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医療とヨーガ、そしてマインドフルネスへ


マインドフルネスストレス低減法(MBSR)講師養成講座の受講者で医師、ヨーガ指導者の齊藤素子さんにお話をお伺いしました。
ヨーガ、マインドフルネスとの出会い、これまでの学びについてのお話です。

インタビュアー:井上清子、宮本賢也

1.医師としての仕事とヨーガとの出会い

インタビュアー:
まずはご職業や、ヨガ、マインドフルネスとの出会いについて教えて下さい。

齊藤さん:
現在は非常勤医師ですが、過去20年間は消化器外科医として勤務医をしていました。仕事の中には検査、手術、術後管理というところまでが含まれるのですが、大腸の内視鏡であるとか、男性仕様の機器を使うのに結構力がいるので、最初はスポーツクラブで筋トレを始めました。そうすると解剖で習ったように自分の身体がかわっていくので面白くなって、どんどんやっていたところ、身体が固くなってきたと感じました。何かストレッチをしたいと思って本屋に立ち寄った時に、ヨーガに出会って、やってみたら自分にあうと感じたので、そこからヨーガを始めました。その頃、夏休みが1週間とれるというので、せっかくなら連絡の取れないところに行こうと、タイのとある施設にいったら、そこでShri O.P. Tiwari先生が教えに来られていて呼吸法を含めてヨガを習いました。もともとは身体を柔らかくするために習ったのですが、爽快感だけではなくて、内側の静けさを感じて、そこに魅力を感じてヨーガを本格的に学び始めました

齊藤さんの運営・指導されているヨーガスタジオ(福井)

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2.がん患者の家族になったことで、自分自身を見つめ直して出会ったマインドフルネス”Being with Dying"プログラム

インタビュアー:
そこからマインドフルネスと出会ったのはどのような経緯だったのでしょうか。

齊藤さん:
現代医学だけではない、他の側面から患者さんをサポートできなかということで、ヨーガをセラピーとして使えないかということを考えました。それで、アメリカにヨーガを学びにいって、帰国したあとに統合医療を行っているクリニックで仕事をすることになり、そこの女性外来でヨーガやアーユルヴェーダを使って患者さんをサポートすることを始めました。これが2009-10年頃の話です。このころ、マインドフルネスという言葉は知っていたのですが、それを学んで病院でということは考えていませんでした。

最初にマインドフルネスをベースにしたプログラムを学んだのは、Joan Halifaxさんが始めたG.R.A.C.E(医療従事者のためのバーンアウト予防プログラム)や、Being with Dyingというプログラムです(書籍邦題「死にゆく人と共にあること」)。最初に知ったのは、知り合いでヨガをやっていた方がサンタフェのウパヤ禅センターでそのコースに参加しているということをFacebookにあげていたのを目にしたときでした。その時はこういうのがあるんだというくらいでした。

その後、父が肺がんになり、患者の家族として病院に関わるという、これまでの医師の立場と違う立場から医療に関わることになりました。その時に自分が医師として感じていた理想と大分違うという、医師目線と患者の家族目線でみた医療現場のギャップを感じて、自分自身のあり方を問いかけるようになったのです。その時に、Being with Dyingのことを思い出して、日本語書籍を読んで、すぐさま翌年にアメリカで行われる予定だったプログラムに申し込みをしました。ちょうど、その渡米前に国内でもその勉強会をしているということを聞いてそこにも参加しました。これがマインドフルネスとの出会いです。

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3.MBSRと出会い、エビデンスを伴うマインドフルネスの医療現場での活用可能性を感じた

インタビュアー:
こうしてマインドフルネスと出会われたのが5年ほど前で、そこからMBSRと出会うまでの5年間について教えて下さい。

齊藤さん:
MBSRの存在はいろいろな人から聞いて存在は知っていて興味はあったのですが、8週間学ぶにはスケジュールがなかなか合わずにいました。その中でも、医療現場で自分がヨーガを通じて伝えていきたいことがMBSRの中にあるのではないかという思いはありました。その頃、医療現場でヨーガをベース伝えていくことがなかなか理解されにくいという難しさを感じていて、なんとかしたいと思っていた頃に、ちょうどスケジュールの余裕もできたので、2020年の秋にMBSRを受講しました。

