを理屈ではなく、体験を通じて8週間コースの受講者の皆さんに理解して頂く必要があります。そのためには、言葉遣い(どのような体験をしてもよいということがわかる言葉)や、言葉を超えたところでは間のとり方や声のトーンなど、様々な要素があります。そして、それらについても、ロジカルに調整できるところもあれば、自分自身がボディスキャンの練習をすることによって得られる体験からのみ表現できるところもあるのです。

そのため、講師自身がまずはマインドフルネスの(一生涯)練習生として取り組んでいくことがとても重要なことになります。MBSRの講師養成がなぜ1年半にも渡って行われるのか、という質問をいただくことがありますが、それは、技術を教えるだけでなく、時間をともに成熟していく受講者自身の内なる学びが必要不可欠であるからです。

この点については、近いうちに稿を改めてご紹介したいと思います。


4.学び続ける事の大事さ

こうして、私自身、MBCTで学んだことを参考にしつつも、一度アンラーン(学んだことを一旦捨てて真っ更に)し、初心に立ち返って練習に取り組んでいます。そうすることで学ぶことは多いと感じています。

また、マインドフルネスは時代により少しずつ変化していっているところもあるため、常に学び続けることも必要だと感じます。

たとえば、Jon Kabat Zinn博士のオリジナルのボディスキャン音源では、yourという表現が随所に出てきます。日本語でいうと「あなたの腕に意識を向けて下さい」というような表現です。これは40年ほど前の音源になりますが、いまでは、yourはtheで置き換えるというのが基本的な考えになっています。というのは、「あなたの」「わたしの」という言葉が、直接的な体験を感じることの妨げになるという考えによります。ただ生じている感覚をそのままに感じていくために、the(その)を使うのです。

また、この考えに対しても、近年のTrauma Sensetive Mindfulnessの文脈ではむしろyourを使うケースもあるとされており、その時代ごとに学びが進む中で、マインドフルネスは変わってきていると言えるでしょう。

一度学べば終わり、ではなく、常にアンラーンし、何度も学び直すことが必要だと感じています。そのためには、先進的な事例で学ぶことも必要でしょうし、何より一緒に学ぶ仲間の大切さも感じています。私自身、これまで海外へ学びへ行くことが多かったのですが、モジュールごとで人が入れ替わるため、継続したコミュニティづくりが難しかったり、またモジュール間の継続的な学びは基本的に一人でやらざるを得ない状態でした。

今回は30名余りのともに学ぶ仲間がいますので、その中での情報交換ができますし、なにより、1年半のトレーニング修了後にも、一緒に新しい学びを続けて行くことができることを確信していて、とても頼もしく思っています。

6月のモジュール2で、またどのような学びがあるのか楽しみです。

MBSR講師養成プログラムについての詳細、今後のスケジュールはこちらより↓

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最後までご覧いただきありがとうございます。一緒にマインドフルネスを深めていきましょう。お気軽にご連絡下さい!