障がい者に対応したハザードマップ(1)
今回と次回は、障がい者に対応したハザードマップについて、2回に分けてお話したいと思います。
障がい者に対応した水害ハザードマップの作成率は2.6%
国土交通省が2021年の6、7月に行った調査によると、障がい者に対応した水害ハザードマップを「作成済み」の自治体は16都道府県の41市区町村にとどまります。これは、調査に応じた1591自治体の2.6%にしかなりません。「作成中・検討中」も53市町村(3.3%)だけで、ほとんどの自治体(1471自治体・92.5%)は「作成の予定なし」という回答でした。
障がい者に対応したハザードマップの伝達手法
障がい者に対応したハザードマップの伝達手法としては、
点字によるハザードマップ
音声によるハザードマップ
音声(デイジー)によるハザードマップ
音声(Uni-Voice)によるハザードマップ
点図によるハザードマップ
立体地図によるハザードマップ
触地図によるハザードマップ
手話によるハザードマップ
やさしい日本語によるハザードマップ
などがあります。
点字によるハザードマップの事例
ハザードマップの内容を点字で表記したものです。
新潟県長岡市
地区ごとの浸水の深さなどを点字で表記し、配布しています。
参考文献など
長岡市 市政だより令和3年7月号.水害から逃げ遅れゼロへ.2021年7月1日.(参照日2022年9月25日)
ながおか防災ホームページ.ハザードマップ 洪水ハザードマップ(水防法に基づく).(参照日2022年9月25日)
日本経済新聞.障害者向け水害マップ作成、市区町村2.6%どまり.2022年1月24日.(参照日2022年9月25日)
音声によるハザードマップの事例
ハザードマップの内容をCDなどに録音したものです。
京都府福知山市
地区ごとの浸水の深さなどを録音した音声を、市のホームページで公開しています。
参考文献など
国土交通省 第1回ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会.資料7-1ハザードマップに関する現状と課題.令和3年12月23日.(参照日2022年9月25日)
福知山市.福知山市総合防災ハザードマップ.2021年10月8日.(参照日2022年9月25日)
新潟県長岡市
地区ごとの浸水の深さなどをCDに録音し、配布してます。CDには、一般CDとデイジー(DAISY)CDとがあります。デイジーとは読み上げ音声付きデジタル書籍の世界標準仕様です。デジタルデータであることから、聞きたい箇所を選択して聞くことができ、目次や索引から読みたいページへ飛ぶことや読み上げ速度も自由に変えることが可能です。
参考文献など
国土交通省 第1回ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会.資料7-1ハザードマップに関する現状と課題.令和3年12月23日.(参照日2022年9月25日)
長岡市 市政だより令和3年7月号.水害から逃げ遅れゼロへ.2021年7月1日.(参照日2022年9月25日)
ながおか防災ホームページ.ハザードマップ 洪水ハザードマップ(水防法に基づく).(参照日2022年9月25日)
広島県「呉市視覚障害者協会」
広島県の「呉市視覚障害者協会」では、朗読ボランティアが土砂災害ハザードマップの内容を音声デイジー形式でCDに収録しました。朗読ボランティアは、視覚障害者協会の会員、1人1人の自宅の危険性がわかるよう、住んでいる地域の様子、自宅が危険かどうか、近くの避難所などについて録音したCDを、会員の自宅に郵送しました。また,協会主催の勉強会では,視覚障がい者にボランティアがマンツーマンで付き,視覚障がい者らが自宅近くの避難所の場所や自宅が土砂災害警戒区域に入っているかを確かめました。
参考文献など
点字毎日.つながる力、防災再考/9 ハザードマップをめぐって.2020年1月19日.(参照日2022年9月25日)
毎日新聞.社説 視覚障害者と防災情報 きちんと伝わる仕組みに.2019年12月22日.(参照日2022年9月25日)