インタビュアー:
受講者として参加されたMBSRではどのような体験でしたか。

齊藤さん:
まずは、やっと学ぶことができるということが嬉しかったです。そして、MBSRは何か学ぶものというよりも、自分のあり方と向き合うもの、という感じがしました。マインドフルネスを深めるということがただ楽しかったです。

インタビュアー:
そうして、講師養成まで受講しようと思われたのはなぜだったあのでしょうか。

齊藤さん:
体験してみて、MBSRがプログラムとしてすごく練られたものと思いました。ヨーガを通じて伝えているものと共通しているものが沢山あると感じ、そこでプログラム化されていてエビデンスも整っているMBSRを資格を持って教えることができれば、伝えたいことを必要としている人によりよく伝えられるのではないかと思いました。8週間コースに受講者として参加したときには講師になることまでは考えていなかったのですが、終わる頃に案内を頂いてタイミングが良かったので講師養成にも参加することにしました。

インタビュアー:
ご自身がヨーガを通じて伝えたいこととMBSRの共通していることがあるというお話でしたが、それはどの辺りでしょうか。

齊藤さん:
外来に来られる方は、症状の強いところに意識が向きすぎて、元の症状よりも強くそれを感じてしまっている方が多いように感じています。それが、病状を複雑化していることも少なくありません。

ヨーガを通して、ありのままの身体の感覚や緊張、感情、思考などを冷静に観察し、自分の反応のパターンに気づいてまたありのままの身体の感覚と状態に意識的に戻ろうと試みる・・・。その繰り返しの中で、ご自分で付け足しているものがあること、それが症状を強くしていること、そしてそれを和らげることが出来ることに自ら気づけるようになります。痛みそのものは取り除くことは出来なくても、その周りの増幅させている苦しさの部分には自分自身で対処のしようがあると気づくことは、大きな安心感につながります。そして、自分自身の中に安心出来るスペースを見つけることが、症状を生み出している原因に気づく余裕を与えることにもつながり、結果として、気づいたら症状が楽になっていた・・・、そのようなことを経験される方がとても多いことに、お伝えしている私自身が驚いています。心の在り方がいかに身体に影響を与えているか、またその逆もしかりということを臨床現場で実感しています

MBSRは8週間を通じて、プログラムの中で、段階的にそれを学んでいけるシステムになっていると感じました。外来の患者さんに一対一で伝えるというのとは微妙に違いますが、グループで同じような悩みを持つ方々に一緒にお伝えするという点ではMBSRのメリットが有るのではないかと思っています。MBSRを提供することが自分自身の幅を広げることにもなると思いました。

そこで一つのポイントは、これまで学んできたヨーガとMBSRをそれぞれの良さを保ったまま提供することです。様々なものを自分流にミックスするのではなく、それぞれの本質的なものを大事にして、薄めずに伝えていくということを大切にしています。これまでヨーガで学んだことは一旦横において、MBSRそのものをしっかり学んでいくということが必要だと思います。ヨーガとMBSRの両方に敬意を払って、それぞれ学び伝えていくことが大切だと思っています。その点で、いまは自分のなかで、その辺りの整理が必要だと感じています。

4.ボディスキャン練習での失敗とそこからの学び

インタビュアー:
4月にモジュール1が行われ、いまはモジュール2に向けて個人練習や、ボディスキャンのスクリプトづくり、ピアグループでの練習などを行っていただいていますが、如何でしょうか。

齊藤さん:
ボディスキャンについてこんなに真剣に内容を見直したり、ガイドしたり受けたりということはありませんでした。最初は、しっかりやらないといけない、と思って、いろいろな先生のガイドを聞いて、いいところをスクリプトに詰め込んだのですが、上手く行かない部分がありました。そうして思ったのは、ガイドというのは、受ける方の気づきを促すための一つの刺激というようなものであって、それで何か相手を変えようとかそういうものではないのではないかということです。ここは外してはいけないというポイントはあると思うのですが、その最低限のところを抑えたら、その先は自分自身の内側から出てくる言葉を大切にする。そこに正しいとか正しくないというのではないのではないかと思うようになりました。受ける方からのいろいろな反応もありますが、ある程度吹っ切れてきた感じがします。

