大迷惑

気づくと空はピンクに染まっていた。起きてしまった自分に絶望した。

どうして私だけ生き続けなければいけないのだろうか。

死にたい。

とつぶやいた。夫が死んで初めてはっきりと、その言葉を口にした。

しばらく絶望の沼の中で動けずにいると、電話が鳴った。

昔一緒に働いていたNちゃんだ。彼女は私の一回り上の女性だが年齢不詳で、当時の私より若いのではと思うくらい透き通る肌をしていた。当時働いていたベンチャー企業の創業人の一人だったが、本当に不思議な人で、いつも心を読まれているのではないかと疑うくらい絶妙なタイミングで絶妙な行動を取る人だった。猫のような人で、ヒステリックに怒ることもあれば聖母のように優しく共にいてくれることもあり、私は彼女をNちゃんと呼んでいつしか仕事以外の相談をしたり、子供を産んでからも夫婦で会いに行ったりしていた。

「もしもし?」なぜか少し怒った感じで電話かかってきた。

「あ、もしもし、Nちゃん、電話ありがとう。」涙が込み上げてきた。

「何、まだ泣いてんの?」

私は混乱した。え、あ、Nちゃんは夫が死んだのを知らないのかな?え、でも今日斎場にNちゃんからのお花が飾ってあったし、、

「え、だって彼が死んじゃったんだよ。。」

「知ってるよ。」

「私のせいで死んだの。私がちゃんと気づかなかったから。私がちゃんと彼の体調管理してこなかったから。私のせいで死んじゃったよ、Nちゃん、どうしよう。」

「ねぇ、何いってるの?目を覚まして。そんな風に自分を責めて何が楽しいの?そんなの彼の自己管理の問題だから。あいつまじ何やってるの。小さな子供二人とあなたを残して。ダメだよ。全然自己管理がなってない。まずはそうやって自分を責めるのをやめなさい。そんなの悪魔の思う壺だよ。」

「でも、そうじゃないの、私がいけなかったの。」

うじうじ続けていると、Nちゃんはますます声のトーンを強めていった。

「いい?今から墨と筆を出して。半紙を前に置いて、「大迷惑」って大きく書いて。ほんとありえないから。来る人来る人みんな生前には言わなかったような彼の素晴らしいことばっかり言ってきたりしてるんでしょ。本当に惜しい人を亡くした、とか、彼の素晴らしいエピソードばっかりずっと聞かされてるんでしょ。そりゃ自分を責めたくなるけどさ、違うから。そういう話ばっかり聞いてちゃダメだよ。あなたのお父様だってきっと怒ってるよ。大事な娘を嫁に出したのに、未亡人にさせられちゃってさ。小さな子供二人も残してほんとありえないから。いい、本当にちゃんと書いてよ。大迷惑って大きな字で書いて、そこら中に貼っておきなさい!」

と一気に捲し立てた。

「じゃあね、また電話するから。とにかく早く書きなさいよ。」

と言われて、電話が切れた。

私はキョトンとしたまま電話を置いた。


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