読売新聞 防災ニッポン+.触って浸水場所、深さが分かる!視覚障害者用ハザードマップ.2021年9月30日.(参照日2022年9月25日)
NHK.災害列島 命を守る情報サイト 特集記事 相次ぐ災害 教訓を忘れないために せめてハザードマップを聞かせてほしい.2019年12月6日.(参照日2022年9月25日)
東京都葛飾区
葛飾区水害ハザードマップ【解説編】では、葛飾区を西部、南部、東部の3つの地区に分け、ハザードマップの降雨条件、各地区の浸水リスク、避難行動などがわかるよう、Uni-Voiceの音声コードが記載されています。Uni-Voiceとはスマートフォン専用アプリで、音声コードを読み取ることで、情報を音声にすることができます。
参考文献など
葛飾区.葛飾区水害ハザードマップ(令和4年発行) 葛飾区水害ハザードマップ【解説編】.2022年7月6日.(参照日2022年9月25日)
国土交通省 第1回ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会.資料7-1ハザードマップに関する現状と課題.令和3年12月23日.(参照日2022年9月25日)
点図によるハザードマップの事例
点図とは、紙面に突起した点(凸点)と点字によって表現された地図です。
長野県長野市に住む全盲の方
2019年10月の台風19号による豪雨を経験した、長野市に住む全盲の池田純さんは、点図のハードマップを作製しました。浸水深、避難経路、主要道路などが、凸点と点字によって表現されています。
参考文献など
国土交通省 第1回ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会.資料7-1ハザードマップに関する現状と課題.令和3年12月23日.(参照日2022年9月25日)
NHK.読むらじる。視覚障害者向けのハザードマップ 点図、そして立体地図への試み.2020年3月10日.(参照日2022年9月25日)
立体地図によるハザードマップの事例
地形の立体模型を作り、それにハザードエリアなどを表現したハザードマップです。
国立大学法人名古屋工業大学
国立大学法人名古屋工業大学の橋本芳宏教授のグループは,視覚障がい者向けの、水害時の危険区域を表現した立体ハザードマップの作製に取り組んでいます。
国土地理院が公開する基盤地図情報を引用し、ABS樹脂を用いて精密工作機械で作製した地形の立体模型に、塩化ビニールで作製した避難路となる道路網を被せ、標高別に色分けをしました。縮尺は6000分の1で,標高は5倍に強調しています。視覚障がい者だけでなく晴眼者にとっても、直感的に水害時の危険区域を認識することができます。
参考文献など
名古屋工業大学.橋本芳宏 視覚障碍者向け立体ハザードマップ.2019年11月1日.(参照日2022年9月25日)
触地図によるハザードマップの事例
触地図とは、道路、鉄道、河川などを浮き上がらせ、点字が組み込まれた地図です。
三重県志摩市・NPO法人「日本災害救援ボランティアネットワーク」
志摩市は、平成25年3月に、津波ハザードマップを作成し、これに対応した視覚障がい者向けの津波浸水予測図(「さわるハザードマップ」)をNPO法人「日本災害救援ボランティアネットワーク」監事の荻野茂樹さんの協力を得て試作しました。(注:令和3年3月に津波ハザードマップは更新されています。)
「さわるハザードマップ」は、ハザードマップに、引いた線が盛り上がるペンなどを使い、手で触って海岸線や浸水区域を判読できるようになっていて、避難所などは消しゴムを使うなどして立体的に表現しています。身近なところで手に入る材料で作製されていて、簡単に作れるようになっています。
市は平成25年6月10日、外出の付き添いや音訳のボランティアなどをしている人を対象に講習会を開催し、「さわるハザードマップ」を作製しました。この日作製された「さわるハザードマップ」は、市役所各支所や市社会福祉協議会に設置し、見に来た人に触ってもらったり、障がいがある人の自宅を訪問するボランティアに持参してもらい活用されました。