インタビュアー:
私自身が感じているのは、講師が全てをやらなければということではなく、講師も受講者との学びのプロセスの一部だということです。完璧に教えなければならないというより、それは逆に言うと受講者の方のもつ気づきの力を信頼する、ということなのではないかと思います。

今回のプログラムは正解を与えられてこの通りにやってください、というものではないので、ご自身が真剣に取り組んでこられたからこそ、試行錯誤して本質的なところを学ばれている、というような印象を受けました。他の受講者の方も、いろいろな本をみて、ここにはこう書いてある、こちらにはこう書いてあるがどうか、というような話をされています。
皆さん体当たりで、最初は沢山スクリプトに盛り込んで、だんだん削ぎ落として大事なものが残っていくというプロセスを踏んでいるようです。

齊藤さん:
最初に受講者同士ペアの練習をする機会が設定されていましたよね。この時に自分が行ったボディスキャンのガイドが、相手の方にとって辛い体験になったという出来事ことがありました。あれもこれもと盛り込みすぎて、相手の方にとって追いかけられたようなガイドになってしまったようでした。初回だったので実験的にやってみるという気持ちもあったり、オンラインで相手の微妙な反応が見えづらいという難しさもあったりもしたのですが、自分自身の配慮も足りなかったのかなと思っています。相手の方を想定して、細かくガイドをアレンジをしたのですが、それが裏目に出た感じでした。自分の思い込みや、過度にこだわっていた部分があったのだと思います。

それで、再度、MBSRというのはグループに対して提供するものなので、その前提で、それぞれの受講者の方が自ら気づくようなガイドをするように組立をする必要があるんだ、とハッと気づきました。
それから、3人以上の方に受けていただいて練習を繰り返しています(※)。45分という目安の時間どおりに収まらず、気がついたら一時間くらいやっていたというようなこともありました。

(※)モジュール1と2の間に、モジュール1で学んだボディスキャンを3名以上の方にやってフィードバックをもらうという宿題があります。

5.受講者仲間との学びから得られた視点の変換

インタビュアー:
いまおっしゃっていただいたように、教科書に書いてあることから学ぶということではなくて、体験を通じて自分の内側から一歩一歩学んでいくのが大事なのではないかと思います。いま素子さんのお話をお伺いして、自分自身、学びにとって何が大事なのだろうということを感じさせられました。
こういう体験を通じて、マインドフルネスも相手の方を傷つける可能性がゼロではない、ということを体感的に知っておくのは大事なことだと思います。

齊藤さん:
最初の相手の方からのフィードバックを受けたときはショックな部分もありましたが、その方には、フィードバック頂いた内容を盛り込んだガイドを改めて受けていただくお願いをして、快く引き受けていただきました。一旦作ったガイドは横において、自分の体験からガイドするというようなスタイルにしました。

インタビュアー:
そういうプロセスを経て、借り物ではなく自然と自分の中から言葉が紡ぎ出されてくるのではないでしょうか。

齊藤さん:
30人の受講者仲間がいて、皆さん、言葉の選び方など注意を払っていると思いました。私は割とその辺りはアバウトだったなと感じる所もあります。私の場合は、普段、細かい言葉のニュアンスより、大きな意味で理解していっています。それが、多くの人は言葉のニュアンス一つで思考の方向が変わるのだな、ということにも気が付きました

インタビュアー:
それも仲間と学ぶ中でこそ、違う人同士で学んでいるからこそ、ハッと気づくことなのかなと思います。こうして試行錯誤されて、ご自身の体験から教えることを学んでいらっしゃることがわかりました。私自身、このよう深く体験をしている先生に習いたいと思いました。ただ資格をもっているということではなくて、どのようなプロセスで学ばれているか、ということもとても大事な要素だと感じました。

本日はありがとうございました。

MBSR講師養成/8週間プログラムは以下より

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