夫が死んで一週間が経った。世の中は何事もなかったかのように動いている。

どうして、こんなにも世界が変わってしまったのに、みんなは普通に生きていけるのだろう。道ゆく人の呑気な顔が憎らしかった。

義理の両親が来た。夜ご飯を一緒に食べる。

なんとなく、告別式や戒名の話になる。

私は、O住職がつけてくれた戒名に、彼のエッセンスが散りばめられている気がして、嬉しく思っていた。そんな喜びをみんなで共有したかった。

「なんかさぁ、女っぽいんだよね。息子らしい名前ではないんだよねぇ、なんか。」

義父が言った。期待とは真逆の言葉に、私は目の前が真っ暗になった。

何言ってるの?嘘でしょ。と言葉を失いまばたきを繰り返す私をみながら、義父は続けた。

「あのお坊さん、我々の祖先の戒名も聞き出してさ、息子の名前の漢字も入れ込んでさ、なんか上手くやられたって感じだよね。」

え?なんで?

なんで?お葬儀屋に紹介された適当なお寺の宗派も違うお坊さんじゃ夫の申し訳ないと思って、知り合いの同じ宗派のお坊さんにわざわざお願いしたのに、なんでそんなこというの?

Oさんはすぐに駆けつけてくれて、家族全員に彼の人柄について聞いてくれて、一生懸命考えて戒名をつけてくれたのに、なんでそんなこと言うの?

適当なお坊さんじゃ、彼の人柄も知らずに適当な戒名をつけられただけだろうに、そっちの方がよかったの?

なんで、丁寧につけてもらった戒名に文句しかないの?

私だって混乱してる中、良かれと思ってOさんにお願いしたのにどうしてそんな言い方するの?

なんで人の努力を踏みにじるの?

私は込み上げてくる、燃えるような怒りを飲み込んだ。飲み込んでも、また吐き出したくなっては必死に飲み込んで、黙ってききながら、拳を強く握った。

私の拳はどこにも向かう先がなく、自分の心をボコボコに殴り出した。






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