冷たい額
いつの間にか葬儀の司会者が司会を始めていた。葬儀が始まったのだ。
彼の名前が読み上げられる。
お経が読み上げられる。
O住職の声の波動が心臓に響く。
私と子供たちが最初に焼香する。煙が上がっていく。
手を合わせ、目を瞑った。
何で私はここにいるのだろう。どこをどう間違って、こうなってしまったのだろう。私がしてしまった何かでこういうことになったのなら、取り返せるのであれば取り返したい。取り返して、やり直すからどうか彼を返して。あの時、喧嘩したから?あの時、もっとケアしてあげなかったから?改心して、喧嘩などせずに、彼の健康にもっと気遣って暮らすから、どうか彼を返してください。本当にごめんなさい。お願いします。
一通りの焼香が終わり、彼の肉体にさようならをする時が来た。私はTシャツと短パンを彼の胴体と下半身に被せた。思い出の写真と、台本を入れる。その周りを埋めるように、みんなが花首を入れる。花に蹲って、笑い皺の消えたのっぺりとした顔だけが浮いている。この身体は、誰?
彼のおでこに最後のキスをした。氷のように冷たかった。
この身体は、もう私の知っている彼ではない。
心のどこかで身体を焼くことへの抵抗がスゥッと消えていった。
お疲れ様。ありがとう。
私はその身体に向かって言った。
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