英語がわかると視野が広がる、ともかぎらない
日本語は日本に固有の言語で、通じる範囲が狭い。英語は世界の共通語と言われるだけあって、通じる範囲は広い。だから、英語を理解できると世界が広くなる、と考えられがちだ。
でも、よ~く観察していると、かならずしもそうでもないような気がする。もしかしたらカナダがそうだというだけで、英語圏全体に一般化できないかもしれないが、バンクーバーで暮らしているかぎり、英語では主に西欧圏のことしか聞こえてこないようなのだ。
もちろん世界の細々とした時事ニュースはあるし、テーマを絞ると、たとえば禅の思想を取り入れたマインドフルネスなどは話題になる。でも、もっと日常と結びつく全般的なこととなると、何にしても、英語の話し手が参考にするために目を向けるのは、基本的にアメリカと西ヨーロッパと、ときどきオセアニアだけなようだ。
たとえば、カナダは慢性の医療崩壊状態(※)で、なんとかしなければならない、他国を参考にしなければならないとしきりに叫ばれている。でも、そのときに参考にする例にあがるのは、イギリスやオーストラリアやヨーロッパ諸国だ。日本の医療制度は世界的に見てもかなり良いものだと思うし、台湾もどうもそうらしい。でも、英語ではごくまれにちらりとしか触れられない。
それはそれで、英語だけを聞いているとある種の閉塞感がある。世界はもっと広いのに、と思う。
英語がわかると便利なことはまちがいないだろう。たとえば、今まさにアルテミス計画から始まろうとしているルナー・ゲートウェイ・プロジェクトに参加しようと思えば、英語が必要だ。でも、英語がわかっても、視野がそれほど広がるわけではないかもしれない。
むしろ、英語がわかったうえで日本語の視点の強みを知っていると、西欧とアジアの2つ視点から眺められるようになり、英語しかわからない人と比べて、奥行きのある世界が見えるかもしれない。
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※:あまり知られていないが、2022年夏の現時点で、カナダでは5人に1人が医療にかかれない。かかるにはファミリードクターと呼ばれる窓口から医療機関に紹介してもらう必要があるのだが、そのファミリードクターが不足しているためだ。比較のために、アメリカでは経済的に苦しくて医療保険に入れずに医療を受けられない人が、オバマケアが導入される前までは5人に1人だったのが、オバマケアが導入された現在は10人に1人くらいのはずだ。
参考資料:
国際宇宙ステーション(ISS)計画とアルテミス計画の概要(2021年6月30日 文部科学省研究開発局):
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/20210630-mxt_uchukai01-000016486_3.pdf
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