参考文献など
朝日新聞.防災みえ 地域を守る 津波避難 備える.2013年6月13日.(参照日2022年9月25日)
共同通信.デザイナーが「触るハザードマップ」を作るまで 雑誌の仕事で福祉に関心、そして防災へ.2019年10月18日.(参照日2022年7月31日)
広報しま.さわる!ハザードマップ~視覚障がい者用津波浸水予測図~.2013.7.Vol.159.(参照日2022年9月25日)
点字毎日.つながる力、防災再考/9 ハザードマップをめぐって.2020年1月19日.(参照日2022年9月25日)
毎日新聞.社説 視覚障害者と防災情報 きちんと伝わる仕組みに.2019年12月22日.(参照日2022年9月25日)
兵庫県西宮市・NPO法人「日本災害救援ボランティアネットワーク」
NPO法人「日本災害救援ボランティアネットワーク」監事の萩野茂樹さんは、志摩市で作製した「さわるハザードマップ」と同様の手法で、視覚障がい者向けの津波浸水予測図(「さわるハザードマップ」)を作成し、2019年、兵庫県の西宮市、尼崎市、芦屋市に贈呈しました。
西宮市は、西宮市、尼崎市、芦屋市の視覚障がい当事者と介助者を対象に、「さわるハザードマップ」を使ったワークショップを開き、視覚障がい者が、介助者のサポートを受け、自宅周辺の状況を手で確かめました。
「さわるハザードマップ」への関心は高く、岡山や高知から問い合わせがあり、サンプルを送りました。
参考文献など
荻野茂樹.12月16日の西宮市での、視覚障害当事者への防災講演の為に西宮市のさわるハザードマップ試作。明日の打ち合わせに持参。.2019年10月7日午後7:54 tweet.(参照日2022年9月25日)
荻野茂樹.12/16、西宮市市役所で西宮市、尼崎市、芦屋市の視覚障害当事者と介助者約70人に防災ワークショップを開催。災害時のガレキを想定した避難体験ほか、の3市のさわるハザードマップを作成して体験していただいた。.2019年12月18日午前6:45 tweet.(参照日2022年9月25日)
点字毎日.つながる力、防災再考/9 ハザードマップをめぐって.2020年1月19日.(参照日2022年9月25日)
毎日新聞.社説 視覚障害者と防災情報 きちんと伝わる仕組みに.2019年12月22日.(参照日2022年9月25日)
長野工業高等専門学校
前述したように、長野市に住む全盲の池田純さんは、点図のハザードマップを作製しましたが、点で示すことができる情報量には限界があるため、長野工業高等専門学校の藤沢教授に、触っただけで直感的にわかるハザードマップを作製できないかと、相談しました。
そこで、藤沢教授は厚さ5mmの透明のアクリル板二枚を使ったハザードマップを考案しました。一枚に道路や建物、避難所などの場所を凹凸で示し、もう一枚に浸水リスクに応じて凹凸に濃淡をつけることで情報量が集中しないようにしました。
また、藤沢教授は2022年1月、全国のハザードマップのデータを読み取り、自動でアクリル板に凹凸をつけられるソフトウエアも開発しました。今後、改良し、2022年度内を目標に全国の視覚障がい者やボランティア団体に公開したいとしています。
参考文献など
中日新聞.視覚障害者の避難に触れれば分かる浸水立体マップ 長野高専・藤沢教授.2022年5月21日.(参照日2022年9月25日)
毎日新聞.水害危険度、触れて知る 視覚障害者向け立体型ハザードマップ 長野工専・藤沢教授が取り組み.2022年4月29日.(参照日2022年9月25日)
読売新聞 防災ニッポン+.触って浸水場所、深さが分かる!視覚障害者用ハザードマップ.2021年9月30日.(参照日2022年9月25日)
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
来週はこの続き「災害弱者を守るためには 障がい者に対応したハザードマップ(2)」について、書きたいと思います。よろしくお願いいたします。